(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/30

  1. [NEWS & VIEWS] 野生のCas9を飼い馴らす:Fyodor Urnov (Sangamo BioScience)
    • バクテリアとウイルスやファージとの戦いの中で進化してきたCas9は、プロトスペーサーと完全には一致してないDNA配列も切断する傾向を持っている.このCas9をヒトゲノム編集に適用するには、特に臨床応用するには、gRNAと完全に一致する部位に対して特異的に作用させる必要がある.このため、オフターゲット編集を抑制する試みが続いている。
    • 今回、そうした観点からNature 誌掲載のKleinstiver, Joungらのhigh-fidelity Cas9 (Cas9-HF)論文と、Science 誌掲載のSlaymaker, Zhangらのenhanced spcificity Cas9 (eSpCas9)論文を取り上げた.いずれも、Cas9とDNAバックボーンとの相互作用を弱めることで、標的の認識と切断のgRNAとDNAの結合への依存度を高める戦略であるが、具体化された手法は対照的である.
      • Cas9-HFは、Cas9とgRNA-DNAとの相互作用を弱める設計
      • eCas9は、Cas9とgRNAが結合したDNA鎖の相補鎖である一本鎖DNAとの相互作用を弱める設計
    • オフターゲット編集の低減によって、オンターゲット編集だけが起きているクローン選別・作出に要する時間を大幅に短縮可能.また、Cas9-HFと同等の精度を実現しているZFNsによる血友病を対象とする治験が始まっている.
  2. [論文] CRMAGE: CRISPRによる多重自動化ゲノム工学法(MAGE)の最適化:Alex Toftgaard Nielsen (Novo Nordisk Foundation Center for Biosustainability)
    • 代謝工学とシステム生物学のボトルネックは、ゲノム工学技術の効率にあった.今回、CRISPR/Cas9と、George Churchらが開発したλ Red recombineering (recombi nation-mediated genetic engineering )に依るMAGE (Multiplex Automated Genome Engineering)法とを組み合わせて、極めて高効率・高速なEscherichia coli ゲノム編集を実現した.
    • ゲノムの3カ所を対象とするrecoding (reprogrammed genetic decoding) の効率が従来の0.68〜5.4%から96.5〜99.7%へと向上し、短い挿入とリボソーム結合部位の置換によるタンパク質合成調節の効率が6%から70%へと向上.この高い効率は多重化しても達成可能.
    • CRMAGEは、コドン縮退を利用することで、PAM非依存でゲノム上の任意の位置をrecombineering可能.
    • CRMAGEは、1日で複数種類複数回の操作が可能.
    • λ RedオリゴとgRNAの設計を支援するWebツールも開発.
  3. [論説&論評] 遺伝子編集作物(genome-edited crops: GECs)の規制を考える:Jiayang Li (Inst. of Genetics and Developmental Biology, Beijing)
    • 地球規模での食糧問題の解決につながるGECが社会的に受容されながら健全に発展を遂げるように、情報公開を主眼とする規制の枠組みを考える:
      • 研究開発段階でGECが研究室や圃場から外部へ拡散するリスクを最小限に
      • 外来DNAが存在しないことの証明
      • 標的サイトでのDNA配列の変化を明示.相同組換えで新たな配列を導入した場合は、ドナーと宿主の系統関係を明らかにする.
      • 標的サイトに2次的編集が起こらないことを保証する.また、ゲノム配列比較によってオフターゲット編集を評価する.
      • 品種登録に上記4項目のドキュメントを添付
    • 上記の5つの条件を満たしたGECsは、交配や放射線などによる変異導入で作出した作物に対する規制を適用する(新たな規制を設ける必要は無い).