(構造生命科学ニュースウオッチ2016/03/26から転載)
  1. [論説] CRISPR/Cas9は異種間臓器移植を促進するか:Daniel R. Salomon (Scripps)
    • 米国では現時点で120,000人が臓器移植を待ち、年間23,000件の移植が行われる一方で、臓器移植を必要とする患者が毎年50,000人増加する.この厳しい現実のもと、異種移植の研究にドライブがかかっている.
    • ヒトへの臓器移植に最も現実的な動物はブタである.家畜化され、無菌飼育が可能であり、その利用が比較的社会に受容されるからである.
    • 異種移植には、免疫拒絶反応と感染症伝搬のリスクが伴う.免疫拒絶反応の回避については、その分子機構の理解を深める必要がある.感染症リスクについては、Luhang YangとGeorge Churchらはヒトに感染する恐れがあるブタ内在性レトロウイルス(PERVs)60コピーをCRISPR/Cas9によって1ステップで除去し、感染リスクの大幅な抑制を実現した.今後、CRISPR/Cas9システム送達法の改良、遺伝子編集効率の向上およびオフターゲット作用の抑止が必要である. また、免疫拒絶反応の回避と同様に、CRISPR/Cas9技術を活かすには疾病発症の機構の理解を深めることがなによりも重要である.
    • 「バクテリアの免疫機構の因子として発見されたCRISPR/Cas9の応用展開は、極めて基礎的な研究が医学にも大きな転換をもたらす好例である」ことを指摘しておきたい.
  2. [論文] CRISPR/Cas9によるエピゲノム編集:Vlatka Zoldoš (U. Zagreb)
    • エピゲノム編集技術は、DNAメチル化酵素やヒストン脱アセチル化酵素の阻害により非選択的手法から、ZFNs、TALEsあるいはCRISPR/Cas9システムによる特定領域を標的とする手法へ広がってきている。中でも、CRISPR/Cas9による編集が、gRNAsの設計により標的設定とその多重化が容易であり、CpGメチル化に影響されてないことから、特に広がってきている.
    • 研究チームは今回、不活性型Cas9(dCas9)と、DNAメチル化酵素DNMT3Aの触媒ドメインとを、フレキシブルなGly4Serリンカーを介して融合したdCas9-DNMT3Aを開発.
    • BACH2 とIL6ST の2種類の遺伝子座のプロモーター領域内のCpGアイランドのメチル化を高効率かつ高選択性で実現.多重sgRNAを使用することでメチル化レベルが上がり、発現レベルが低下.
    • BACH2 とIL6ST は炎症性腸疾患(IBD)におけるIgGの免疫抑制機能欠損に関与することが示唆されていることから、今回の結果から、CRISPR/Cas9による遺伝子座選択的エピゲノム療法を展開可能と考えられる.
  3. [論文] ゼブラフィッシュ遺伝子機能のクローン解析ツールの開発:Filippo Del Bene (Inst. Curie, PSL Research U.)
    • ゼブラフィッシュにおいてもCRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトはすでに実現しているが、遺伝子破壊を時空間的に制御することは実現していなかった.今回、Tol2 トランスポゾンを用いたGAL4/UASシステムによるCas9 の組織特異的発現による組織特異的遺伝子破壊と、Cre/loxP部位特異的組換えを利用したCas9 発現細胞のラベリングを組見合せた2C-Cas9 (Cre-mediated recombination for Clonal analysis of Cas9 mutant cells)法を開発した.
    • 2C-Cas9法によって網膜前駆細胞のチロシナーゼを標的としたTyr 変異クローンの配列:[KU751772 - KU751776]
  4. [論文] 化学合成crRNA/tracrRNAを使用した変異マウス作出高田修治 (国立成育医療研究センター)
    • CRISPR/Cas9で通常使用されるsgRNAの受精卵へのマイクロインジェクションに替えて、クローニング、シーケンシング、加えて、in vitro 転写と精製も不要な、化学合成crRNA/tracrRNAを、Cas9ニッカーゼ(D10A)またはfCas9(FokI-dCas9)のmRNAとともに受精卵にマイクロインジェクションしてハイスループットでの変異マウス作出が可能に.
    • 変異導入効率とオフターゲット編集の頻度は、Cas9との組みわせにも依存するがほぼ同等.しかし、合成crRNA/tracrRNAは、sgRNAに比べてコストがかかり、RNA量に限界があり、合成に日数がかかる.
  5. [レビュー] CRISPR/Cas9による脳腫瘍モデル動物の作出:Xiao-Yuan MaoZhao-Qian Liu (中南大学); Wei-Lin Jin(上海交通大学)
    • 脳腫瘍動物モデル(CDX, PDX, GEMM)の現状;CRISPR/Cas9(システムの概略);CRISPR/Cas9による脳腫瘍モデリング(標的遺伝子などの提案);課題(送達方法/オフターゲット作用/安全性);将来展望(CRISPR/Cas9による脳腫瘍モデル作出に期待)

出典

1.          [論説] Daniel R. Salomon. "A CRISPR Way to Block PERVs Engineering Organs for Transplantation." N. Engl. J. Med.2016 Mar 17;374(11):1089-91.

2.          [論文] Aleksandar Vojta et al. "Repurposing the CRISPR-Cas9 system for targeted DNA methylation." Nucleic Acids Res. Published online 2016 Mar 11.

3.          [論文] Vincenzo Di Donato et al. "2C-Cas9: a versatile tool for clonal analysis of gene function." Genome Res.Published online 2016 Mar 8.

4.          [論文] 寺尾美穂, 玉野萌恵, 原 聡史, 加藤朋子, 木下政人 & 高田修治 "Utilization of the CRISPR/Cas9 system for the efficient production of mutant mice using crRNA/tracrRNA with Cas9 nickase and FokI-dCas9." Exp. Anim.Published online 2016 Mar 14.

5.          [レビュー] Xiao-Yuan Mao et al. "Brain tumor modeling using the CRISPR/Cas9 system: state of the art and view to the future." Oncotarget. 2016 Mar 14.