1. α-グロビン発現のノックダウンを介して、βサラセミアの病態を改善する

  • “Editing an α-globin enhancer in primary human hematopoietic stem cells as a treatment for β-thalassemia.” Mettananda S et al. Nat Commun 2017 Sep 4;8(1):424.
  • βサラセミアの病態は、β-グロビン鎖遺伝子変異に伴い、正常なヘモグロビン四量体(α2β2)が生成されず、β-グロビン鎖に結合しない過剰なα-グロビン鎖が、赤血球前駆細胞/成熟赤血球に沈殿することに依る(無効赤血球生成/赤血球溶血)。
  • βサラセミアの病態は、α—グロビン鎖不全によるαサラセミアを伴うβサラセミアでは軽減され、α—グロビン鎖遺伝子コピー数増加により病態が悪化すること、また、αグロビン鎖のエンハンサーMCS-R2(HS-40)の変異や欠損によりαグロビン鎖の発現が減少することから、今回、CRISPR/Cas9によるMCS-R2のノックダウンが病態を軽減する効果を見た。
  • 初代ヒト造血幹細胞・前駆細胞(CD34+)のエンハンサーMCS-R2のコア領域を欠損させ田ところ、分化した赤血球細胞において、αグロビン鎖の発現の低減と、αグロビン鎖とβグロビン鎖のバランス改善が実現した。
  • CRISPR/Cas9編集したCD34+細胞は、移植した超免疫不全NSGマウスにおいて、長期間造血幹細胞を再生したことから、本手法はβサラセミア療法として有望である。
2. CRISPR-Cas9により、ヒトTRIM5遺伝子にHIV-1感染抑制性変異を導入する

  • “Editing of the Human TRIM5 Gene to Introduce HIV-1 Restrictive Mutations Using CRISPR-Cas9.” Dufour C, Claudel A, Joubarne N, Merindol N, Maisonnet T, Plourde MB, Berthoux L. bioRxiv Posted September 6, 2017. (CC-BY-NC 4.0)
  • I型インターフェロン(IFN-I)に誘導されるヒトのウイルス感染抑制因子TRIMαは、NIH3T3 指向性マウス白血病ウイルス(N-MLV)やウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)といった特定のレトロウイルスのヒト細胞への感染を阻止するが、HIV-1の感染抑制効果は乏しい。その一方で、ヒトTRIM5αのレトロウイルス・カプシド認識ドメインにR332GR355Gの2種類のアミノ酸置換を導入すると、TRIM5αの機能は維持されたままTRIM5αがHIV-1感染も効果的に抑制する。
  • 今回、CRISPR-Cas9によるHDRを介してHEK293T細胞のTRIM5遺伝子を編集し、2種類の変異を帯びたクローン(効率5.6%)と、R332G変異だけを帯びたクローンを得た。ただし、標的部位に期待と異なる変異が導入されたクローンや、全てのアレルが野生型のままのクローンも生成された。また、HIV-1を感染させる前にIFN-Iで刺激してもHIV-1抑制効果を示さないクローンも存在したが、その一因は、元々のTRIM5αを介した感染抑制性が低いことにあるとした。
  • 2箇所の置換の効率と精度の向上に向けた研究開発が必要であるが、CrISPR-Cas9ゲノム編集によるHIV-1療法として、TRIM5αノックアウトはCCR5ノックアウトに変わる手法となり得る。