1.ヒト胚のCRISPR/Cas9ノックアウト実験からOCT4が胚形成に必須であることが明らかに

  • [出典] “Genome editing reveals a role for OCT4 in human embryogenesis.” Fogarty, NME Niakan, KK. Nature. Published online 20 September 2017.   
  • Francis Crick InstituteのKathy Niakanが率いる国際共同研究チームは、胚形成の分子機構を解き明かすことを目指す実験の第一歩として、英国規制機関の許可を受け、英国初のヒト胚ゲノム編集実験を行なった。
  • ヒトES細胞とマウス胚での予備実験で、ヒト受精卵においてOCT4 (POU5F1)を標的とする最適な実験条件を洗い出した上で、ヒト1細胞期受精卵においてPOU5F1ノックアウトした。ライブイメージングにより、胚盤胞が形成され始めるが、内部細胞塊の形成が不十分であり、胚は崩壊することを見出した。
  • また、トランスプリクトミクスからPOU5F1ヌル細胞では、CDX2のような胚外の栄養外胚葉遺伝子だけでなく、NANOGGATA2およびGATA4の全てが下方制御されていた。一方で、Pou5f1-ヌルのマウス胚では、ヒトのオーソロガス遺伝子群が発現し、維持はされないが胚盤胞が一旦は形成された。したがって、ヒトではマウスよりも早い時期にOCT4が必要とされることが示唆された。
  • 実験には、体外受精を受ける夫婦から14日後に発生を止めて生化学的および遺伝学的研究を行うことについて事前合意得て入手した胚を使用した。
  • [Nature NEWS] CRISPR used to peer into human embryos' first days (20 September 2017)
  • https://doi.org/10.1038/nature.2017.22646
  • [New Scientist BREIFING] Why has a UK team genetically edited human embryos? (20 September 2017)
  • [Lancet 関連記事] Kathy Niakan: at the forefront of gene editing in embryos. Ball P. Lancet. 2016 Mar 5;387(10022):935. Available online 4 March 2016.
  • [Science関連記事] Embryo edit makes human knockout’” Gretchen Vog. Science IN DEPTH 2017 Sep 22;357(6357):1225
  • [Nature関連記事] Take stock of research ethics in human genome editing.Nature EDITORIAL 2017 Sept 21;549(7672):307:本論文と8月オンライン刊行のMa論文(ヒト胚における心疾患病因変異の修復)を引用し、今まさに、ヒトゲノム編集を巡る研究の進め方を関係者全てが吟味する時とした。
  • [関連ブログ記事] 2017/09/22英国規制機関として世界で初めてヒト胚を対象とするゲノム編集を認可(2016)

2.マウスES細胞における血液脈管形成(hemangiogenic)細胞運命決定に関わる遺伝子解析

  • [出典] “A CRISPR screen identifies genes controlling Etv2 threshold expression in murine hemangiogenic fate commitment.” Zhao H, Choi K. Nat Commun. 2017 Sep 14;8(1):541.
  • 造血細胞と血管内皮細胞の生成(hemangiogenesis/血液脈管新生)には転写因子ETS variant 2(ETV2)で必要十分とされているところ、今回、蛍光標識マウスESレポーター細胞の観察とトランスクリプトミクス、および、ゲノムワイドCRISPRスクリーニング(20,608タンパク質コーディング遺伝子と1,145mrRNAsを標的とする66,405 gRNAsを使用)とスクリーニング結果から絞り込んだ主要な遺伝子のノックアウト実験から、Etv2遺伝子の調節と血液脈管新生の細胞運命決定の機構を初めて詳らかにした:(挿入図参照)Foxh1が部分的にEomesを介してFLK1+中胚葉形成を調節し、FLK1+中胚葉において、VEGF-FLK1シグナル伝達を必要とするEtv2の発現レベルによって細胞運命が決定される。

hemangiogenic fate commitment