(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2015/03/12を更新)
CRISPR-Cas9技術によるヒト生殖細胞のゲノム改変を議論する会合が、1月24日にナパで開催された.その結論が3月19日Scienceオンライン版の記事の副題に凝縮されている:"ヒトゲノム操作へのCRISPR-Cas9の適用をオープンに議論する(open disclosure)フレームワークを至急用意する必要がある."
  • この会合はUC BerkeleyのInnovative Genomics Initiative(IGI)が主催した.記事は、逆転写酵素の発見でノーベル生理医学賞を受賞したD. Baltimoreを筆頭著者とし、ノーベル化学賞受賞者であり組み換えDNA研究のガイドラインが整えたアシロマ会議の主催者の一人であるP. Bergが続き、IGIの代表者でありCRISPR-Cas9研究の第一人者の一人であるJ. A. Doudnaがcorresponding authorとなっている.ヒトゲノム操作に積極的な発言をしているG. Churchは会合に参加しなかったが著者に加わっている.
  • DNA配列決定技術とゲノムワイド関連解析(GWAS)から得られるゲノム情報に基づいて遺伝子を改変することが、CRISPR-Cas9技術によって現実のものになった.
  • CRISPR-Cas9を始めとするゲノム編集技術は、体細胞のゲノム編集の止まらず、マウスとサルにおいて生殖細胞のゲノム編集に適用された.ヒトもその例外ではない.
  • ゲノム編集技術の安全性と有効性が確保されたとすれば、残る問いは、「重篤な疾患の治療へのゲノム編集技術の適用は許されるか、許されるとすれば、その適用条件は」となる.
  • 現在は、CRISPR-Cas9技術のリスクを理解し制御する必要がある段階である.オフターゲット編集の問題やオンターゲット編集がもたらす予期せぬ効果などについて完全に理解できるまでは、ヒトゲノムを編集すべきではない.しかし、技術が急速に進歩していることから、科学者、臨床医、社会学者、一般、関連する公的機関や患者団体などの広範な集団でヒトゲノム改変のメリットとリスクについて、オープンな議論を至急始める必要がある.
  • また、以下の行動が必要である:議論の結論が出るまで、関連する法が整備されていない国々においても、臨床応用を目指した生殖細胞のゲノム改変を抑止する.CRISPR-Cas9がもたらすものについて情報提供と教育を広げる学者と生命倫理の専門家からなるフォーラムを設ける.CRISPR-Cas9ゲノム編集技術による生殖細胞のゲノム編集の有効性と特異性を評価する透明性のある研究を推進する.科学者から規制機関まで広範な専門家を招集して議論し、関連実験研究と応用に関する指針を提示する.
  • 組み換えDNA技術の黎明期に得た最も重要な教訓は、「議論を透明かつ開かれた形で進めることによって、科学は社会に受容される」ということであった.
[注1] 著者とCRISPR-Cas9技術関連企業との関係
 J. A. Doudna、M. Jinek & G. Church:Caribou Biosciences.  J. A. DoudnaとG. Church: Editas Medecine
 G. Church: Sigma-Aldrich.  D. CarrollRecombinetics.  E. PenhoetAlta Patners
[注2] 著者とCRISPR-Cas9技術関連特許 
 G. Church: Cas9のヒト細胞への適用とオフターゲット抑制(ハーバード大学) 
 J. A. Doudna: CRISPR-Cas9によるゲノム工学(カルフォルニア大学) 
 J. S. Weissmann: CRISPRスクリーニング技術(UCSF, UC Berkeley及びHHMI
[注3] ナパ会合は、生殖細胞の核DNAの編集を対象とし、すでに、議論が進んでいるミトコンドリア移植は対象としなかった.