[出典] Liu G ~ Church GM, Yang L. “Inactivation of porcine endogenous retrovirus in pigs using CRISPR-Cas9.” Science. 2017 Sep22;357(6357):1303-1307. Published online 10 Aug 2017:eaan4187.

[出典] Servick K. “CRISPR slices virus genes out of pigs, but will it make organ transplants to humans safer?” Science Aug. 10, 2017, 2:00 PM

[関連記事] “Advances in organ transplant from pigs.” Joachim Denner. Science 2017 Sep22;357(6357):1238-1239

異種移植
[crisp_bio 2019-12-21追記] 
2019-12-21 ブタ臓器による移植医療の可能性、さらに広がる 

  • 臓器移植が医療として定着している欧米でも移植臓器は常に不足しており、米国では、日に20名以上の待機患者が亡くなっているとされている。この不足を補う手段として、人工臓器と異種移植の研究が進められている。
  • 異種移植では、繁殖性が高くヒト臓器と同程度のサイズで類似の機能を帯びた臓器を有するブタの利用が試みられている。ブタの細胞移植については、無菌状態のブタ膵島細胞を内包したカプセル(カプセル化ブタ膵島細胞)を糖尿病患者腹腔内に移植するDIABECELL®(ディアベセル)の臨床試験が進んでいる。

移植用ブタとブタ内在性レトロウイルス(PERV)の懸念

  • ブタからの大型臓器の移植に、免疫不適合性に加えて、PERVの感染リスクが大きな障害である。今回、ハーバード大学発のスタートアップ企業 eGenesis、ハーバード大学、浙江大学、雲南農業大学、浙江大学、中国人民解放軍第三軍医大学、深圳市金新科技股份有限公司研究所およびデンマークのオーフス大学の研究チームはPERV感染リスクの障害を乗り越えた。
  • 著者らは先行研究で、ブタ腎由来の不死化細胞株PK15において、PERVのコピー数が62と特定し、続いて、PERV pol遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9により、PERVのヒト細胞への感染を1000分の1未満に抑制することに成功していた。今回、PK15細胞に変えて、ブタ初代培養繊維芽細胞(以下、FFF3)を対象とする実験を行った。CRISPR-Cas9多重編集によりPERVを不活性化した繊維芽細胞をSCNT(体細胞核移植)し、発生した胚を代理メスブタに移植し、PERV不活性化ブタを作出した。

PERVのブタ・ヒト感染/ヒト・ヒト感染の有無

  • 先行研究では、コカルチャー1週間の結果、PK15からGFPで標識したヒト胎児腎HEK293T細胞(HEK293T-GFP)へのPERV感染を確認していた。今回、ddPCR法により、PERV感染HEK293T-GFPi-HEK293T-GFP)細胞集団とクローンにおいてPERVのコピー数が培養時間とともに増加することを、4ヶ月以上にわたり同定した。PERV-APERV-Bの双方を検出したが、PERV-Cは、PT15またはi-HEK293T-GFPでは非検出であった。また、PERVはヒトゲノムの遺伝子間領域とクロマチンの活性領域に組み込まれる傾向があった。
  • さらに、i-HEK293T-GFP細胞と、野生型HEK293T細胞を2週間コカルチャーし、ヒト細胞間でPERV感染が起こることを確認した。

CRISPR-Cas9によるFFF3細胞のPERV不活性化

  • ゲノム解析などにより、FFF3細胞にPERV24コピー存在することを同定。PERV pol遺伝子の触媒コアを標的とするgRNAsを設計し、CRISPR-Cas9で処理することでPERV polの不活性化を実現したが、PERV編集効率が高い(>90%)単細胞クローンの樹立は実現できなかった。
  • そこで、多重なDNA損傷による細胞死を回避するために、CRISPR-Cas9編集時に、P53阻害剤、ピフィスリン-α(PFTα)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bEFG)の3因子を投与する手法を探り当て、PERV100%不活性化したFFF3細胞の樹立を実現し、PERV pol遺伝子と転写物が変異していることと、PERV粒子が分泌されていないことを確認した。また、Cas9編集による染色体構造異常が発生しないクローンを得られることも確認した。

PERVフリー・ブタの作出

  • PERVフリーFFF3細胞SCNTの〜20~40%正常な胚盤胞に達し、また、PERV100%不活性化も確認できた。続いて、PERVフリーの胚をPERV-Cが存在せず、PERVコピー数が12-30の代理メスブタに移植し、PERV100%不活性なブタ胎児を得られることを確認した。妊娠率は70日目で52% (23/44) であった。PERVフリーFFF3細胞の胚移植に対する子豚出産の確率は0.9%であったが、これは野生型FFF3細胞の場合の確率0.8%と同等であった。
  • これまでに、17頭の代理メスブタ(一頭あたり200-300胚移植)から37匹のPERV不活性化子ブタを作出し、そのうち15匹が生存し、長期観察を続けている。

日本における異種移植

  • 2016527日の厚生労働省再生医療等評価部会配布資料「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染問題に関する指針の見直しに関する研究」によると、国際異種移植学会のブタ膵島移植のコンセンサスステイトメントの改定なども受けて、我が国でも異種移植の実施が認められた。なお、当配布資料では、“ブタ内在性レトロウイルス(PERV)については、すべてのブタの遺伝子にPERV-APERV-Bが組み込まれ、一部のブタの遺伝子にPERV-Cが組み込まれていることから、危険性を完全に排除することがほぼ不可能である。(中略)PERV感染の有無についてモニターすることが求められる。”とされている。
  • DIABECELL®(ディアベセル)については、大塚製薬工場は2014年に重症1型糖尿病治療用としてその日米での独占的開発・製造・販売権を獲得している