(構造生命科学ニュースウオッチ2016/04/01から転載)

  • [出典] "How Cancer Stem Cells Thrive When Oxygen Is Scarce." Johns Hopkins Medicine News 2016 Mar 28. Chuanzhao Zhang et al. "Hypoxia induces the breast cancer stem cell phenotype by HIF-dependent and ALKBH5-mediated m6A-demethylation of NANOG mRNA." Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. Published online 2016 Mar 21.
  • Corresponding author: Gregg L. Semenza (Johns Hopkins University School of Medicine)
  • 乳がん幹細胞(breast cancer stem cell: BCSC)は、ES細胞と同様にKLF4、OCT4、SOX2ならびにNANOGの発現によって特徴づけられ、自己複製能と多分化能を有している.ES細胞においてこれら4因子のmRNAはアデノシンN6位がメチル化される修飾(N6-メチルアデノシン:m6A)を受けている.
  • m6Aの主要な機能はmRNA分解にある.それに符合して、メチル基転移化酵素をノックアウトすると、m6Aが減少し、NANOG mRNAが安定し、ES細胞の多分化能が失われていくことが報告されている.しかし、メチル化と脱メチル化のバランスを決定する生理的信号が明らかにされておらず、また、m6Aのがん幹細胞における役割もまた不明であった.一方で、RNAデメチラーゼであるAlkBホモログ5(ALKBH5)の発現が低酸素環境で誘導されることが報告されていた.
  • 研究チームはES細胞で起きている分子機序と同様に、「乳がん細胞において、低酸素状態の信号を感知しただけで、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor: HIF)を介してALKBH5の発現が亢進し、NANOG mRNAのm6Aが減少し、NANOG mRNAが分解されずに安定になり、NANOGタンパク質レベルが上昇し、BCSCが増殖する」という機序を経て、「腫瘍微小環境微小環境特有の低酸素状態が、BCSCsの存続と増殖をもたらすm6A調節の生理的信号になっている」とする仮説を立て、実証した.
  • 乳がん細胞株を利用したin vitro 実証実験に加えて、1,000個のトリプルネガティブ乳がん細胞株を移植したモデルマウスにおいて、ALKBH5のノックアウトによって、NANOGの脱メチル化が起こらずに腫瘍発生が抑制されることを見出した.