[出典] "Engineering domain-inlaid SaCas9 adenine base editors with reduced RNA off-targets and increased on-target DNA editing" Nguyen Tran, MT, Mohd Khalid MKN, Wang Q. et al. Nat Commun. 2020-09-25

[crisp_bio注] 文中の [#n] は、原論文のreferencesの番号

背景
  • C-to-T変換を実現するCBEは、Cas9n (D10A)とCas9n 脊椎動物由来のシトシンデアミナーゼ (APOBECとAID) [#3]または無脊椎動物 (pmCDA1; Target-AID) [#2]をベースとする。
  • A-to-G変換を実現するABEの進化版のABEmax [#4, #5] は、Cas9nと大腸菌 (E. coli)由来のアデノシンデアミナーゼecTadAとその変異型ecTadA*のヘテロ二量体をベースとする。
  • CBEとABEはいずれも二本鎖DNA切断 (DSB)を回避する編集であることから、NHEJを介した標的部位への望ましくない変異誘導は抑制される。一方で、CBEとABEが初めて発表されて以後に、トランスクリプトーム・ワイドにオフターゲット編集が誘導され、ひいてはミスセンスおよびナンセンス変異が誘導されることが指摘された [#8]
  • これまでに、CBEについてもABEのオフターゲット編集活性を抑制する工夫が重ねられてきた。ABEの場合は、ecTadAとecTadA*への変異誘導 [#9]や、ABEmaxからのecTadA除去 (miniABEmax [#10])といったデアミナーゼの改変による効果が示されてきた。また、循環置換 (circular permutation; CP)を介したSpCas9の進化[#12]や、SpyCas9のN末端またはC末端ではなく、内部のドメインにデアミナーゼを配置することで (domain-inlaid) [#13]、CBEそしてまたはABEの性能向上が図られてきた。
研究成果
  • University of Tasmania, University of MelbourneおよびUniversity of Sydneyの研究グループは始めに、SpCas9をベースにしたCBEとABEに対するCPの効果とdomain-inlaid (以下、intradomain/ID)の効果を見た。CBE
  • CBEでは、コンパクトなヒトAIDxデアミナーゼ (P182X; 182残基)を選択し、nSpCas9-hAIDx, CP-nCas9-hAIDx, およびSpCasN末端ドメイン-AIDx-SpCas9 C末端ドメイン (ID-hAIDx)を比較し、残基1058の位置へのAIDx挿入が最適であることを同定した [Fig. 1引用右図参照]。
  • ABEについては、Fig. 2から引用した右下図にあるように、SpCas9nをベースとするABEmax, miniABEmax (V82G)から始まり、一連のCP版nSpCas9と一連のID版nSpCas9の活性を測定し、ABEのDNA編集活性もRNA編集活性もnSpCas9とIDの位置関係に左右されることを見いだした。microABE
  • 続いて、nSpCas9よりも小型のnSaCas9nをベースとするminiABEmax (V82G)のID版を評価し、残基I744に挿入したヴァージョン (microABE I744と命名)が最も効果的であり、DNAのオンターゲット編集活性が著しく向上し、編集可能領域が広がることを見いだした。また、microABE I744によってRNAオフターゲット編集活性がSaABEmaxならびにSa-miniABEmax (V82G)から顕著に抑制されることを確認した。
  • 遺伝子治療への応用例として、タイプI アッシャー症候群の原因変異であるPCDH15 Arg245Terを標的とした実験において、microABE I744の塩基変換効率がSa-miniABEmax (V82G)の10倍に達することを確認し、また、サイズが3.8 kbとコンパクトなmicroABE I744はsgRNAと共に一体化して単一のAAVでデリバリー可能なことも実証した。
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