(構造生命科学ニュースウオッチ2016/03/28から転載)

  • Matthiu Piel (Institut Curie)らフランスチームと、Jan Lammerding (Cornell U.)ら米・オランダチーム がそれぞれ独立に発見した現象が、3月24日付けのScience オンライン版で報告された.両論文とも補助資料にて多くのムービーを提供しているが、同日YouTubeでもLammerdingチームによるビデオ"Cancer cells pop their own nucleus to squeeze through a tight spot"が公開された.
  • [Piel論文]
    • 核と細胞質を隔離している核膜に、有糸分裂時以外の間期においても体内移動時に頻繁に孔が開き、核内タンパク質が細胞質へ漏れ、細胞質タンパク質が核へ流入することを見出した.
    • この現象は、核膜が変形されることによって一時的に発生し、エンドソーム輸送選別複合体(endosomal sorting complexes required for transport, ESCRT)によって短時間で修復される.また、核に孔が開くのと平行してDNAも損傷されるが、これは、細胞質タンパク質の核への流入によることが示唆された.
    • 白血球細胞が間質細胞の隘路を移動する間に起こるその核膜の破損と修復は、免疫応答に大きな影響を与えると考えられる.
    • [実験方法] 蛍光分析(5μmの間隔を通過するマウス樹状細胞;マウス移植耳における細胞移動;マイクロチャネルを通過するヒト単球由来樹状細胞、HeLa細胞ならびに不死化正常細胞RPE-1;修復に関連するタンパク質遺伝子のノックアウトなど).
  • [Lammerding論文]
    • 狭小な空間を通過する細胞において核が変形し、核膜が破損し、核と細胞質のコンテンツが混合し、クロマチンも核膜を超えて流出し、DNAが損傷を受ける.
    • 核膜の破損頻度は、空間が狭いほど高くなり、また、核を構造的に支えている核内タンパク質である核ラミンの欠損により高くなる.一方で、破損した核膜は、ESCRTによって修復される.
    • 核膜の破損とゲノムの不安定化はがんを進行させる一方で転移するがん細胞の弱点にもなる.
    [実験方法] 蛍光分析(マイクロフルイディクス装置または繊維状コラーゲンマトリクスを通過する乳がん細胞、繊維肉腫細胞ならびに皮膚繊維芽細胞;腫瘍移植マウスにおける繊維肉腫細胞;修復因子のノックアウトなど)