[注*]本記事では、免疫チェックポイント阻害剤(Immune checkpoint Inhibitors)をICIと記述。
2015年Science掲載展望と2論文
- Science誌2015年11月27日号では、互いに独立な2研究チームが同号に発表した「抗-CTLA-4療法の効用の腸内菌叢Bacteroides spp依存 (マウスメラノーマモデル)」と「抗PD-L1療法の効用のBifidobacterium spp依存(マウスメラノーマモデル)」の2論文を、「Could microbial therapy boost cancer immunotherapy?」と題する「展望」記事で紹介した。これによって、癌免疫療法の効用と腸内菌叢との相関への関心が一層高まる一方で、モデルマウスから得られた結果をヒトに展開する上での課題も指摘された。
2017年Science掲載 IN DEPTH と2論文
- 今回、Science誌2017年11月3日号は、「Gut microbes shape response to cancer immunotherapy」と題するIN DEPTH記事を掲載し、癌患者の腸内菌叢と免疫チェックポイント阻害療法との相関を解析した同号掲載論文2編を紹介した。そのうち一編は「抗-CTLA-4療法の効用の腸内菌叢Bacteroides spp依存」を報告したKroemer Kと Zitvogel LらGustave Roussy Cancer Campusをはじめとする国際研究チームの報告であり (論文1)、もう1編はWargo JA らのUT MD Anderson Cancer Center研究チームからの報告である (論文2)。
[論文1]腸内菌叢が、上皮性腫瘍に対するPD-1を標的とするICI療法の効用に影響を与える。
- Routy B 〜 Kroemer K, Zitvogel L. et al. “Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors” Science. 2017 Nov 2.
- 予備実験において、サルコーマとメラノーマのモデルマウスにおいて、抗生物質投与が、抗PD-1または抗CTLA-4療法の効用を強く抑制することを見出した。続いて、1種類または複数種類の癌療法の後に抗-PD-1/PD-L1モノクローナル抗体を処方された249人のコホートにおいて(非小細胞肺癌患者140人、腎細胞癌67人 および尿路上皮癌 42人)、抗生物質が処方された69人において、ICIへの応答低減、癌の増悪及び生存率低下が起こることを見出した。
- 無菌マウスまたは抗生物質を処方したマウスに対して、ICIに応答する患者(R)からの便を移植(Fecal microbiota transplantation, FMT)することで、ICI応答性が改善した。ICIに応答しない患者(NR)からの便移植はその効果を示さなかった。
- メタゲノム解析(> 2,000万リード)から、腸内菌叢が多様なほどICIに対する感受性が高いことを見出した。さらに、癌患者のICI応答と肥満/2型糖尿病の治療標的の可能性が報告されていたAkkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)の相対量が相関することを見出した。NR由来の便の移植(FMT)後に、A. muciniphilaを無菌マウスまたは抗生物質投与マウスに経口投与すると、CCR9+CXCR3+CD4+ T細胞の腫瘍床へのリクルートが亢進し、PD-1阻害のIL-12依存性回復が見られた。
- A. muciniphilaの免疫調節機構は不明であるが、A. muciniphila, Clostridiales およびRuminococcaceaeが、腸と免疫応答の恒常性を維持する菌叢を形成することも考えられる。
[論文2]腸内菌叢が、メラノーマ患者の抗-PD-1免疫療法への応答(response)を調節する
- Gopalakrishnan V 〜 Wargo JA (UT MD Anderson Cancer Center). “Gut microbiome modulates response to anti-PD-1 immunotherapy in melanoma patients” Science. 2017 Nov 2.
- 前臨床マウスモデルから、腸内菌叢がICI対する腫瘍の応答を調節することが示唆されたが、癌患者での検証が不十分であった。今回、抗-PD-1免疫療法を受けている転移性メラノーマ患者(N=112)の腸内菌叢と口腔菌叢を16SrRNAシーケンシングとメタゲノムシーケンシングにより解析した。
- その結果、ICIに応答する患者(R)と応答しない患者(NR)の間で、口腔菌叢には差異が見られなかったが、腸内菌叢の組成と機能が大きく異なることを見出した。便サンプル(n=n=43, 30Rと13NR)の解析から、Rサンプルにはより多様なαバクテリアが存在し、またClostridiales/Ruminococcaceaeに富む一方で、NRサンプルはBacteroidalesに富んでいた。
- メタゲノム解析からは、腸内細菌の機能も、Rでは同化作用パスウエイがエンリッチされているなど、RとNRで異なることを見出した。
- 免疫プロファイリングからは、”a favorable gut microbiome”(多様性が高く、Ruminococcaceae/Faecalibacteriumが富むマイクロバイオーム)を帯びた患者は、抗原提示とエフェクターT細胞の活性化を介して、ICIへの応答が亢進することが示唆された。
- 加えて、R患者からの便移植により、無菌マウスにICIへの応答が生じ、マウスにおける腫瘍増殖が大きく抑制されることを見出した。
[腸内菌叢と免疫調節関連レビュー]
- [REVIEW] Roy S, Trinchieri G. “Microbiota: a key orchestrator of cancer therapy” Nat Rev Cancer. 2017 May;17(5):271-285. Epub 2017 Mar 17.
- [RESOURCE] Geva-Zatorsky N, Sefik E, Kua L, Pasman L, Tan TG1, Ortiz-Lopez A, Yanortsang TB, Yang L, Jupp R, Mathis D, Benoist C, Kasper DL. “Mining the Human Gut Microbiota for Immunomodulatory Organisms” Cell. 2017 Feb 23;168(5):928-943.e11. Epub 2017 Feb 16.
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