(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/03/16

  1. [解説] CRISPRシステムによる潜在HIV-1の再活性化:Zachary Klase (U. Sciences)
    • 多剤併用療法(combination antiretroviral therapy: cART)は、HIV-1患者の血液中ウイルスを検出限界以下へと低減し、著効を示すが、治癒(cure)には至らない.プロウイルスが静止期メモリーCD4陽性T細胞に潜在することで全身に存在し続けるからである.
    • 解説掲載と同じ号に掲載された潜在HIV-1の再活性化の試み3論文を比較解説.いずれもdCas9にエフェクターを組み合わせる手法を採用
    • dsCas9とエフェクターの組み合わせ:dCas9+VP64;dCas9+ヒストンリモデリングタンパク質(p300);dCas9+VPR(VP64/NFκB活性化因子p65/EBウイルストランス活性化因子Rta);dCas9+VP64と改変したsgRNA(sgSAM)に加えて、NFκBを活性化しSp1をリクルートするMS2-p65-HSF1を共に送達;dCas9+SunTag(可視化のためのGFPとVP64のコンストラクトを24コピーリクルート可能に)
    • エフェクターの組み合わせ、sgRNAの標的の選択、あるいは、アッセイ法が異なるが、Jlat 9.2Jlat 10.6において、ボリノスタット(Vorinostat)と同等の再活性化効果を確認.
    • CRISPR/dCas9によるゲノム編集は極めて選択性が高いため、ボリノスタットと異なり細胞障害性T細胞の応答を阻害しないことを期待できる.
    • 今後臨床応用までには、すべての遺伝子治療法に共通の課題である患者由来細胞への送達法や定量的なアッセイ法の確立を経ていくことになる.
  2. [解説] 筋ジストロフィーのin vivo 体細胞遺伝子編集:Thierry VandenDriessche (Free University of Brussels )
    • CRISPR/Cas9によるデュシェンヌ型ジストロフィー(DMD)の遺伝子治療に関する論文(Science 誌掲載3論文Molecular Therapy 誌掲載論文
    • )を取り上げた解説
    • 4論文ともにDMDモデル動物であるmdx マウスを使ったin vivo 実験.Cas9とジストロフィン遺伝子のイントロン22と23を標的とするgRNAsをAAV8またはAAV9で送達し、エクソン23をスキップさせることで、ジストロフィンの読み枠回復に成功し、骨格筋と心筋でジストロフィンの発現と筋力が一定程度回復.この療法はDMD患者の80%に恩恵をもたらす可能性がある.
    • 興味深いことに遺伝子修正が、成熟した筋線維だけでなく筋形成前駆細胞でも起こったことから、Cas9とgRNAsを投与後長期間にわたり内在的に筋繊維が再生されていくことを期待できる.
    • 臨床応用への課題:実験で用いられた過大な用量の抑制;遺伝子編集効率の向上;オフターゲット編集のリスクのさらなる低減;Cas9とgRNAsの一時的発現の実現;潜在するCas9に対する免疫反応
    • CRISPR/Cas9によるエクソン・スキッピングの手法は、これまでに研究開発されきた遺伝子を追加(gene additing)する遺伝子治療法に直ちに取って代わるというよりは、それぞれ研究開発が進展していくことが望ましい.
  3. [論文] CRISPR/Cas9による血友病モデルマウスの作出と凝固因子IX遺伝子の新奇変異を標的とする遺伝子治療:Yanlin Ma (Hainan Medical U.);Mingyao LiuDali Li (Inst. Biomedical Sciences and School of Life Sciences, Shanghai)
    • 血友病Bのキャリアである家系においてヒトF9 遺伝子における新奇変異Y371Dを同定した.CRISPR/Cas9システムで作出したモデルマウスによって、新奇変異Y371Dが従来知られていた変異Y371Sよりも重篤な症状をもたらすことを見出した.
    • 成体マウスにおいて、Y371D変異を標的としてCas9による遺伝子編集を試みた.ネイキッドDNAで送達した場合は、肝細胞において標的遺伝子座の0.56%以上が修復され、血友病の寛解が見られた.アデノウイルスによって送達した場合は、遺伝子修復効率が高くなったが、重篤な肝障害が発生したために、治療効果は得られなかった.
  4. [レビュー] I型とII型のCRISPR/Casシステムの構造基盤とDNA切断の動態:Sangsu Bae (Inst. Basic Science/Hanyang U.)
    • I型とII型のCasヌクレアーゼの分子構造と動態に関する最新研究動向について、単分子観察で明らかになってきた標的DNAの探索と切断のプロセスに焦点を当ててレビュー.
    • [構造] I-E型CRISPR/Casシステム(Cascade-Cas3複合体);II型CRISPR/Casシステム(Cas9)
    • [単分子リアルタイム観察] II型CRISPR/Casシステム(Cas9-RNA複合体)の標的DNA探索機構;Cas9によるATPに依存しないRループ形成;Cascade複合体におけるPAMから遠ざかる方向へのRループ伝搬;Cascade複合体の2種類の機能;
    • I型においてもII型においても、複合体は異なるがDNAを認識するプロセスでRループを形成し、オフターゲットサイトよりはオンターゲットサイトにより長い時間止まることは共通している.今後、単分子観察によるin vivo での動態解析が待たれる.