論文
背景
  • 交流動電学 (AC electrokinetics: ACE):電場が溶液や溶液中の粒子に力学的作用を及ぼす機構とその利用を研究する分野である。ACEは、AC electro-osmosis (交流電気浸透)、dielectrophoresis (誘電泳動)およびelectrothermal effect (交流熱動電流)の3種類の現象を対象としているが、ACE現象に基づいた微小な電極による電場調節を介した体液や生体高分子の操作も可能になり、ACEバイオチップの研究開発が進められている。[本項参考文献] Hart R, Oh , Capurro J, Noh HM. "AC Electrokinetic Phenomena Generated by Microelectrode Structures" J Vis Exp. 2008 Jul 28;(17):813.;佐々木直樹「交流動電現象のマイクロチップバイオ分析への応用」分析化学 2015;64(1):1-8.
  • エクソソーム:細胞から血液中へ分泌されるナノスケール(~30-200 nm)の細胞外小胞であり、mRNA, miRNA、タンパク質、脂質などが内包されている。腫瘍由来のエクソソームに内包されている生体高分子は、非侵襲的はリキッドバイオプシーの基盤となるバイオマーカとして注目を集めているが、全血からバイオマーカとともにエクソソームを迅速に分離・解析する技術については模索が続いていた。
成果
  • UCSDの研究チームは今回、エクソソームその他の細胞外小胞を全血、 血漿または血清から直接分離し解析するまでを短時間で実現可能とするACEバイオチップを開発;サンプルの前処理や希釈あるいは抗体などによる精製が不要であり、オンチップでの蛍光免疫染色分析によるバイオマーカの同定・定量まで30分程度で完了。
  • 検証実験:膵臓癌の早期発見バイオマーカとして注目を集めたglypican-1 (Nature, 2015)とエクソソーム表面タンパク質マーカとして代表的なCD63によって、20名のPDAC患者と11名の健常者のコホートにおけるPDACの有無を感度99%/特異度82%で判定;小規模な大腸癌患者コホートで、非転移癌に比べて転移癌でglypican-1レベルが上昇
  • 全血を対象としてエクソソーム分離からバイオマーカ定量まで短時間で完了可能なACEバイオチップは、癌早期診断のシームレスなリキッドバイオプシーとして有力である。
[注] CRISP_SCIENCE Tweet