2020-09-26 タイトルを改訂, Splitの項のテキストを整理、参考資料を追加, 挿入図を改訂, 原論文の図じへのURLを修正
2018-04-30 初稿
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出典
  • "Universal Chimeric Antigen Receptors for Multiplexed and Logical Control of T Cell Responses" Cho JH, Collins JJ, Wong WW. Cell 2018-04-26.
SUPRA CAR
  • キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptors: CARs)を発現するT細胞が究極のスマート癌療法になりつつあるところ、ボストン大学のJ. H. ChoとW. W. WilsonならびにMIT/HarvardのJ. J. Collinsは今回、Split、UniversalそしてPRogrammableという特徴を備え、これまでのCAR-T療法の弱点を克服したCARシステムを開発し'SUPRA CAR'と命名した。
Split

 SUPRA CARは従来のCARを二分割 (split)したシステムである。
  • CAR従来のCARは、標的とする腫瘍特有の抗原に特異的な一本鎖抗体可変領域フラグメント (scFv)と細胞内シグナル伝達ドメインを膜貫通ドメインを介して一体化したシステムであり、第1世代から進化を続けている 
    [参考] 齋藤章二, 中沢洋三. "CAR-T療法の現状と今後の展望" 信州医誌, 66(6):425-433 (2018); crisp_bio 2017-05-05 第4世代T細胞免疫療法へ; Wikipediaから引用した右図参照。
  • SUPRA CARは、zipFvzipCARで構成されるzipFvは、scFvとロイシンジッパー (以下, AZip)で構成される; zipCARは, AZipに結合するロイシンジッパー (以下、BZip)を膜貫通ドメインを介して細胞内シグナル伝達ドメインに結合した構成である。 (模式図など 原論文 Figure. 1参照; 遺伝子コンストラクト Figure S1参照)。
  • BZipAZipの結合を介して、zipCARを帯びたT細胞がscFVの標的腫瘍細胞を攻撃するに至る。
Universal & Programmable [Graphical Abstract 参照]
  • Split型システム構成によって、T細胞を改変することなくzipFvを改変するだけで、任意の抗原に特異的なSUPRA CARを作出可能である。
  • SUPRA CARは、ロイシンジッパー (AZipBZip)の結合親和性、腫瘍抗原とscFvの結合親和性、zipFvの濃度、およびzipCARの発現レベルに依存することから、サイトカイン放出症候群に至る過剰活性化を抑制するなどその作用の柔軟な調節が可能である。また、拮抗的scFvを併用することで、初代CD8陽性T細胞の活性化阻害も可能である。
  • 互いに直交するSUPRA CARを併用することで複数抗原の同時認識が可能である:標的抗原をわずかに発現する正常細胞への攻撃を含むオフターゲット作用を抑制して安全性と標的腫瘍への選択性を高めることが可能;癌免疫療法における抗原エスケープにもT細胞を改変することなく柔軟迅速に対応可能;二種類の抗原からのシグナルを合成して細胞内へシグナル伝達する'AND'ゲートも構築可能 (Figure 5 参照)
  • 免疫システムの精密制御が可能 (CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を互いに独立に調節可能なことを実証 (Figure 6 参照)
  • 以上、SUPRA CARのzipCARはユニバーサルな (universal)受容体として機能し、zipFvと多様な結合親和性などを介してSUPRA CARの作用を柔軟に調節することが可能 (programmable)である。
モデルマウスにおけるヒト固形腫瘍と血液腫瘍の低減
  • 免疫不全マウスにHer2陽性のヒト乳癌由来SK-BR-3細胞を腹腔内に注入し2週間後、zipCARを発現するCD8陽性ヒトT細胞を注射し、続いて、2日ごとに2週間Her2を標的とするzipFvを注射し、41日にわたって腫瘍量を蛍光観察し、従来のHer2 CARと同等レベルの腫瘍量減少に至ることを確認。
  • Her2陽性に改変したJurkat T腫瘍細胞をNSGマウスに静注して3日経過後、zipCARを発現するCD8陽性ヒトT細胞を注射し、続いて3日ごとに6日間Her2を標的とするSUPRA CARを適用し、21日にわたって腫瘍量を蛍光観察し、腫瘍量低減を確認。
ヒト化ロイシンジッパーの効果
  • 合成ロイシンジッパーに替えて、ヒトの転写因子、FOSとJUN、由来のロイシンジッパーをそれぞれzipCARzipFvに利用することで、腫瘍抑制効果を損なうことなく、免疫原性を抑制可能なことも実証。
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