[出典]
[Pcsk9阻害の意味]
  • FDAは近年、家族性高コレステロール血症または高コレステロール血症治療薬として、スタチンと異なる機序で作用するPCSK9(前駆タンパク転換酵素サブチシリン/ケキシン9型)阻害薬、アリロクマブ(サノフィ社プラルエント)とエボロクマブ(アムジェン社レパーサ)、を認可したが、これらの抗体医薬品は、定期的かつ継続的に処方する必要がある。今回、Daniel G Anderson(MIT)らは、Pcsk9遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9システムを1回送達することで、Pcsk9を恒常的に阻害できる可能性を示した。
[enhanced-sgRNA (e-sgRNA)の開発]
  • RNA療法において化学修飾によりRNAにヌクレアーゼ耐性を付与して治療効果を高める手法に倣い、sgRNAの化学修飾による遺伝子編集効率の向上を目指した。
  • HEK293 GFPレポーター細胞を利用して、sgRNAとCas9との結合構造を参照しつつ、標的DNA鎖に結合するsgRNAの可変領域と標的配列とは独立なsgRNAの固定領域それぞれ全てまたは一部を対象とする2’OMe RNA, 2’F RNAおよびPS結合の化学修飾を網羅的に評価した。
  • その結果、主としてCas9と結合しない領域を対象としてsgRNAの101塩基のうち70塩基を2’OMeとPS結合へと改変することで、遺伝子編集効率を大きく向上させるe-sgRNAを同定した。
  • e-sgRNAの設計指針は、他のCRISPR関連エフェクターや応用例(可視化、遺伝子活性化など)へ展開可能である。
[脂質ナノ粒子によるe-sgRNAとCas9 mRNAの肝臓への送達]
  • AAVによるCas9の送達は、AAVの積荷サイズ制限、Cas9の恒常的発現によるオフターゲット作用および免疫原生といった問題を伴う。
  • 研究チームは先行研究で、Cas9 mRNAを脂質ナノ粒子(LNP)で、sgRNAと相同組み換え修復用テンプレートをAAVで送達し、マウス肝臓ゲノムの効率的編集を実現(Therapeutic genome editing by combined viral and non-viral delivery of CRISPR system components in vivo. Nat Biotechnol, 2016)したが、今回初めて、CRISPR/Cas9システムの完全に”non-viral”な送達を試みた。
  • HEK293細胞での実験とGFPレポータマウスでの実験を経て、Pcsk9遺伝子を標的とする2種類のe-sgRNAsとCas9 mRNAをLNPに格納し、マウスに静脈注射した。一回の静脈注射5日後には、血清中のPcsk9が検出限界未満へと低減し、全コレステロール量は35-40%低減した。
  • 肝臓ゲノムDNAの〜83%に、小さなindels、遺伝子領域の欠損、逆位を含む遺伝子編集が発生し、通常のsgRNAや5’末端と3’末端を化学修飾した5’&3’ sgRNAに対してe-sgRNAは極めて高効率でった。
  • また、肝実質細胞の増殖や生存を支える肝非実質細胞群には遺伝子編集が見られず、肺と脾臓における遺伝子編集も見られなかった。GUIDE-seqとディープシーケンシングで評価したオフターゲット編集は、e-sgRNAでは最小限であった。
  • Pcsk9遺伝子座の他に、 フマリルアセト酢酸加水分解酵素Fah遺伝子座とROSA26遺伝子座を標的とする実験でも高効率編集を確認
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