(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/02/28)
- [出典] 論文:柏木一宏(Kashiwagi, K.) et
al. "Crystal structure of eukaryotic translation initiation
factor 2B." Nature. 2016 Mar 3;531(7592):122-5. Published online 2016 Feb 22.
プレスリリース:理化学研究所・東京大学・AMED."白質消失病の発症機構-大脳白質「消失」の鍵を握る巨大タンパク質の立体構造を解明-" 2016年2月23日
構造情報:PDB ID 5B04 Crystal structure of the eukaryotic translation initiation factor 2B from Schizosaccharomyces pombe(分解能 2.994 Å) - 白質消失病(vanishing white matter disease:VWM)は、真核細胞翻訳開始因子2B(eIF2B)の異常によって発症する遺伝性の慢性神経変性疾患であるが、ウイルス感染や頭部外傷などのストレスを受けると急激に増悪する.
- eIF2Bは、開始因子eIF2を不活性型のeIF2-GDPから活性型のeIF2-GTPに変換するグアニンヌクレオチド交換因子である(挿入経路図参照).ストレス応答によってeLF2がリン酸化されると、eIF2Bの変換機能が低下し、ひいてはタンパク質合成が抑制される.
- 今回、α-、β-、γ-、δ-、そしてε-のサブユニット2個づつで構成されるヘテロ十量体である巨大なタンパク質eIF2B(Schizosaccharomyces pombe 由来)の全体構造を高分解能で解き、白質消失病の発症につながる真核細胞のストレス応答機構の構造基盤を提示した.
- eIF2Bの調節機能を担う6量体サブ複合体α2β2δ2を中央に、触媒機能を担う2量体サブ複合体γε2個がその両側に結合していた(挿入構造図参照).
- X線結晶構造を参照しつつeIF2Bの表面に位置するアミノ酸を非天然型アミノ酸に置換し、eIF2BとeIF2を光架橋する(Surface-scanning photo-cross-linking法)ことによって、両者の結合表面を特定した.
- eIF2は、α-、β-、そしてγ-サブユニットからなるヘテロ三量体であるが、eIF2αがeIF2Bの中央のα2β2δ2に、eIF2γがeIF2Bのγεの外側に結合していた.また、eIF2γの結合界面はヌクレオチド交換に重要なNFモチーフの近傍に位置していた.
- 続いて、eIF2Bにリン酸化eIF2αとの複合体構築から白質消失に至るモデルを提案:ストレス応答によりeIFαがリン酸化され、eIF2BとeIF2が強固に結合してヌクレオチド交換が抑制され、非活性型のeIF2が増加し、タンパク質合成が抑制され、神経細胞の変性を引き起こし、白質消失に至る.
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