(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/02/25)
- バクテリアは通常、基質に付着と脱離を繰り返しながら、細胞外多糖(EPS,
extracellular polysaccharide)を分泌して強固なバイオフィルムを形成する(挿入図参照).
名古屋大学の堀 克敏らは、トルエン分解菌の一種で非病原性のアシネトバクター(Acinetobacter)Tol 5株が、疎水性のプラスチックから親水性のガラス・金属に瞬時に接着することを見出し、非生物材料表面への強固な接着をもたらす三量体型自己分泌接着タンパク質(trimeric autotransporter adhesin: TAA)を同定し、AtaAと命名していた.今回、MPIのAndrei N. Lupasらと共同でX線構造解析によってその構造基盤の一端を明らかにした. - 多くのアシネトバクターTAAにおいて、C末ヘッド(Chead)、C末ストーク(Cstalk)およびC末膜貫通アンカードメイン(TM)が保存されている.今回、Chead-Cstalk断片と、TMから分泌されるC末パッセンジャードメイン(CPSD)の結晶構造を決定した(挿入構造図参照).
- AtaAは3本のポリペプチドが絡み合ったコイルドコイル構造とベーターストランド構造が混在し、また、疎水性コア領域で強い相互作用をし、同時に、CPSDは柔軟で折れ曲がりを可能にする領域を有し、強靭かつ柔軟な構造体を形成していた.さらにファイバーの構造上細くなる部分がループで補強されていた.一方で、付着に関与する部位は、変異導入実験からN末領域に存在することが明らかになった.
- 今回得られた知見は、微生物を任意の表面に固定化する技術開発に有用であり、また、病原性アシネトバクターの付着を防止する技術開発にも有用である.
- AtaAの構造はJournal of Biological Chemistry 2016年2月19日号の表紙を飾った.
構造→3WP8: Acinetobacter sp.
Tol 5 AtaA C-terminal Ylhead fused to GCN4 adaptors (Chead) (分解能 1.97 Å)
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