# [crisp_bio注] 2019-04-01 タイトル一部変更:「第2世代」を「新世代」に変更 (次世代、第2世代、第3世代といった表現が2017年刊行の先行レビュー*で使われていたため)
出典
  • [論文] "Chemically triggered drug release from an antibody-drug conjugate leads to potent antitumour activity in mice" Rossin R[..] Robillard MC. Nat Commun. 2018 May 4.
  • [レビュー] "Towards antibody-drug conjugates and prodrug strategies with extracellular stimuli-responsive drug delivery in the tumor microenvironment for cancer therapy" Joubert N, Denevault-Sabourin C, Bryden F, Viaud-Massuard MC. Eur J Med Chem. 2017 Dec 15;142:393-415. Published online 2017 Aug 23.
背景
  • 抗体-薬物複合体 (Antibody-Drug Conjugate: ADCs)は、モノクローナル抗体 (mAb)やmAbフラグメントに低分子医薬をリンカーで結合することで、抗体の特異的標的認識機能と低分子医薬の活性を活かす将来有望なバイオ医薬品である。これまでのADCsは、腫瘍細胞特異的抗原に結合することで腫瘍細胞に取り込まれ (internalization)、その後、腫瘍細胞内でリソソーム pHなどによるリンカーの開裂を経て、腫瘍細胞内に低分子医薬を放出することで機能する(以下、内在化ADCs)。
  • 2000年のMylotarg® (gemtuzumab ozogamicin)以来、2011年 Adcetris®(brentuximab vedotin)、2013年 Kadcyla®(ado-trastuzumab emtansine)、そして2017年inotuzumab ozogamicin (Besponsa®) と4種類の内在化ADCsがFDAで承認されてきた。この中で例えば、Adcetris (アドセトリス)は、再発性または難治性のホジキンリンパ腫患者に対して75%の全奏効率と奏功期間中央値21ヶ月の成績を示した一方で、Mylotarg®は、想定を超えたリンカーの不安定性がもたらす問題から米国では2010年承認を取り下げられた。
  • 現在、60種類を超える内在化ADCsが、さまざまな悪性血液疾患や固形腫瘍を対象とする臨床試験に供されているが、一方で、抗原を介した内在化から機能し始めるADCsの限界が認識されている:血流中で安定でリソソームで迅速に開裂するリンカーの性能などに由来する低分子医薬の非特異的および時期尚早な放出;固形腫瘍ではADCsの内在化に適した抗原が極めて少数でありまた腫瘍組織内および患者間で不均一である;細胞内での作用機序に起因する耐性 (標的抗原発現の下方制御、細胞内輸送不全、リソソーム分解不全など)の発生。固形腫瘍ではまた、間質液圧の上昇や間質内抗原への結合がADCsの腫瘍細胞内在化を阻害するために、ASCsの効率が低減する問題を抱えている。
  • このため内在化ADCsの研究開発が進められる一方で近年、腫瘍細胞外の腫瘍微小環境内にてADCsから細胞浸潤可能な低分子医薬を放出し、副作用を引き起こすことなく腫瘍細胞において抗腫瘍性を発揮させることが可能なことが明らかになり、non-internalizing ADCs (以下、外在性ADCs)の研究開発が広がり始めた。
成果
  • オランダのTagworks PharmaceuticalsSyMO-ChemRadboud University Medical CenterとオーストラリアAvipepおよび米国のLevena Biopharmaの共同研究グループは今回、新奇な外在性ADCs技術の一環として'click-to-release'法を活用し、in vitroおよびヒト大腸癌と卵巣癌の異種移植モデルマウスin vivoにおいてその抗腫瘍性を実証した。
  • この外在性ADCsは、固形腫瘍に豊富なnon-internalising抗原や細胞外マトリクス内の腫瘍特異的標的を介して腫瘍へ結合する。腫瘍細胞に結合しなかったADCsが血中からクリアされた後、ADCリンカーとクリック反応する低分子 (以下、アクチベーター)を投与することで、ADCsから低分子医薬を遊離させる。
  • 最も高速な生体直交型クリック反応は、trans-シクロオクテン (trans-Cyclooctene: TCO) とテトラジン誘導体の間の逆電子要求性ディールズ・アルダー(inverse-electron-demand Diels−Alder: IEDDA)共役反応であり、マウスにおける生体共役反応法として確立されている。研究チームは先行研究で確立していたIEDDA共役反応を'click-to-bind"から"clikc-and-release"へと転用する技術を、ADCsに組み入れた。
click-to-release -1
  • 上図は、腫瘍モデルマウスにおいて、抗TAG72 (Tumor-associated glycoprotein 72)二重特異性抗体 (diabody)と、'click-to-release'反応に応答するtrans-シクロオクテン (TCO)を結合した抗腫瘍薬Monomethyl auristatin E(MMAE)とを、ポリエチレングリコール (PEG)で結合した外在性ADCsを投与し、その後、'click-to-release'反応のアクチベーターとしてテトラジンを投与し、その結果、ADCsから遊離したMMAEが腫瘍細胞へと浸潤する模式図である。DiabodyとPEG化の効果で腫瘍細胞に集積し正常組織にはほとんど定着せずまた血中から迅速にクリアされる。さらにADCsから遊離したMMAEが、腫瘍組織全体へと浸潤しバイスタンダー効果をもたらし、外在性ADCsが不均一で浸潤性が低い腫瘍にも有効であることが示唆された。一方で、FDA承認薬のアドセトリスに組み込まれているプロテアーゼで開裂されるリンカーを組み入れたADCsは今回の腫瘍モデルマウスでは奏功しなかった。
(*) "Strategies and challenges for the next generation of antibody-drug conjugates" Beck A, Goetsch L, Dumontet C, Corvaïa N. Nat Rev Drug Discov. 2017 May;16(5):315-337. Published online 2017-03-17.