1.大腸菌のタイプI-E CRISPR-Casシステムが標的DNAを切断するに至る過程を初めてin vivoで解析
  • [出典] "Determining the Specificity of Cascade Binding, Interference, and Primed Adaptation In Vivo in the Escherichia coli Type I-E CRISPR-Cas System" CooperLA, Stringer AM, Wade JT. mBio 17 April 2018: 9(2):e02100-17.
  • CRISPR-Casシステムはクラス、タイプ、サブタイプに分類されているが、大腸菌のタイプI-E システムは、Cse1x1、Cse2x2、Cas7x6、Cas5ex1、Cas6ex1の11サブユニットで構成されたタンパク質複合体Cascade (CRISPR-associated complex for antiviral defence)が、外来DNAの断片(crRNA)獲得と免疫記憶としてのCRISPRアレイへの組込み(adaptation)から、Cas3と協働したdsDNAの切断(interference)までを担っている。また、タイプI-Eシステムには、dsDNA切断時に同時に新たなcrRNAを免疫記憶として獲得するプロセス (primed adaptation)が進行するという特徴がある。
  • アルバニー大学のJ T. Wade等は今回ChIP-seqとRNA-seqなどの手法を利用して、CascadeとDNAの結合 (interaction)から始まり、interferenceとprimed adaptionに至るin vivoでのCascadeの動態を解析し、タイプI-Eの特異性を決定する要素を同定した。
  • Cascade-cRNAは、5-bpと短い領域の相補性を介してDNAと結合可能なことから、染色体上の100箇所を超えるオフターゲット・サイトとinteractionするが、interferenceとprimed adaptationには18-bpを超える領域の相補性が必要であり、高い特異性が実現されていた。すなわち、Cascadeはゲノム上の多くのオフターゲット・サイトに結合し特異性が低いが、下に引用した図とキャプションにあるように、CascadeとCas3の標的DNA切断活性の特異性はそれより全般的に向上する。
Cascade Cascade caption
2.CRISPR/Cas9による二本鎖DNA切断修復にあたり、誤りが多いNHEJに対して精密な編集を可能とするHDRの比率を高める法
  • [出典] "Clustered regularly interspaced short palindromic repeats (CRISPR)/CRISPR-associated protein 9 with improved proof-reading enhances homology-directed repair" Kato-Inui T, Takahashi G, Hsu S, Miyaoka S. Nucleic Acids Res. 17 April 2018.
  • CRISPR-Cas9による二本鎖DNAの切断 (DSB)は主として誤りの多いNHEJ過程で修復される。一方で、効率は極めて低いがHDR過程を経た修復によって、精密な組換え、ひいては、CRISPR-Cas9遺伝子治療の展開を期待できる。
  • CRISPR-Cas9の精度向上法としてこれまでCas9の改変 (eSpCas9SpCas9-HF1HypaCas9xCas9など)やgRNAの改変 (tru-gNAなど)が試みられ、また、NHEJを抑制して結果的にHDRの効率を高める手法も試行されてきた。さらにDSBをバイパス可能にした精密な1塩基編集技術(BE)も開発されてきた。
  • 東京都医学総合研究所の宮岡佑一郎らは今回、HEK293T細胞株とHeLa細胞株における内在遺伝子座を対象として、修復結果の産物をddPCR技術を利用して定量することにより、gRNAsの改変とCas9変異体がCRISPR-Cas9のHDR修復とNHEJ修復に与える影響を体系的に解析し、その結果に基づいてNHEJに対してHDRの比率を高める戦略を提案した (下図の原論文Figure 6参照)。
A practical guideline for improving the HDR NHEJ ratio
  • Cas9の触媒活性ドメインが不活性状態から活性状態へとコンフォメーションを変化させるときに、gRNAと標的DNAの間のミスマッチが検証される (proof-reading)。gRNAの改変そしてまたはCas9変異体の利用などに拠って、このチェックポイントの閾値を調節することでHDRとNHEJの比率の最適化が可能になる(上図左Aのグラフを参照)。
  • [具体的な戦略] 上図右のBの左図にあるように、塩基Gを付加していない完全一致gRNAを使用する場合は、HypaCas9が第一選択肢となり、'K810AまたはK855A変異を帯びたeSpCas9またはSpCas9-HF1/HF4'、または、'野生型Cas9と短縮gRNAの組合せ'が第2の選択肢となる。一方で、U6プロモーターによるgRNAの発現に5’末端にGを付加する必要がある場合は、下図右のBの右図にあるように、野生型Cas9に短縮gRNAを組合せることになる