• [出典] “Rationalizing combination therapies” Nat Med. EDITORIAL 2017 Oct 6;23(10):1113.
  • システム生物学と仮説駆動型(hypothesis-driven)前臨床研究によって、臨床試験の成功率を高め、また、薬剤の相乗作用(durg synergies)をもたらす分子機構が明らかになっていくことを期待できる。
  • 癌、感染症や各種疾患(代謝、循環器、自己免疫疾、神経)の多剤併用療法の臨床試験が10,000以上データベース(https://clinicaltrials.gov/)に登録され、さらに多くの前臨床研究が盛んに進められている。しかし、対象とされている薬剤の組み合わせは、薬剤のあらゆる組み合わせのごく一部に過ぎない。したがって、前臨床試験の対象とする組み合わせを選択する戦略と、臨床への展開の可否を判定する手法が必要である。
  • 併用療法の効用は、個別の薬剤の効用との対比に加えて、他の組み合わせと比較する必要がある。こうした比較を臨床試験で行うことは困難であるが、前臨床研究におけるハイスループットスクリーニングにより多くの組み合わせの中から相乗効果が最も高い有望な組み合わせを選択するに役立つ情報を得ることができる。また、同時に薬剤間相互作用をもたらす分子機構の手掛かりも得られる。
  • 前臨床実験の設計にあたっては、冗長性とフィードバック機能が内在している生物学的回路を構成する複数の因子を標的とすることが合理的である(数理モデル(*1))。また、疾患に相関する回路のシステム生物学の手法によるモデリングも、薬剤耐性を回避あるいは抑止し、有効な効用をもたらすに最小限必要な標的パスウエイと薬剤の絞り込み、ひいては合理的な前臨床実験の合理的設計に有用である。
  • 一方で、モデリングには限界がある。多くの疾患が相関する多くの細胞型、組織及び器官で構成される高次の生理学的回路の精密なモデル構築に必要な知見が未だ蓄積されていないからである。そこで、免疫療法の急展開に見られるように、生理学的仮説に基づいた設計が必要になる。免疫チェックポイント受容体CTLA-4阻害に対して、癌細胞は、PD-1受容体とそのリガンドPD-L1/2の上方制御により、耐性を獲得する。
  • 前述の知見と整合して、CTLA-4を標的とするイピリムマブとPD-1を標的とするニボルマブの併用は、相乗効果を示した。一方で、CTLA-4を標的とするトレメリムマブとPD-L1を標的とするデュルバルマブの併用は、非小細胞肺癌に対して相乗効果を示さなかった(2019/07/28 アストラゼネカMYSTIC試験の結果報告)。両者の差異がよって来たる分子機序を、前臨床研究で検証することで、次の療法開発への指針が得られる。
  • 併用療法の開発には、権利関係や経費に煩わされることなく臨床薬や認可薬を利用可能にする環境づくりも必要である(*2)。米国NCIは2017年1月11日に、NCI Formularyプログラムを立ち上げて、関連研究者の併用療法候補薬利用を可能にした。
  • [参考文献] (*1)  Bozic I et al. “Evolutionary dynamics of cancer in response to targeted combination therapy” eLife. 2013 Jun 25;2:e00747;(*2) Deng B. “Approval may embolden industry to combine cancer therapies” Nat Med. 2015 Feb;21(2):105.