(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/11

  • 新奇抗がん剤の開発の手法の一つは、がん細胞株に特異的な低分子をフェノタイプ・スクリーニングに依って探索・同定し、続いて、その作用機構をケモゲノミクスによって予測する手法である.腫瘍抑制因子は、低分子の直接の標的とすることができないため、フェノタイプ・スクリーニングに適している.
  • TP53 腫瘍抑制遺伝子は、ヒトがんにおいて変異頻度が最も高い遺伝子であるが、これまでのところ、TP53 変異を起こしているがん細胞を選択的に合成致死に誘導する低分子がまだ発見されていない.
  • 今回、Broad Institute, Daba-Farber Cancer Institute, Koch Institute for Integrative Cancer ResearchならびにHarvard Medical Schoolの研究チームは、細胞スクリーニングに依って、TP53 変異がん細胞に合成致死を引き起こす化合物DNMDP (PubChem CID: 7122097)を同定し、Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)収録がん細胞株のうち766種類について、そのDNMDPに対する感受性が、PDE3A (phosphodiesterase 3A) 遺伝子の発現と強く相関していることを見出した(*).
  • 続いて、プロテオミクス解析に依って、DNMDPがPDE3Aに結合し、それによってPDE3AとSLFN12 (schlafen family member 12)との相互作用が亢進することを見出した.また、SLFN12 とPDE3A の共発現がDNMDP感受性と相関し、SLFN12の欠損によってDNMDP感受性が低下することを見出した.
  • DNMDPはがん細胞傷害性ホスホエステラーゼを調節する因子であり、PDE3A-SLFN12相互作用を安定化する機能獲得アロステリック作用を有することが示唆された.
  • (*)[注] 当該相関解析に関するブログ: 
      20160111 化合物の抗がん作用機構の同定を可能にする情報資源 Cancer Therapeutics Response Portal (CTRP)