出典
  • "Adenine base editing in mouse embryos and an adult mouse model of Duchenne muscular dystrophy" Ryu SM [..] Kim JS. Nat Biotechnol. 27 April 2017.
1塩基置換技術 (Base Editor: BE)
  • 核酸塩基の脱アミノ化により生じる点変異は、ヒト遺伝疾患と遺伝的多様性の主因であるが、2016年以来点変異をコントロールする技術が急速に発展し、遺伝子変異修復にも利用可能になってきた (参照 塩基編集関連crisp_bio記事)。
  • 二本鎖DNA切断を経ることなく塩基を置換する塩基編集技術 (BE)は、C:GからT:Aへの変換 (以下、CBE)から始まり、その後、短期間でA:T→G:C変換 (以下、ABE)も可能になった。これまでにCBEはイネ遺伝子編集マウス胚遺伝子編集への適用例があったが、Jin-Soo Kimら韓国の研究チームは今回、ABEをヒト細胞株、マウス胚および成体マウスにて評価した。
塩基置換対象領域の拡大
  • ABEの編集可能領域 (ウインドウ)はPAM配列の上流12-17 (準最適)と14-17 (最適)の範囲に限られていたところ、HEK293T細胞において、sgRNAの5'末端を伸長させることで、ウインドウをP14-17 (4塩基幅)から1-18/19(5または6塩基の幅)へと拡大可能なことを見出した。
  • Cas9と異なりNG PAMを認識するxCas9を利用すれば、ゲノムワイドでのABEの適用領域がさらに広がることになる。
ヒマラヤンマウス (Tyr遺伝子1塩基変異)作出
  • ヒマラヤンマウスは、マウスTyr遺伝子の1塩基自然突然変異A-to-Gに起因するチロシナーゼにH420Rアミノ酸変異により成体マウスで部分的にアルビノの表現型を示す。変異の標的となっているアデニンはオリジナルのABEのウインドウの1塩基外に位置している。
  • 今回、マウス胚にABE mRNAをマイクロジェクションし、1塩基または2塩基伸長したsgRNAによってそれぞれ8.5%と20%の効率でヒマラヤンマウスが生成されることを見出した。2塩基伸長sgRNAで編集が起きた胚の移植から得られるF0世代およびF1世代にも一定の確率で塩基置換が継承された。オフターゲット編集は非検出であった。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー・モデルマウスのDmdナンセンス変異修復
  • プロモーターやsgRNAも含むABEシステム全体は~6.1 kbとAAVの積荷サイズ (~4.7 kb)を超えるため、trans-splicing AAV (tsAAV)を利用して、Cas9ニッカーゼをN末端側とC末端側に二分して、モデルマウスの前脛骨筋に筋肉内注射によって送達した。
  • 送達後8週間の時点で、未成熟終止コドンがグルタミンのコドンに3.3 ± 0.9%の頻度で変換され、ジストロフィン発現が17 ± 1%回復した(正常な発現の~4%で筋機能の改善に十分とされている)。CRISPR/Cas9によるDmd遺伝子修復で報告されていた標的サイトでのindelsは、発生しなかった。また、ABE編集によって、骨格筋の機能を調節する神経型NO合成酵素が筋繊維に局在することも見出した (参考:Nature Biotechnologyツイートからの引用参照)。
塩基編集 (BE)関連crisp_bio記事