[注] オミクロン変異株をめぐるデータはまだ乏しく状況がきわめて流動的であるため,オミクロン変異株に関する2021-11-28以後の一連の投稿は,12月1日の投稿も含めて,本記事からは切り出して別記事の「新型コロナウイルス:南アフリカ由来変異株オミクロン (B.1.1.529系統)」へと移行しました.なお,南アフリカ由来のもう一つのVOCであるベータ株 (B.1.351系統)については,「crisp_bio 」の記事参照
2021年11月26日,WHOのSARS-CoV-2ウイルスの進化に関する技術諮問グループ (Technical Advisory Group on SARS-CoV-2 Virus Evolution, TAG-VE)はSARS-CoV-2 B.1.1.529をVOCに指定すべきと結論し,その助言を受けたWHO は B.1.1.529 をオミクロンと名付けてVOCに指定した
[出典 WHO "Tracking SARS-CoV-2 variants" 2021-11-26 更新].
- B.1.1.529は,2021年11月24日に南アフリカからWHOに初めて報告された.南アフリカではデルタ変異株が優勢であったが,最近の数週間,B.1.1.529の検出に伴って感染者が急増してきた.(南アフリカでB.1.1.529の感染が初めて確認されたのは2021年11月9日に採取された検体であった).
- B.1.1.529は多数の変異を帯び,その中に懸念される変異が含まれている.予備的ではあるが,他のVOCと比較して再感染のリスクが高まることが示唆されており,南アフリカのほぼすべての州で,B.1.1.529の感染者数が増加しているようである.
- 現在の SARS-CoV-2 PCR 診断法によってB.1.1.529が検出されているが,いくつかの研究機関から,S遺伝子が検出されないことをマーカーとして使用できるとの報告があった(シークエンシングによる確認待ち).この方法によると,これまでの感染の急増に比べて,B.1.1.529が早いペースで検出されており,増殖に有利である可能性が示唆されている.
[*1] リスト自体は本記事9月1日に引用した08-31版から改訂無し. 右図でVOIの白抜きの行は08-31時点でVOIから外された変異株: WHO "Tracking SARS-CoV-2 variants" Updated 2021-09-07. https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
[*2] CDC SARS-CoV-2 Variant Classification and Definitions. Updated 2021-09-07. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/variant-info.html; 各変異株ごとにFDAの報告書や文献へのリンクがある,例えば,"Comprehensive mapping of mutations in the SARS-CoV-2 receptor-binding domain that affect recognition by polyclonal human plasma antibodies" Greaney AJ et al. Cell Host Microbe 2021-03-10/02-08. https://doi.org/10.1016/j.chom.2021.02.003
イータ変異株 (B.1.525)
- スパイクタンパク質の変異 (アミノ酸置換): A67V, 69del, 70del, 144del, E484K, D614G, Q677H, F888L; 2020年12月に英国とナイジェリアで発見された.
- 緊急使用許可されたモノクローナル抗体療法,および,COVID-19回復者とワクチン接種者の血清(中和抗体)に対する抵抗性を示す可能性がある.
カッパ変異株 (B.1.617.1)
- スパイクタンパク質の変異 (アミノ酸置換): (T95I), G142D, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H; 2020年10月にインドで発見された (デルタ株はB.1.617.2)
- 緊急使用許可されたモノクローナル抗体療法,および,ワクチン接種者の血清(中和抗体)に対する抵抗性を示す可能性がある.
2021-09-02 新たなVOI認定株Mu (ミュー)変異株の広がりと変異
Outbreak.infoサイトのhttps://outbreak.info/situation-reports/Muページから9月2日にキャプチャーした画像などを右図に引用した.
Wikipedia [*1]によると,Mu変異株はコロンビア国内で感染が拡大し,43カ国で感染が報告されている (9月1日時点).
ワウチンの有効性について,8月24日に米国にて緊急使用許可から正式承認に進んだビオンテック・ファイザーのmRNAワクチンCOMIRNATYが,それ以前のB1系統変異株に対するよりも効果が低下するが有効とする報告 [*2]がある一方で,スパイク変異R346K, E484K, P681H (挿入図参照)に注目してワクチン逃避性を示唆する報告 [*3]もある.
[*1] https://en.wikipedia.org/wiki/SARS-CoV-2_Mu_variant
[*2] LETTER TO THE EDITOR: Mesaali S et al. J Med VIrol. 2021-07-30. https://doi.org/10.1002/jmv.27247
[*3] COMMENTARY: Snell LB et al. Lancet Infect Dis. 2021-08-13. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00482-5
2021-09-01 WHOのWebページ"Tracking SARS-CoV-2 variants" [*]の2021年8月31日更新版にあわせて,VOCとVOIのリストを更新した(右図参照). 6月15日/19日更新版に比べると,VOCに変化は無かったが,VOIにおいて3種類が消え新たに1種類 (Mu)が加わった.右図にはVOIから外された変異株も残し,現時点でVOIに定義されている変異株については,背景色を黄色にして区別した.なお,VOIから外れた変異株の一部はWHOのWebページでは他のいくつかの変異株とともに,別表"Currently designated Alerts for Further Monitoring"にまとめられている.
[*] https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
2021-08-19 新型コロナウイルスB.1.526 (iota/イオタ)変異株の疫学
[出典] "Epidemiological characteristics of the B.1.526 SARS-CoV-2 variant" Yang W [..] Fine Anne. medRxiv 2021-08-07 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.08.04.21261596
Columbia UniversityとNew York City Department of Health and Mental Hygieneの研究グループの投稿.
- 米国ニューヨーク市 (NYC)で初めて検出されたB.1.526は,WHOと米国CDCの双方が,Variants of Interest (VOI)に指定している.
- 研究グループは今回,NYCで収集した9つの疫学データと人口データ,およびモデリングによって,B.1.526の感染・伝播性 (transmissibility),免疫逃避性,および感染致死リスク (infection fatality ratio, IFR)を推定した.
- B.1.526が最初に検出された地域の推定感染率が,NYCの他の地域よりも常に高く,B.1.526検出前の数週間はさらに上昇していた.
- モデリングから,B.1.526の感染・伝播性力は,B.1.1.7 (アルファ)よりも15~25%程度高く,既感染者の0~10%において免疫逃避すると推定した.
- 既存の変異株と比較するとB.1.526のIFRは,45~64歳で46% (95%CI: 7.4~84%),65~74歳で82% (95%CI: 20~140%),75歳以上で62% (95%CI: 45~80%)上昇し,特に,高齢者のIFRを大幅に上昇させていた (2020年11月~2021年4月の間のデータ).
- 新型コロナウイルスの新しい変異株は,発見される数週間前から集団内で広がっている可能性が高く,部分的な免疫逃避 (例えば、治療用抗体に対する耐性)により,発見までの予防・治療法の効果を相殺し,IFRを増加させる可能性がある.したがって,SARS-CoV-2の変異体,その疫学的特徴,疾患の重症度などを早期に評価し,注意深く監視することは,世界的な公衆衛生上の脅威であるCOVID-19パンデミックへの対応に不可欠である.
2021-06-29 ラムダ変異株を追加: 一覧表を差し替え,タイトルとテキストの一部を改訂
2021-06-04 初稿
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英国由来変異株,インド由来変異株など,感染拡大を加速する右図のような変異株に関心と危惧が寄せられている.
WHOは2021年5月31日,"Variants of concern (VOC)/ 懸念すべき変異株"と"Variants of Interest (VOI) /注目すべき変異株の呼称にギリシャ語のアルファベットを使用することにした.これまでに,B.1.351といった科学的名称に対して複雑すぎるといった批判があったことと,変異株に国や地域の名称を付すことを回避するための変更とされている ["コロナ変異株に新名称、アルファなどギリシャ文字に WHO決定" REUTER 2021-06-01 05:50 https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-variants-idJPKCN2DC1TV].
WHOのWebサイトの"SARS-CoV-2 Variants of Concern and Variants of Interest, updated
[ラムダ株概要]
WHOが2021年6月14日に,variant of interest (VOI)と定義しラムダと命名した変異株は.2020年8月にペルーで発見され,2021年4月までにペルーの新規感染者の80%以上を占めるに至った.また,2021年6月には南米,特に,アルゼンチン,チリ,およびエクアドル,に広がった [*1].
ラムダ変異株が帯びている変異は,ORF1aの一部欠失 (Δ3675-3677)とスパイクタンパク質の一部欠失と置換 (Δ246-252, G75V, T76I, L452Q, F490S, D614G, およびT859N)である.ORF1aの一部欠失はアルファ,ベータ,およびガンマ変異株にも見られる.スパイクタンパク質の変異のうちL452QとF490Sは,ヒト細胞上の受容体ACE2結合ドメイン (RBD)上に位置し [*2],F490S変異がモノクローナル抗体や回復者血清中抗体の中和活性を減弱する可能性が指摘されている [*3]
- https://en.wikipedia.org/wiki/SARS-CoV-2_Lambda_variant
- "First identification of SARS-CoV-2 Lambda (C.37) variant in Southern Brazil" Wink PL [..] Martins AD. medRxiv. 2021-06-23. https://doi.org/10.1101/2021.06.21.21259241
- "Identification of SARS-CoV-2 spike mutations that attenuate monoclonal and serum antibody neutralization" Cell Host & Microbe 2021-01-27. https://doi.org/10.1016/j.chom.2021.01.014
コメント
コメント一覧 (3)
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[出典 WHO "Tracking SARS-CoV-2 variants" 2021-11-26 更新].
>B.1.1.529は,2021年11月24日に南アフリカから
">"以下に、"初めて報告"と"初めて分離"が出てきて、わかりにくくないかな??
分離したのも、当然、南ア?
コメントありがとうございました.
南アフリカで採取・検査,その後,WHOに報告という時系列であることを明確にするために,採取・検査が南アフリカで行われたことを明記した上で,その部分を,本文に対する注の扱いとして()で囲みました.
ありがとうございました。