[出典] “Multiplexed gene control reveals rapid mRNA turnover.” Baudrimont A, Voegeli S, Viloria EC [..] Becskei A. Sci Adv. 2017 Jul 12;3(7):e1700006. https://doi.org/10.1126/sciadv.1700006
- バーゼル大学のBecskeiグループは、 プロモーターGAL1の活性を、Tetリプレッサータンパク質 (TetR)とVP16活性化ドメイン(AD)で構成される融合タンパク質tTAを介して、ドキシサイクリン非存在下 (Dox-)で活性化し、ドキシサイクリン存在下 (Dox+)で抑制するTetーoffシステムで調節し、解析対象とするmRNAにはシノニマス変異を導入しておくことで、遺伝子発現停止からのmRNAの減衰の多重測定を可能とするMultiplexed gene control(MGC)法を実現した [FIG. 1引用右図参照]。
- 改変プロモーターP[tetO]4inGAL1は、GAL1の転写活性化因子Gal4p結合部位をtetオペレーター(tet0)配列に置換したもので、ドキシサイクリン投与によって、テトラサイクリン調節性トランス活性化因子tTAの遊離を介してmRNA発現を停止することができる。
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MGC法により、酵母の2種類の染色体上で一定の条件を満たしたORFsからランダムに選択した47種類の遺伝子とコントロール用遺伝子5種類を対象としてmRNA発現を停止して以後のmRAN分解を測定し、半減期を算定した。
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MGC法で得られたmRNAの半減期は、代謝パルス標識法の一種による酵母mRNA測定結果と高い相関を示したが、絶対値は10分の1(中央値〜2分)と遥かに短い時間となり、mRNAの分解速度がこれまでの推定よりも遥かに高速であることが示された。
- mRNAの半減期はこれまで主として、代謝パルス(短時間)標識法(metabolic pulse-labeling method)と化合物または変異導入による転写阻害から算定されてきたが、双方とも侵襲性の問題が存在した。すなわち、前者では標識に因る細胞過程の擾乱、後者では、遺伝子全般の転写阻害に因る細胞過程の擾乱により、mRNAのターンオーバーが影響を受ける可能性が存在する。今回、既存の手法から得られる半減期とMGC法からの半減期の相関解析を行ったところ、手法間のばらつき(挿入図Fig 2-BとC)と、MGC法で得られる半減期(中央値2分:挿入図Fig 2-A)が、従来法で得られる半減期の概ね10分の1であることが明らかになった。
- mRNAの半減期を測定できたことで、プロモーターに依存するmRNA転写速度とプロモーターに依存しないmRNA転写速度とを算定可能になり、mRNA合成のダイナミックレンジがmRNA半減期のそれよりも広いことが明らかになった(挿入図Fig 6-D,F)。
- mRNAのターンオーバーが速いことと、プロモーターに依存しない転写速度のダイナミックレンジが広いことが、確率的な遺伝子発現と遺伝子ネットワークの振る舞いに影響を与えていると、考えられる。
[関連文献とブログ記事]
- ライフサイエンス新着論文レビュー「生細胞におけるリアルタイムでの1分子のmRNAからの翻訳のダイナミクスの可視化および定量」森崎達也・Timothy J. Stasevich 2016年5月30日
- CRISP_BIOブログPLAYR: 単一細胞におけるRNAとタンパク質の高多重度の同時検出 2016年1月30日
- CRISP_BIOブログ [NEWS & VIEWS]細胞内のタンパク質の量は、mRNAレベルで調節されるのか、タンパク質の合成・分解レベルで調節されるのか、それが問題だ
2016年1月20日
- ライフサイエンス 新着論文レビュー「単一の生細胞におけるプロテオームとトランスクリプトームとを単一分子検出感度で定量化する」谷口
雄一 2010年9月10日.“単一細胞においては内在するmRNA数とタンパク質数との間には相関のないことが判明した.この非相関性のおもな理由としてmRNAの分解時間の速さがあげられる.RNA-seq法を用いてmRNAの分解時定数を調べたところ,数分以下であった” (© 2010 谷口
雄一 Licensed under CC 表示 2.1 日本)
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