(構造生命科学ニュースウオッチ2016/03/27から転載)

  1. [ミニレビュー] CRISPR/Cas9機能の時空間制御:Alexander Deiters (U. Pittsburgh)
    • [低分子による制御]
      • インテインを挿入した不活性Cas9を、4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)によるインテインの活性化と自己スプライシングを介して、Cas9を活性化
      • 二分割したCas9それぞれにFKBP12ドメインとFRBドメインを融合させ、ラパマイシンによってヘテロ二量体へと誘導してCas9の活性を得る
      • 低分子による制御には、空間的な絞り込みが困難であり、反応に時間を要し、反応が非可逆的であるといった課題が残っているが、光による操作が困難な部位における制御が可能である.
    • [光による制御]
      • 光刺激からエフェクターを介して制御: 
         dCas9と転写活性化因子(p65またはVP64)あるいは転写抑制因子それぞれに、光刺激によってヘテロ二量体を形成する因子(CRY2とCIB)を組合せるシステム.サブミリメーターの空間分解能と可逆的反応を実現:CRISPR-Cas9-based Photoactivatable Transcription SystemA light-inducible CRISPR-Cas9 system for control of endogenous gene activation (LACE) 
      • 光刺激直接制御: 
        (光分解性保護基による制御)
        • Cas9のリシン残基(K866)を、238Daと極めて小型の光分解性保護基を使ってケージド・リシン(PCK)に変換した、不活性型Cas9を導入した後、紫外線によって保護基を分解して活性のある野生型Cas9へ転換することでCas9の活性を制御.
        • ケージド・リシンをCas9に取り込ませる操作が必要なことと、紫外線の光毒性が本方法の課題であるが、後者については、可視光により分解するケージド・リシンが最近開発されている.
        (Cas9分割と光刺激二量体化による制御)
        • 2分割したCas9にMagnetと呼ばれる光二量体化ドメインをそれぞれ融合させた光活性型Cas9(paCas9)を用意.転写活性化因子などを導入することなく、青色光線によるpaCas9の二量体化でCas9の活性を制御.野生型Cas9と同等の効率と光のON-OFFについて可逆的.
  2. [ニュース] CRISPR研究者2016年ガードナー国際賞を受賞:Nayanah Siva (Science writer)
    • 受賞者5名の貢献を簡潔に紹介し、受賞者の一人J. Doudnaの次のコメントで締めくくっている、「5名の中で少なくとも4名は、“curiosity-driven basic science projects ”から育った.わたくし達は、“curiosity-driven research ”を支援することがヒトの健康に資する道の一つであることを認識する必要がある.なぜならば、“curiosity-driven research ”から想像を超えた発見が生まれるからである」
  3. [特許出願] CRISPR/Cas9による筋ジストロフィーの予防:Eric N. Olson et al. (U. Texas Southwestern 
        Medical Center)
  4. [論文] トランスポゾンまたはCRISPRによる改変が起こりかつ改変因子が残存しないT細胞を効率的にスクリーニングする方法:Ton N. Schumacher (Netherlands Cancer Inst.)
    • SB100X(高活性な Sleeping Beauty)トランポゼースまたはCas9遺伝子をコードするプラスミドに対抗選択(カウンターセレクション)マーカーを付加することによって、安定したゲノム編集が進行した細胞の効率的選択と、同時に、改変因子の発現が続いている細胞のカンターセレクションを実現.
    • テストしたマーカの中で短縮した(truncated)上皮成長因子受容体(trEGFR)は、目的の細胞を濃縮する試薬として臨床利用されているものがあることと、EGFRを標的とする抗体cetuximabによってin vitro だけでなくin vivo でもカウンターセレクションを実現できる観点から興味深い.
  5. [論文] ほぼ100%のメタノール資化酵母Pichia pastoris のゲノム編集効率を達成したCRISPR/Cas9最適化:Thomas Vogl (Sandoz/Graz U. Technology); Anton Glieder (Graz U. Technology)
    • P. pastoris は、異種タンパク質生産に広く利用されている発現システムである。しかし、 P. pastoris における組換え効率は、相同組換えによる遺伝子改変が自然に進むSaccharomyces cerevisiae よりも低かった.今回、CRISPR/Cas9技術の最適化を試み、100%に近い標的遺伝子改変を実現した.
    • CAS9/gRNA発現システムを構成する因子とその組合せの最適化をシステマティックに評価:CAS9 発現プロモーター;核局在配列;CAS9 DNA;gRNA発現プロモーター(RNAポリメラーゼⅡまたはRNAポリメラーゼⅢ);gRNA;RNA成熟化用リボザイム;RNAPⅡまたはRNAPⅢのターミネーター
    • 試作したコンストラクト95種類のなかでわずか〜6%に相当する6種類が高効率なゲノム編集を達成.高効率なコンストラクトの特徴は、RNAPⅡプロモーター、リボザイムおよびヒトのコドンに最適化したCas9配列.
    • 最適化システムによって多重遺伝子破壊と相同DNAカセットの挿入を試行し、マーカーを使用することなく迅速にP. pastoris のゲノム改変が可能なことを実証した.