1.造血器腫瘍モデルの作出と療法評価
  • [出典] "Multiplex CRISPR/Cas9-Based Genome Editing in Human Hematopoietic Stem Cells Models Clonal Hematopoiesis and Myeloid Neoplasia” Tothova Z, 〜 Ebert BL7. Cell Stem Cell. 2017 Oct 5;21(4):547-555.e8.
  • 造血器腫瘍の新しい療法を評価するには、患者に見られる遺伝子変異の複雑な組み合わせを再現するヒト細胞モデルが必要である。Dana-Farber/Bringham-Women’s/BroadのBenjamin L. Eberらは今回、CRISPR/Cas9技術によってCD34陽性ヒト造血幹細胞・前駆細胞のゲノムを多重編集し、免疫不全マウスに移植して増幅し、クローン性造血クローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)と骨髄腫瘍のモデルを得た。
  • 骨髄腫瘍患者に見られるコヒーシン複合体遺伝子を含む複数遺伝子(STAG2SMC3TET2, ASXL1, DNMT3A, RUNX1, TP53, NF1, EZH2)に変異を導入。
  • 変異を帯びたヒト造血細胞は、長期間、複数の細胞系譜にて再構成され、累代移植が可能な腫瘍性クローンを生成した。
  • 確立したモデルを利用して療法を評価し、TET2とコヒーシンが変異した造血細胞が、アザシチジンに対する感受性を示すことを見出した。
  • 造血幹細胞・前駆細胞のCRISPR/Cas9多重遺伝子編集は、体細胞変異を含む遺伝的変異と病態のin vitro/in vivoモデルの開発と、モデルに基づく療法の評価に有用なことが実証された。
2.幹細胞とゲノム編集:腎臓の発生・疾患の研究プラットフォーム構築
  • [出典] “Studying Kidney Disease Using Tissue and Genome Engineering in Human Pluripotent Stem Cells” Garreta E, González F, Montserrat N. Nephron. 2017 Oct 7. (Accepted after revision August 9, 2017)
  • ヒト多能性幹細胞(hPSCs)の腎臓への分化とオルガノイド形成技術とCRISPR/Cas9ゲノム編集技術による腎臓病モデリングの最新動向をミニレビュー(参考文献 51件)
  • hPSCs:患者由来iPSCsからの疾患モデル形成と薬剤スクリーニングが試行されてきた。
  • hPSCsからの腎臓オルガノイド形成:hPSCsの腎前駆細胞と腎臓オルガネラへの分化プロトコル9例(2013〜2015)が表1にまとめられ、テキストで詳細に解説
  • hPSCsを利用した腎臓病と発生の研究:多発性嚢胞腎疾患を含む多様な腎臓疾患に相関する遺伝的変異を帯びたヒトiPSC(hiPSC)株のコホート開発;患者由来細胞からのhiPSC;CRISPR/Cas9による同質遺伝子系hPSCs(膵臓発生における転写因子解析の例;未分化hPSCsにて腎疾患相関遺伝子PODXL/PKD1/PDK2のノックアウトの例)  
3.ラット胚性幹細胞(ESC)のゲノム編集によりin vitroモデルとin vivoレポーターを作出
  • [出典] “Gene Editing in Rat Embryonic Stem Cells to Produce In Vitro Models and In Vivo ReportersStem Cell Reports. 2017 Oct 10;9(4):1262-1274. (bioRxiv Posted February 27, 2017)
  • ラットESCはマウスESCに比べて不安定であり、安定した成長と生殖細胞系伝達の実現には熟練が必要であり、特に、遺伝子ターゲッティングに必要なクローン選択後の操作は難しい。このため、ラットESC遺伝子組換え実験は進まなかった。
  • また近年、CRISPR/Cas9を1細胞胚に注入することで、ラットにおいても遺伝子ノックアウトや、ssODNsによるDNA断片の挿入が可能になったが、遺伝子編集の効率が低くまた予測が困難であり、CRISPR/Cas9システムを多数の胚への導入が必要になりひいては多くの個体を維持することが必要になる。加えて、第1世代が通常モザイクになるため、さらに、繁殖とジェノタイピングが必要になり、実験動物保護の3R基準を満たすことが難しい。
  • CRISPR/Cas9による精原幹細胞のゲノム編集によるノックアウトも実現しており、生殖細胞系列のゲホム編集によりモザイク子孫の発生を回避可能であるが、相同組み換えは実現しておらず、応用が限られる。
  • Austin Smithらケンブリッジ大学の研究チームは今回、CRISPR/Cas9技術とESC培養条件の工夫により、ラットESCにおいて遺伝子変異導入と相同組み換えを実現した。
  • 標的変異導入:CRISPR/Cas9によりラットESCにGKS3阻害剤CHに対する高い感受性をもたらすとされるWntシグナル伝達エフェクターLef1への変異導入を実現し、GSK3阻害剤に対する感受性が失われることを確認。
  • 非侵襲的Sox10ノックインレポーターの作出Sox10-IRES-HisDsRedのコンストラクトとCas9ニッカーゼを利用した相同組み換えにより、レポーターのノックインを実現し、ランスジェニック系統において、dsRed蛍光を胎生11.5日で神経堤で検出、胎生13.5日で後根神経節と三叉神経節にて顕著な蛍光を観察。さらに、生後のラッド脳組織において、dsRed陽性のオリゴデンドログリア細胞のホールセル・パッチクランプ測定を実現