(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/26

  • 責任著者:Mien-Chie Hung (MD Anderson Cancer Center)
  • がん、循環器疾患、炎症に対する薬剤として、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤が注目を集めている.FDAは2014年に、ミリアド社のコンパニオン診断(CDx) BRACAnalysis® とあわせてアストラゼネカ社(AZ)のPARP阻害剤(PARPi) LYNPARZA™(olaparib/オラパリブ)を、3回以上の化学療法を経たBRCA遺伝子変異陽性の進行性卵巣癌患者に投与することを認可した
  • BRCA1とBRCA2はDNA二本鎖切断の修復に必須であり、BRCAタンパク質を欠損しているがん細胞はPARP阻害剤に対して感受性を示す("BRCA1やBRCA2に変異がある腫瘍細胞はもともとDNAの修復能が落ちて変異が生じたために癌化したものであるが、自身の増殖に使える程度の修復能は残っている。オラパリブがこれを阻害することにより、腫瘍細胞が増殖できなくなる" [注] Wikipediaから引用WP:CC-BY-SA). しかし、PARP阻害剤に対する耐性もまた見出されている.
  • 今回、この耐性発生機構の手がかりを得た.すなわち、肝細胞増殖因子(HGF)受容体であるc-Met受容体型チロシンキナーゼがPARP1をリン酸化(pTyr907 または pY907)し、その中でPARP1 pY907がPARP1の酵素活性を亢進し、PARP阻害剤への結合を低減することを見出した.
  • さらに、PARP阻害剤とc-Metを阻害するクリゾチニブ (crizotinib)の併用によって、トリプルネガティブ(TNBC)乳がん細胞株の増殖とマウスに移植したTNBCの増殖が抑制され、また、マウスに移植した肺がんの増殖も抑制されることを確認した.
  • c-Metを高発現しPARP阻害剤単独では感受性を示さない患者にはc-Met阻害剤との併用が有効であり、また、PARP1 pY709の発生量をPARP阻害剤に対する耐性発生の予測に利用可能と考えられる.
  • [注] この薬剤の組み合わせが、分子機構の情報を必要としないFeedback System Control (FSC)法によって同定可能か興味深い.