[出典] Uhlen M et al. A pathology atlas of the human cancer transcriptome.Science, 2017Aug 18;357(6352):eaan2507.

  • Human Protein Atlas (HPA)プログラムの一環として、遺伝子・タンパク質のTissue AtlasScience 2015)とCell AtlasScience 2017)を構築・提供してきたKTHRoyal Institute of TechnologyMathias Uhlénらは今回、癌の予後予測因子となる遺伝子の同定を目的として開発したHuman Pathology Atlas(以下、病理アトラス)をSicence誌にて発表するとともに、Webサイト(http://www.proteinatlas.org/pathology)から公開した。
  • 病理アトラスがTCGAThe Cancer Genome Atlas)とHPA自身から取り込んだ一次データは、7,932人由来のトランスクリプトーム(タンパク質コーディング遺伝子の発現)データとプロテオーム(抗体プロファイリング)データおよび病理データであり、のべ17種類の癌(挿入図1((HPA Webサイトからキャプチャー))内の左図グラフィカルメニュー)をカバーしている。ただし、トランスクリプトーム・データが得られなかったリンパ腫、カルチノイドおよびメラノーマ以外の皮膚癌の3種類の癌については、 免疫組織化学的検査に基づくタンパク質発現データを取り込んでいる。挿入図1のグラフィカルメニューで、癌の種類の表記をクリックすると、挿入図1の右図にあるように選択した癌のレビューが表示され、そこからさらに詳細データへとアクセス可能になる。
    Pathology Atlas1
  • 全ての遺伝子について発現レベルと各個人の全生存期間(overall survival time)との相関を、1億例以上のカプランマイヤー生存曲線に基づいて分析したところ、多くの遺伝子の発現レベルが癌の種類によって異なることを見出し、癌の種類ごとに、mRNAの高発現が短い生存期間と相関する遺伝子”unfavourable genes”と、mRNAの高発現が長い生存期間と相関する遺伝子”favourable genes”を選別した。その結果、6,833種類の遺伝子が少なくとも1種類の癌について予後不良を示唆する”unfavourable genes”であり、6,113種類の遺伝子が少なくとの1種類の癌について予後良好を示唆する”favourable genes”に分類された。
  • これらの予後予測遺伝子群の詳細データは、挿入図2(HPA Webサイトからキャプチャー)右図のグラフィカルメニューから挿入図2の中央のような表形式から閲覧可能である。また、統計的有意性を伴う900,000を超えるカプランマイヤー生存曲線を、挿入図2の左下の図のように確認することも可能である。
    ス2018-01-28
  • 癌の種類ごとに共発現ネットワークを構築し、予後予測遺伝子群とHallmarks of CancerCell 2011)遺伝子群を機能の観点から照合し、生存の鍵となる遺伝子の特定も試みた。また、患者ごとにゲノムスケールの代謝モデルGSMMsgenome-scale metabolic modelsMethods in Enzymology 2011)を構築し、癌細胞増殖に必要な遺伝子群プロファイルに顕著な個人差が存在することを見出し、個別化医療の必要性を裏付けるに至った。さらに、肺癌と大腸癌の予後予測遺伝子を、前向きコホートにおける免疫組織化学検査で検証した。