[出典]
[背景]
  • 代謝物は細胞内の分子群の大勢を占め、タンパク質との相互作用を介して細胞過程を調節し、細胞の恒常性に主要な役割を果たしている。しかし、代謝物とタンパク質の相互作用の全体像、インタラクトーム、の解明は、タンパク質間インタラクトームやタンパク質とDNAのインタラクトームの解明に遅れをとっている。
  • ETZ ZurichのPaola Picottiらの研究チームはタンパク質限定分解(limited proteolysis, LiP)に質量分析を組み合わせた手法を開発し、酵母内在1,001タンパク質と栄養素の相互作用(Nature Biotechnology, 2014)やE. coli, S. cerevisiae, T. thermophilusおよびヒト細胞におけるのべ8,000種類以上のタンパク質の熱安定性(Science, 2017)を報告してきた。研究チームは今回、E. coli内在タンパク質と代謝物のインタラクトーム解析に取り組んだ。
[手法]
  • はじめに、ネイティブ条件で全細胞溶解液をプロテイナーゼK(PK)で処理して、構造に特異的なタンパク質断片を生成し、続いて、トリプシンでボトムアップ質量分析(LC-MS/MS)にかけるペプチドへと分解する。低分子の有無による質量スペクトルの変化から、低分子結合によるPKの切断部位の変化、ひいては、タンパク質の構造変化への推論が可能になる。
  • 著者らは今回この手法をLiP-SMap(これまでに、LiP LC-MS/MS Multiple Reaction Monitoring (LiP-SRM)やLiP-MSが使われていた)と、低分子の存在によって切断パターンが変化したタンパ質をputative metabolite binding proteins(MBPs)、量が変化したペプチドをconformotypic peptidesと呼んだ。
[LiP-SMapのベンチマーク]
  • 既知の相互作用件数が幅広い3種類の代謝物(600種類のATP;中間的なホスホエノールピルビン酸(PEP);15種類のL-フェニルアラニン(L-Phe))について2種類の濃度で解析し、ATP/PEP/L-Pheについて既知の結合特異性と整合するMBPsおよび新規MBPs(低濃度 162/12/2種類;高濃度231/129/41種類)を同定した。
  • 抗菌剤セルレニンが結合するタンパク質は唯一Fas2である。LiP-SMapは、セルレニン(cerulenin)に対するMBPが2,500種類のタンパク質の中でFas2唯一であることを示し、LiP-Smapが偽陽性を示す可能性が低いことも確認できた。
[代謝物-タンパク質相互作用の全体像]
  • 疎水性、分子量および電荷が広範囲にわたる20種類の代謝物(中心炭素代謝系の中間代謝物、4種類のアミノ酸、7種類のヌクレオシドホスフェート、3'-5'-環状アデノシン一リン酸(cAMP))を対象としてLiP-MS解析:代謝物-タンパク質相互作用1,678種類を推定;1,447種類が新奇(有機酸/糖リン酸が関与する相互作用それぞれ377/410種類を含む);新奇相互作用に関与するタンパク質のうち76種類がこれまで機能未知)
  • 推定相互作用の54%には文献を含む複数の裏付けが存在した。酵素の網羅的データベースBRENDAに存在しなかった推定相互作用が5.5%存在したが、その中には新奇相互作用も含まれると思われる。
  • プロテオームの25%が、20種類の代謝物のうち少なくとも1種類の代謝物と相互作用する。"コア・プロテオーム(core proteome)"を構成するさまざまな環境条件下で一貫して発現するタンパク質356 種類は、他のタンパク質よりも、MBPsに推定される頻度が有意に高い。
  • Conformotypic peptidesから推定した結合部位は、Protein Data Bankのタンパク質-代謝物複合体構造データベースLigand Expoの実験的に特定された結合部位に極めて近接;酵素の活性部位の3分の1は、複数種類の代謝物と相互作用可能(binding promiscuity)
  • 代謝物結合部位の43%が、活性部位以外に位置し、アロステリック作用または触媒作用を帯びている;フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPアーゼ)がPEPシンセターゼ調節因子PpsRとアロステリック相互作用し、PEPシンセターゼPpsAを調節することで、FBPの濃度に応じて解糖フラックスをスイッチする現象を同定
  • 内在代謝物がタンパク質の複合体/重合体のアッセンブリーに影響を与える現象も確認
[先行研究論文]