2021-09-30 Cell Reports Medicine 誌掲載論文の書式情報を追記
2020-10-25 初稿
[出典] "Intrinsic Signal Amplification by Type-III CRISPR-Cas Systems Provides a Sequence-Specific Viral Diagnostics" Santiago-Frangos A [..] Wiedenheft B. (medRxiv. 2020-10-20Cell Rep Med. 2021-05-27. https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2021.100319

 Montana State Universityの研究グループは今回、Cas12a, Cas13, Cascadeに続く、Csm複合体をベースとする新型コロナウイルス検出プラットフォームを新たに開発した。

 Thermus thermophilusのタイプIII-A CRISPRシステムのCsm複合体 (TtCsm)は、crRNAを介して標的RNAに結合すると、サブユニットCsm3のリボヌクレアーゼ (RNase)活性が活性化して標的RNAを6-ntの断片へと分解し、次いで不活性状態へ戻り、RNaseの過剰な活性化が抑制される。タイプIII-A CRISPRシステムは一般に、Cas10サブユニットを介してATPから環状オリゴヌクレオチド (cA4)を生成し、これが二次情報伝達分子として機能し、標的RNAではない細胞内のRNAを無差別に切断するコラレテラルRNase活性を帯びている。

 研究グループはCsm3の不活化によって、Csm複合体の標的RNAへの結合時間が伸び、Cas10のポリメラーゼ活性も比較的長時間維持され、また、標的RNAの分解が抑制されることで、標的RNA検出感度向上に寄与するという仮説のもとに、SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質をコードするN遺伝子の検出感度を、Csm3に変異 (D34A)を導入したTtCsm3-D34Dをベースとした場合と、野生型TtCsm3をベースとした場合と比較した。
その結果、変異型が野生型の3倍の感度を示すことを見出した [検出限界値 107 copies/3 x 108 copies/mL]。また、SARS-CoV-1と交差反応しないことも見出した [検出法については次項参照]。

TsCsm3-D34DによるSARS-CoV-2 N検出法
  • タイプIII-A CRISPR-CasのCsm複合体は、標的RNAを認識に応じたコンフォメーション変化を介して、ATPから~1,000個のcA4を生成しコラテラル活性を発揮すると共に、ATPからプロトン (H+)とピロリン酸塩 (PPi)も生成する。したがって、TsCsm3-D34D-crRNA (N)を介して、SARS-CoV-2 N遺伝子を3種類の手法で検出することができる:
  1. コラテラル活性によるフルオロフォアとクエンチャーで標識したRNAの切断からの蛍光検出: 55℃で45分
  2. プロトン (H+)がもたらすpH変化の比色検出: 30分
  3. ピロリン酸塩 (PPi)が、金属指示薬カルセインに結合させておいたMn2+イオンと不溶性沈殿物を形成し, カルセインがMg2+イオンと結合して発する強い蛍光を検出 (目視また紫外光照射により): 60℃で10分
ウイルスRNAの増幅は必要
  • 患者由来検体からの検出を実現するためには、TtCsm3(D34D)による検出に先立って、SARS-CoV-2 RNAのDNAへの逆転写, LAMP法での増幅, T7 RNA ポリメラーゼによる転写のプロセスが必要であった。
  • 24例の患者由来鼻咽頭スワブを対象として検証した。RT-qPCRによる陽性16例, 陰性7例, および不確定の判定結果に対して、RT-LAMPT7-Csmとコラテラル活性を介した蛍光検出(55℃, 60分)は、特異度は100%に達し、106 copies/mL以上の検体について感度100%であった。
[タイプIII-A CRISPRシステム関連crisp_bio記事など]