【出典】Norris ADGracida XCalarco J. “CRISPR-mediated genetic interaction profiling identifies RNA binding proteins controlling metazoan fitness.” eLife. 2017 Jul 18;6. pii: e28129.

【背景】遺伝的相互作用のプロファイリングは、複雑な遺伝形質、疾患、生物過程を理解するに有用な手段である。出芽酵母とバクテリアの場合は、合成遺伝子アレイ(Synthetic genetic array: SGA)解析法など、二重変異体を網羅的に作出しその増殖性から遺伝子間の相互作用を推定する手法が確立しており、単一変異体には見られない表現型が二重変異体で見られ、生物過程の冗長性に関する知見を得ることが可能である。一方で、多細胞生物ではそうした手法が確立されていない。Caenorhabditis elegansでは、RNAiによる遺伝的相互作用の研究が行われてきたが、RNAiは標的遺伝子のノックダウンに止まり、ノックアウトに至らず、2つの遺伝子が関わる表現型の解析に限界がある。また、神経細胞を解析するには、RNAiに対する抵抗性が問題になる。

【成果】

  • 今回、C. elegansを対象として、CRISPR/Cas9によりヌル対立遺伝子を生成し、交雑を介して2種類の遺伝子がノックアウトされた二重変異体を作出する手法CRISPR/Cas9-based Synthetic Genetic InteractionCRISPR-SGI)を開発した。具体的には、神経細胞で発現する14種類のRNA結合蛋白質をコードする遺伝子をCRISPR/Cas9でノックダウンし、それらの網羅的二重変異体を作出し、競合的適応度を指標として遺伝的相互作用を明らかにした。
CRISPR-SGI 1 CRISPR SGI 2

  • 適応度が低下する遺伝子間相互作用を多数同定した。その中に、神経細胞RNA結合蛋白質の組み合わせが適応度に関与するという発見があった。すなわち、保存性が高いRNA結合蛋白質である、MBNL1/2オーソログのmbl-1ELAVLオーソログのexc-7の二重変異体が、極端に短命であった。双方とも多数の転写物とアイソフォームを調節することが知られているが、インシュリン・シグナル伝達を介して長寿化に重要な役割を担っていることが推測された。
    CRISPR SGI 3