1. CRISPRタイプI-Dヌクレアーゼによるヒト細胞のゲノム編集
[出典] "Genome editing in mammals using CRISPR type I-D nuclease" Osakabe K, Wada N, Murakami E, Osakabe Y. (bioRixv. 2020-03-18) Nucleic Acids Res 2021-06-21. 
https://doi.org/10.1093/nar/gkab348

 CRISPR/Casシステムの大勢を占めるタイプIは、Cascade複合体内 [*]のCas3ヌクレアーゼが標的DNAを分解することが知られているが、サブタイプI-D (以下, TiD)のCascade複合体はCas3ヌクレアーゼを欠損している:
構成: Cas3d-Cas10d-Cas7d-Cas5d-Cas6d-Cas4-Cas1-Cas2-CRISPRアレイ
[*] カスケードとCRISPR (Cascade and CRISPR). PDBj入門:PDBjの生体高分子学習ポータルサイト「今月の分子」著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

 徳島大学の研究チームは今回、Microcystis aeruginosa 由来のTiDではCas10dヌクレアーゼがPAMの認識から標的DNAの分解までを担うことを明らかにした。また、TiDによってヒト細胞のゲノムDNAの標的部位に、長い領域の削除と短い配列の挿入・欠失を誘導可能なことを示した。さらに、TiDのオフターゲット編集は、TiDのプロトスペーサのミスマッチの位置に依存することも見いだした。

2.サブタイプI-DのDNA切断活性は、タイプIとタイプIIIのハイブリッド
[出典] "DNA targeting by subtype I-D CRISPR–Cas shows type I and type III features" Lin J, Fuglsang A [..] Peng X. Nucleic Acids Res. 2020-09-22

 CRISPR-Casシステムはエフェクター複合体をベースとして6種類のタイプに分類されている。特異的にdsDNAを切断するタイプI, IIおよびV、専らssRNAを切断するタイプVI, または標的ssRNAとともに転写進行中のssDNAの切断およびssRNAの無差別な切断 (コラテラル活性)を帯びたタイプIII [*]の6種類であった。
[*] crisp_bio 2020-07-29 [レビュー] タイプIII CRISPR-Casに特徴的なRNA/DNA切断活性の構造基盤

Type I-D コペンハーゲン大学の研究グループは今回、Sulfolobus islandicus LAL14/1由来のサブタイプI-D (以下, TiD)が、タイプIIIにみられようなCas10様のサブユニットCas10dを帯び、dsDNAとssDNAの双方を切断することを発見した [S. islandicusのTiDの遺伝子座の構造についてFigure 1の A を引用した右図参照]。
  • Fig.4TiDは、一つには、Cas10dのHDドメインの活性, ヘリカーゼ3d'の触媒活性、および、PAMの相補性に依存して、標的dsDNAを切断する [Figure 4引用右図参照]。
  • TiDは、加えて、PAM非依存でcrRNAに相補的なssDNAを切断する 。このssDNA切断は、エフェクターのバックボーンであるCsc2(Cas7)サブユニットで触媒され、6-nt間隔に進行する。
  • TiDは、Cas10dを帯び、タイプIに典型的なdsDNA切断活性に加えて、タイプIIIエフェクタのssRNA切断と同様に、周期的にssDNAを切断する活性を帯びていることから、TiDは、タイプIIIからタイプIへ進化する中間段階に位置づけられるとした。