1.[プロトコル]Easi-CRISPR:長鎖一本鎖を利用してノックインマウスとコンディショナルノックアウトマウスを高効率で作出する法
  • [出典]"Easi-CRISPR for creating knock-in and conditional knockout mouse models using long ssDNA donors" MIURA H, Quadros RM, Gurumurthy CB, Ohtsuka M. Nature Protocols 2017 Dec 21;13:195–215
  • [オリジナル論文] "Easi-CRISPR: a robust method for one-step generation of mice carrying conditional and insertion alleles using long ssDNA donors and CRISPR ribonucleoproteins" Quadros RM, Miura H, et al. Genome Biol. 2017 May 17;18(1):92
  • Easi-CRISPR (Efficient additions with ssDNA inserts-CRISPR); Cas9/crRNA/tracrRNAのRNP(ctRNP)とドナーとなる長鎖一本鎖DNAをマウス接合子へ送達;通常30〜60%(場合によっては100%)の編集効率を実現(下図は、Genome Biology論文からCC BY 4.0 にて引用)e7469ade
  • 関連ツイート:本論文がCell, ScienceおよびNature MethodsからリジェクトされGenome Biologyに採択され、それ以後、多くの研究者に利用され始めた経緯  
2.SaCas9の特徴
  • [出典]"SaCas9 requires 5'-NNGRRT-3' PAM for sufficient cleavage and possesses higher cleavage activity than SpCas9 or FnCpf1 in human cells" Xie H, Tang L, He X, Liu X, Zhou C, Liu J, Ge X, Li J, Liu C, Zhao J, Qu J, Song Z, Gu F. Biotechnol J. 2017 Dec 16
  • ヒト細胞内でPAM配列がCas9切断活性に与える影響を解析するために、二重蛍光レポーターシステム(mT/mG  (plasmid mTomatoカセットとmeGFPカセットで構成したプラスミドを使用 )を開発し、SaCas9が多重なサイトを十分に切断するには5'-NNGRRT-3' PAMが必須であり、また、SaCas9がSpCas9とFnCpf1よりも切断活性が高いことを見出した。
3.Cas9-sgRNA RNPをカチオン性脂質でベートーベン・マウスに直接送達することで、常染色体優性難聴の遺伝子治療が可能性なことを示した
  • [出典]"Treatment of autosomal dominant hearing loss by in vivo delivery of genome editing agents" Gao X, ~ Chen ZY, Liu DR. Nature. 2017 Dec 20
  • 難聴相関アレルが100種類ほど同定されているが、遺伝性難聴の進行を遅らせるあるいは聴力回復に向かわせる療法が存在しない。野生型アレルによって機能を相補する試みやドミナントネガティブな変異アレルのサイレンシングが、難聴マウスモデルで奏功しているが、臨床応用へと展開するには、免疫原性や腫瘍原性の問題や、送達用ウイルスベクターの限界の問題を解決する必要がある。
  • 一方で、Cas9による遺伝子編集によって標的遺伝子の破壊または修復が可能になってきた。ゲノム上の病因変異を1回の処置で恒常的に修復するには、遺伝子編集用の Cas9-sgRNAを、それらをコードするDNAとしてではなく、細胞内で分解し特異性と安全性が高いリボ核タンパク質(RNP)の形で、送達することが望ましい。
  • 難聴に相関するアレルの〜20%が優性遺伝であり、Harvard U.のDavid R.LiuとHMSのZheng-Yi Chenらの研究チームは今回、難聴マウスモデル、ベートーベン(Bth)、の難聴相関変異遺伝子をCas9-sgRNAシステムで破壊することを試みた。
  • 難聴相関遺伝子の多くが、音響振動を神経電気信号に変換する感覚有毛細胞に影響を与えるが、TMC1がその機械的シグナル伝達の必須因子である。はじめに、BthマウスモデルのTmc1アレルのT1235A変異とその近傍のNGG PAMを標的とするsgRNAを設計・評価し、最適なsgRNAを同定した。
  • 次に、カチオン性脂質を介したCas9-sgRNA RNP送達による遺伝子編集を、野生型とホモ変異型の初代繊維芽細胞において評価し、変異Tmc1遺伝子座を選択的に破壊することが可能なことを確認した。また、RNPの形でのCas9-sgRNAの送達がオフターゲット作用を抑制することも、GUIDE-seqとin silicoで確認した。
  • こうして最適化したCas9-gRNA-脂質複合体をTmc1Bth/+モデルマウス新生仔の蝸牛に直接注入し、進行性難聴が顕著に低減し、内耳有毛細胞の生存率が上昇した。また、Tmc1遺伝子編集用複合体を注入した耳の聴性脳幹反応(ABR)の閾値が、注入しなかった耳や難聴とは無関係の遺伝子を標的とする複合体を注入した耳より低いことを見出した。聴覚驚愕反応も向上した。