• 【出典】“Genome-wide CRISPR screen for essential cell growth mediators in mutant KRAS colorectal cancers.” Rana TM, Yau EH, Kummetha IR, Lichinchi G, Tang R,  Zhang Y. Cancer Res. Published Online First September 27, 2017.
  • これまでに、細胞モデルでは、ゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーンにより、野生型KRASKRASWT)を帯びた腫瘍細胞と変異型KRASKRASMUT)を帯びた腫瘍細胞の間で下流のMAPKシグナル伝達パスウエイの遺伝子やアダプターへの依存性が異なること、および、KRASMUT腫瘍がミトコンドリアの酸化的リン酸化に強く依存することが示されていた。
  • この知見をin vivoで検証することを目的として今回、ヒトのコーディング遺伝子19,050種類とmiRNAs1,864種類を標的とするプール型GeCKO v2ライブラリをG13D変異の有無だけが異なるKRASWTKRASMUTヒト大腸癌細胞(HTC116WTとHTC116MUT)に1細胞あたり1sgRNAになるように調節・送達した上で、ヌードマウスに移植(皮下注射)し、移植後14日後に安楽死させ癌組織を摘出、PCRとディープシーケンシングによりsgRNAを定量した。
  • KEGGパスウエイを参照したGene Set Enrichment Analysis (GSEA)から、異種移植したHTC116WTHTC116MUTに共通する必須/致死遺伝子の上位2種にリボソームとスプライソソーム関連遺伝子が浮かび上がり、これはin vitroでの知見と一致した。
  • 異種移植HTC116MUTに特有の合成致死遺伝子として、MAPKシグナル伝達パスウエイ、酸化的リン酸化を含む代謝パスウエイ関連する既知および新規遺伝子群が浮かび上がったが、代謝関連遺伝子NADキナーゼ(NADK)とケトヘキソキナーゼ(KHK)などについては、in vivo実験と並行して行ったHTC116MUT培養細胞実験では、合成致死性が見られなかった
  • NADKとケトヘキソキナーゼKHKについてそれぞれ低分子による阻害実験を行い、阻害剤がHTC116MUT腫瘍の増殖を阻害するが、HTC116WT腫瘍の増殖は阻害しないことを見出した。NADKとKHKはKRAS変異腫瘍の新規創薬標的である。
  • 加えて、絞り込んだ250遺伝子を対象として9 sgRNAs/遺伝子のプール型ライブラリーを設計し、その存在量が、HTC116MUT マウスHTC116WTマウスの間で大きく異なるsgRNAsを同定し、クロマチンリモデリング因子INO80Cが新規な腫瘍抑制因子であることを見出した。INO80Cについては、TGCAデータセットからINO80C欠損と、HTC116MUT大腸癌、非小細胞肺癌、および膵管腺癌の予後不良が相関することが見出され、また、INO80CノックアウトがHTC116MUT腫瘍細胞の増殖を亢進することを大腸癌と膵臓癌の移植マウスと腫瘍細胞株で確認することができた。
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