[出典] “Discovery of stimulation-responsive immune enhancers with CRISPR activation. Simeonov DR et al. Nature. Published online 30 August 2017.;“Discovery of an autoimmunity-associated IL2RA enhancer by unbiased targeting of transcriptional activation” Simeonov DR et al. bioRxiv. Posted December 5, 2016.

[概要]

  • CRISP/Cas9技術によってゲノム領域を欠損しその表現型を判定することで、エンハンサーの機能特定も容易になってきた。この機能喪失実験によって解析対象とする生命現象のコンテクストに必須なエンハンサーの情報を得られるが、一方で、そのコンテクストに関与しないエンハンサー群の情報を得ることができない。
  • UCSFUC BerkeleyおよびStanford大学、Broad研究所、Illumina(一部、Chan Zuckerberg BiohubInnovative Genomics Institute兼職)の研究チームは今回、dCas9- VP64によるCRISPRaに応答して活性化するエレメント(CRISPRa-responsive elementsCaREs)から、特定のコンテクストでは必要とされない機能エンハンサーの解析も可能とし、T細胞活性に関わるCD69IL2RAの機能エンハンサーを特定し、炎症性腸疾患やクローン病の発症機構についても知見を得た。

[刺激応答性エンハンサーが特定されているCD69による検証]

  • CD69は、TCR刺激に応答してT細胞表面に迅速に発現が誘導されるT細胞活性化マーカである。今回、TCR刺激が存在しないコンテクストでも、CD69のシスエレメント(cis-RE) を同定可能か評価。
  • CRISPRaシステムの一種である部位特異的転写活性化因子dCas9-VP64を発現させたJukat T細胞に、CD69の転写開始点(TSS)の上流100 kbから遺伝子本体を超えて下流25 kbまでの135 kbの領域に存在するPAMを標的とする10,780 RNAsのプール型レンチウイルスライブラリーを送達。
  • CD69発現量(高///ネガティブ)でgRNAsを分類し、想定通り、CD69高発現細胞には、TSSを標的とするgRNAsがエンリッチされていることを見出した。加えて、遺伝子から遠位にgRNAsがエンリッチされている領域CaREsを3箇所発見した。そのうち1箇所は、既知の刺激応答エンハンサー(conserved non-coding sequence 2, CNS2と一致した。
  • 以上から、非翻訳領域を転写活性化因子でタイリングすることで、然るべき刺激が存在しない細胞において、刺激応答エンハンサーを検出可能なことが実証された。

[IL2RA遺伝子座のCaREs解析]

探索

  • L2RAは高親和性インターロイキン-2IL-2)受容体(IL-2Ra/CD25)のサブユニットをコードする遺伝子である。ゲノムワイド関連解析(GWAS)からIL2RA遺伝子座非翻訳領域における変異が8種類の自己免疫疾患の危険因子とされているが、IL2RAは多重なシグナルに応答するため、変異が疾患を引き起こす機構の解明は進んでいない。例えば、休止期T細胞においてIL2RAの発現が、TCRを介した抗原刺激だけでなく、サイトカインIL-2によって上方制御され、ポジティブ・フィードバックが成立している。また、制御性T細胞(FOXP3+T細胞, Treg)は恒常的に高発現するIL2RAにその生存がかかっている。
  • CD69 CaREs探索と同様に、Jurkat-dCs9-VP64細胞にIL2RA遺伝子座178–kbをタイリングする20,412 gRNAsを送達し、IL2RA発現量を4分類し、IL2RA発現に影響を与えるCaREs6種類(CaRE1〜6:第1イントロンに3種類/プロモーターの上流に3種類)を同定し、また、個別のgRNAによりVP64をそれぞれCaRE3CaRE4に誘導することで、IL-2Raがトランス活性化されることも確認。

CaRE(エンハンサー)変異の生物学的意味

  • CaREs探索結果にHiChIP解析を加えることで、6種類のCaREsが全て、ヒト初代CD4+T細胞サブセットにおいてIL2RATSSへとループするH3K27アセチル化エレメントに重なることを見出した。
  • CaRE4の領域における変異がヒト自己免疫疾患の危険因子として推定されたが、in vitro実験とモデル変異マウスin vivo実験から、CaRE4変異の影響は、IL-2Raの応答を大きく遅らせることにあり、十分時間が経過した後のIL-2Ra発現量にはほとんど影響しないことを見出した。
  • また、モデルマウスにて、IL-2や抗-CD3モノクローナル抗体といったシグナルがIL-2Ra発現に与える影響や、エンハンサー変異に起因するIL-2Ra誘導阻害が疾患表現型に与える影響も分析した。