[出典]
  • Fellows R, ~ Bonaldi T, Vinolo MAR, Varga-Weisz P. "Microbiota derived short chain fatty acids promote histone crotonylation in the colon through histone deacetylases" Nat Commun. 2018 Jan 9;9(1):105.
[ヒストンのクロトニル化]
  • 近年、細胞代謝と遺伝子調節を繋ぐ新たなヒストン翻訳後修飾であるクロトニル(crotonylation)が発見されたが、クロトニル化調節機構と組織特異的機能の解明はこれからである。
  • Babraham Instituteをはじめとする英国・ブラジル共同研究チームは今回、マウスの結腸、脳、肝臓および腎臓におけるヒストンのクロトニル化のレベルを抗体で測定比較し、結腸と脳でクロトニル化が高頻度で起きていることを見出し、結腸におけるヒストンクロトニル化について詳細な解析を進めた。
[腸におけるヒストンクロトニル化]
  • LC-MS/MS解析:ヒストンH3のK9, K14, K18、K27およびK56がクロトニル化され、中でもK18のクロトニル化(H3K18cr)が最も高頻度であり、また、H3K23アセチル化と相関することを見出した。
  • ChIP-seqとRNA-seq:H3K18crが、H3Kme3に似て、転写開始点(TSS)と相関し、H3K18crのTSSへのエンリッチが増すと、されてい一連の遺伝子発現が亢進することを見出した。この遺伝子群が癌に関わるパスウエーなどに関与することがKEGGパスウエイ解析から示された。
[短鎖脂肪酸の役割]
  • ヒストンクロトニル化が腸で亢進していたことと、これまでにヒストンクロトニル化が細胞代謝と関連づけられていたことから、腸内細菌叢由来の短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids, SCFAs)とクロトニル化の関係を解析した。抗生物質カクテルの3日間投与によって腸内腔と血中のバクテリア量とSCFAsを減じたマウスでは、腸におけるヒストンクロトニル化が顕著に減衰すること(H4K8を筆頭としてH3K13とH4にて)を見出した。また同時にHDAC2が増加することも見出した。
  • ヒト結腸腺癌由来HCT116細胞株とマウス小腸オルガノイドの培養液に、腸に内在する酪酸などのSCFAを添加すると、H3とH4のクロトニル化が亢進した。
  • 脳でのクロトニル化も亢進していたことは、SCFAは大腸から血流に乗り脳細胞にも取り込まれることを示唆する。
[クラスⅠヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の役割]
  • 酪酸はよく知られたHDAC阻害剤であるが、臨床薬エンチノスタット(MS275)を含むその他のHDAC阻害剤も、HCT116においてヒストンクロトニル化を亢進し、遺伝子間領域も含むゲノムワイドに広げることを見出した。
  • 加えて、in vitroアッセイから、クラスⅠHDACs(HDAC1-3)が、脱クロトニル化活性を有することを同定した。
  • また、HDACを介してヒストンクロトニル化が細胞周期の間に変動することを示唆する結果も得た。
  • 腸において、酪酸のようなSCFAsが、HDACsの脱クロトニル化活性を抑制し、ヒストンのクロトニル化を亢進すると考えられる。
[本論文改訂中に発表された相補的論文]
[クロトニル化関連論文]
  • Tan M, Luo H, Lee S, Jin F, Yang JS, Montellier E, Buchou T, Cheng Z, Rousseaux S, Rajagopal N, Lu Z, Ye Z, Zhu Q, Wysocka J, Ye Y, Khochbin S, Ren B, Zhao Y. "Identification of 67 histone marks and histone lysine crotonylation as a new type of histone modification" Cell. 2011 Sep 16;146(6):1016-28. :"At least eleven types of PTMs have been reported at over 60 different amino acid residues on histones, including histone methylation, acetylation, propionylation, butyrylation, formylation, phosphorylation, ubiquitylation, sumoylation, citrullination, proline isomerization, and ADP ribosylation...."