2020-10-25 CRISPR機能喪失スクリーンによる宿主因子同定を試みた投稿と論文の書誌情報を追加し, その中で, Cell 2020-10-24論文で論じられていた投稿/論文の間の整合性の部分を引用
  1. "Identification of required host factors for SARS-CoV-2 infection in human cells" Daniloski Z, Jordan TX [..] tenOever BR, Sanjana NE. Cell 2020-10-24. (Journal Pre-proof)
  2. "The S1/S2 boundary of SARS-CoV-2 spike protein modulates cell entry pathways and transmission" Zhu Y, Feng F, Hu G, Wang Y [..] Xie Y, Yuan Z, Zhang R. bioRxiv 2020-08-25. [Preprint]
  3. "SRSF protein kinases 1 and 2 are essential host factors for human coronaviruses including SARS-CoV- 2" Heaton BE [..] Heaton NS. bioRxiv. 2020-08-18.
 Daniloski論文 (1)におけるZhu投稿 (2)およびWei論文との比較:
  • Zhu投稿とは良い一致 (MOI 0.3と0.01のスクリーン結果から得られたトップヒット36遺伝子の中で、それぞれ, 11遺伝子と14遺伝子が一致し、遺伝子カテゴリーのトップランクはほぼ完全に一致した。
  • Wei論文と一致はACE2とCTSLに限られていた。この差異は、使用したCRISPRライブラリーまたはgRNA発現の変動などの技術的差異, または, 細胞型や宿主細胞(生物種)の違いにより生じたものであろう。
  • 細胞型ごとに特異的な遺伝子回路を発動する可能性も示唆
2020-10-21 初稿 ---------------
[出典] "Genome-wide CRISPR screens reveal host factors critical for SARS-CoV-2 infection" Wei J [..] Doench JG, Wilen CB. Cell 2020-10-20 (Journal Pre-proof) (bioRxiv 2020-06-17)

 Yale School of Medicine/Yale UniversityとBroad InstituteにDana-Farner Cancer Institute, Icahn School of Medicine, ならびにUT Southwestern Medical Centerが加わった研究グループは今回、日本で樹立されウイルスや毒素の研究に活用されてきたアフリカミドリザル(Chlorocebus sabaeus)の腎臓上皮細胞由来のVero細胞の亜型であるVero-E6細胞にCas9エンドヌクレアーゼを導入し、アフリカミドリザルのゲノムワイドCRISPR sgRNAライブラリーを介したスクリーニングを行い、SARS-CoV-2*, rcVSV-SARS-CoV-2-S*, HKU5-SARS-CoV-1-S*, ならびにMERS-CoV*の宿主細胞への感染に必要な宿主因子 (以下, pro-viral遺伝子)と感染を抑制する因子 (以下, anti-viral遺伝子)を同定し、各コロナウイルスに特異的な宿主因子と、コロナウイルス共通の宿主因子に分類した。次いで、ACE2を発現するヒト肺腺癌由来細胞株Calu-3とC型肝炎ウイルスの感染実験に用いられSARS-CoV-2の解析にも利用されているヒト肝癌由来細胞株HuH7.5にて検証し、さらに、宿主因子を標的とする低分子によってSARS-CoV-2の感染抑制が可能なことを示した。
[*注]  SARS-CoV-2 (2019-nCoV: 新型コロナウイルス); rcVSV-SARS-CoV-2-S (新型コロナウイルスのスパイク (S)タンパク質とエンベロープ遺伝子を欠損させた水疱性口内炎ウイルス (vesicular stomatitis virus: VSV)で構成したシュードタイプウイルス) ; HKU5-SARS-CoV-1-S (2002年に発見されたSARS-CoVのSタンパク質を発現させたアブラコウモリコロナウイルスHKU5); MERS-CoV (2012年に発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス)
  • SARS-CoV-2 pro-virus遺伝子には、既に知られていたACE2とプロテアーゼの一種Cathepsin L (CTSL) 遺伝子が含まれていた。ACE2はMERS-CoVを除く3種類のSARS系に共通のpro-viral遺伝子であり、CTSLはMERS-CoVを含む4種類に共通のpro-viral遺伝子であった。
  • SARS-CoV-2のpro-viral遺伝子と見られているTMPRSS2, TMPRSS4, およびFURINは、今回のスクリーニングではpro-viral遺伝子と同定されなかった[*]。
    [*] Cas-sgRNAで標的することで当該遺伝子をノックアウトしてもSARS-CoV-2の感染が進行し細胞死に至った; 文末の[注]参照
  • アフリカミドリザル細胞 (Vero-E6細胞)とヒト細胞 (Calu-3細胞)の間で、ACE2, DYRK1A, SMARCA4, KDM6A, JMJD6, SMARCE1, およびSIAH1を含むpro-viral遺伝子群と、HIRA, PIAS2,およびSMARCA5を含むanti-viral遺伝子群が、共通していた。
  • SARS系に特有な感染宿主因子として、細胞の損傷に関連する分子 (damage-associated molecular patterns: DAMPs)の一種とされているHMGB1を発見し、また、4種共通の感染宿主因子の一つとしてSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体を同定した。
  • HMGB1は、ACE2遺伝子の発現を調節し、SARS-CoV-2, SARS-CoV-1, および日常的に感染するいわゆる風邪のコロナウイルスNL63 (HCoV-NL63)のヒト細胞侵入必須遺伝子であった。
  • pro-viral遺伝子の中でCTSL, SMARCA4, およびSMAD3をそれぞれ標的とする低分子Calpain Inhibitor III, PF1-3, およびSIS3が、Vero-E6細胞へのSARS-CoV-2感染を抑制し、また細胞死から保護することを見出した。
[注] bioRixv投稿に準拠したcrisp_bio記事: 2020-06-19 新型コロナウイルス: ゲノムワイドCRISPRスクリーンで宿主内の感染必須因子と感染抑制因子を同定 -TMPRSS2がpro-viral遺伝子として同定されなかった原因3種類の可能性を論じたJ. Doenchのツイートを引用:
  1. sgRNAの不活性: CRISPR-Cas9による遺伝子編集実験一般に起こり得る現象
  2. 冗長性: TMPRSS2の機能を代替する遺伝子が存在する可能性
  3. 非細胞自律性 (non-cell autonomous): プール型スクリーニングで生成される細胞集団は不均一であり、TMPRSS2 KO細胞が周囲を囲むTMPRSS2を帯びたままの細胞群の影響下にあった可能性