• [出典]"A Universal Approach to Correct Various HBB Gene Mutations in Human Stem Cells for Gene Therapy of Beta-Thalassemia and Sickle Cell Disease" Stem Cells Transl Med. 21 November 2017
  • βサラセミア(β-thal)患者では3つのエクソンを含む〜1,600-bpのHBB遺伝子に200種類の変異が同定されている。一方で、HBBの第一エクソンにおけるホモ型変異により鎌状赤血球症(SCD)が発症する。こうしたβ-thalとSCDの遺伝子治療として、幹細胞にてHBB変異を修正し、正常なHBBタンパク質を産生する赤血球へと分化する手法が期待される。CRISPR/Cas9によるHDRを介した変異遺伝子の修正は可能であるが、200種類の変異を全て修正することは、各変異ごとにsgRNAとHDR用テンプレートを用意する必要があり、容易ではない。
  • ジョンズ・ホプキンス大学のL. CHengら米中の研究チームは今回、HBBの第1エクソンと3'UTRを標的とする2種類のgRNAsと、HBBの全てのタンパク質コーディング配列(cDNA)からなるテンプレートを介したCRISPR/Cas9 HDRにより、第1、2、3エクソンさらにはその下流のサイトの変異を機能的に修復する手法を開発した(ストップコドンの直下の3'UTRを標的とするgRNAは、テンプレートHBB遺伝子と内在HBB遺伝子の間の組み換えを防止するために必要であることを予備実験で同定したことによる)。
  • HBBのcDNAの下流に2A自己開裂ペプチド2Aを介してGFPレポーター遺伝子を結合した。実証実験を、第1エクソンおよび第2エクソンと第2イントロンに変異を帯びた2種類のβ-thal患者由来iPSC(以下、BH1とBH2)にて行った:BH1/ β17 (AAG>TAG, rs33986703); β-thal654 (c>t, rs34451549);BH2/ b17 (AAG>TAG, rs33986703); β41–42 (-TCTT)。BH1とBH2いずれも赤血球に分化したが、HBBタンパク質を欠失していた。
  • テンプレートによるHDRが片アレルまたは両アレルで実現した。オフターゲット候補サイトでの配列変異は生じなかった。HDRによる修復が起きたiPSCは赤血球まで分化し、HBBタンパク質産生を回復していた。今回使用したgRNAは先行研究でSCDの点変異修復を実現したgRNAであることから、今回のユニバーサルアプローチによって、β-thalの病因変異のほとんどとSCD病因変異の修復が可能である。また、今回樹立したHBB-GFP標識赤血球は、低分子スクリーニングに有用である。