出典
  • [論文] "Fragment-derived inhibitors of human N-myristoyltransferase block capsid assembly and replication of the common cold virus" Mousnier A [..] Solari R, Tate EW. Nat Chem. 2018 May 14.
  • [NEWS] "Common Cold Blocked from Replicating by Novel Drug Molecule" GEN News Highlights 2018 May 14.
背景
  • 感冒 (common cold https://en.wikipedia.org/wiki/Common_cold)はウイルス感染症であり、99種類の血清型が知られているライノウイルス (Rhinovirus: RV)を代表として200種類以上の感冒ウイルス (common cold viruses)が存在するとされており (下図に例示)、また、ウイルスは高速に進化して薬剤に対する耐性も迅速に獲得する。このため、感冒ウイルスに対する免疫獲得やのゲノムやワクチンや抗ウイルス剤の開発は非現実的であった。
Common cold viruses
  • そこで創薬の標的としてウイルスのゲノムやタンパク質ではなく、種々のウイルスがその感染や増殖のために「乗っ取る」宿主の分子機構を標的とする化合物により、汎用かつ耐性を誘起しない抗ウイルス剤の開発が試みられているが、その効力と共に宿主に対する毒性が課題となっている。
  • ウイルスの宿主機構乗っ取り機構の一つとして、ヒト細胞のN-ミリストイルトランスフェラーゼ (NMT)を利用して、自身のゲノムを保護するカプシドを形成することが知られている。NMTは酵母からヒトまで真核生物全般に存在しているがウイルスには存在しない。ヒトNMTにはNMT1とNTM2の2種類が知られている。
成果
  • 英国ICLを中心とするヨーク大、The Pirbright InstituteおよびKinetic Discovery Limitedの共同研究グループは、NMT1とNMT2の双方を阻害する化合物IMP-1088を開発し、IMP-1088がヒト細胞におけるRVミリストイル化を薬理学的に阻害し、RVの複製を抑止し、ヒト細胞には毒性を示さないことを見出した。
  • IMP-1088は、マラリア原虫のNMTを阻害する化合物 (Nat Chem, 2013)のハイスループットスクリーニングのヒットの中に見出したヒトNMT1に対してある程度の阻害活性を示す化合物から出発して2種類のフラグメントを組み合わせた上で、リガンドからではなく受容体タンパク質の立体構造情報をもとに薬剤を設計していくStructure-Based Drug Design (SBDD)により最適化することで作出された。
  • IMP-1088は、RVのRNA産生やタンパク質複合体の翻訳は阻害しないが、RVのVP0タンパク質のミリストイル化阻害を介して、RVのカプシド構造形成を阻害することで、抗ウイルス性を発揮する。
  • IMP-1088は、種々の血清型のRV株に対してナノモル濃度で抗ウイルス性を示し、同じピコナウイルス科に属するポリオウイルスと口蹄疫ウイルスに対しても抗ウイルス性を発揮し、ヒト細胞をRVによる細胞死から保護する。
  • IMP-1088は、急性上気道感染症 (COPD)と喘息の治療に使われる吸入薬と同時に投与しても効果を維持し、また、ウイルス感染直後から3時間までの投与であればRV産生を抑止する。
  • IMP-1088の臨床応用には、前臨床におけるin vivoでの活性と安全性の確認が必須であるが、ヒト細胞のNMTを標的とするウイルス感染症薬の可能性が示された。