出典
背景
  • 間質空間は身体の主たる体液区画 (flui compartment) であり、リンパ系からみて「リンパ液の元は毛細血管から滲出した血漿成分が細胞間隙の組織液となったものである。細胞間質液もしくは間質リンパと呼ばれる。間質リンパは毛細血管から栄養と酸素を細胞に運び老廃物を血管やリンパ管に運ぶ 細胞間の体液ネットワークである (ウイキペディア記事"リンパ系")とされていた。
  • NYU, U PennならびにIcahn-Mssmの研究チームは今回、間質空間の解剖学的構造を初めてin vivoリアルタイムで観察し、間質空間を再定義した。
共焦点レーザー顕微内視鏡による"網目ネットワーク"発見
  • 12例の膵胆管手術前に内視鏡可視化に使用する蛍光色素フルオレセインを静注し、リアルタイムかつ低侵襲でヒト組織の深部60-70 μmの組織学的観察を可能とした共焦点レーザー顕微内視鏡 (プローブ型共焦点レーザーマイクロスコープ/Probe-based Confocal Laser Endomicroscopy: pCLE)により、胆管部位をin vivo観察した(原論文 Figure 1参照)。
  • その結果、フルオレセインで満たされた「明るい多数の多角形」とそれを囲む「暗い20 μmの帯」のネットワークで形成される網目パターンを見出した。このパターンは、毛細管やリンパ管が形作る構造と異なり、これまで解剖学で明らかにされてきた組織構造には見られない構造であった。
"網目パターン"の解析
  • 切除した直後の組織でもこのパターンが維持されていることをex vivo pCLEで確認し、また、切除組織を固定 (fixation)する前に冷凍し解剖学的構造を維持したままの切片を染色観察していくことで、このパターンが、粘膜下組織の一部に由来し、「囲む暗い20 μmの帯」は太いコラーゲン繊維束であり、「明るい多数の四角形」は間質液で満たされた間質空間であることを同定、これまでの解剖では、間質液が流出した後の固定化組織を見てたとした。
  • 胆管で見出した網目ネットワークの構造は、真皮、動脈周囲間質、消化管と膀胱の粘膜下組織、肺の気管支樹、筋骨格の筋膜面および脂肪組織にも存した。これらはいずれもコンテクストに応じて伸縮を繰り返す組織である。
  • In vivo観察ではまた網目パターンが、フルオレセイン静注後30秒以内で、血管構造の可視化の後リンパ節の可視化とほぼ同時に可視化されることが明らかになった。間質内の分子と癌組織内の分子の比較結果とあわせて、間質空間が、リンパを供給するpre-lympatic spaceであることを示唆した。
  • 微細構造を見ると、コラーゲン繊維束には、その片面にだけ断続的に薄く扁平な繊維芽細胞様細胞が基底膜を介さず結合し、胆管粘膜下の場合は、血管内皮細胞と同様にCD34とビメンチン共に陽性であったが、これらの細胞の機能解明はこれからの課題である。また、コラーゲン繊維束のもう一方の面は、繊維芽細胞様細胞を帯びておらず、間質液に直接接触していること、ひいては間質空間を移動する分子に対して活性を示すこと、が示唆された。
まとめ
  • 間質は、コラーゲンで構成され体内の器官・組織を支持する堅固な組織としてよりはむしろ、間質液で満たされ器官・組織間の緩衝装置として機能する組織と考えられる。
  • 間質空間が、皮膚のシワ発生、筋肉の繊維化、硬化症などに関与し、さらには、癌の転移にも関与し、間質液のサンプリングが老化や疾患の診断ツールとなる可能性が出てきた。