1.ヒトとマウスの胚への効率的かつ精密な遺伝子ノックインをTild-CRISPR法を開発して実現
  • [出典] "Tild-CRISPR Allows for Efficient and Precise Gene Knockin in Mouse and Human Cells" Yao X [..]  Li W, Chen ZJ, Yang H. Dev Cell. 2018 May 21;45(4):526-536.e5.
  • Tild-CRISPRは"targeted integration with linearized dsDNA-CRISPR"に由来する呼称: PCR増幅または酵素で精密に切断したドナー遺伝子を800-bpの長さの一対の相同アームを結合した環状プラスミドをin vitroで開裂リニアなdsDNA (以下、Tildコンストラクト)として送達する。
  • 実証実験:Tildコンストラクトならびに、Cas9 mRNA+sgRNAをマウス接合体にマイクロインジェクションし、ノックインと条件付きノックアウトを実現;in uteroエレクトロポレーションにより、in vivoでのノックインを実現;ヒト3前核受精卵 (3PN)へのマイクロインジェクションでOCT4により効率的なノックイン実現 (割球レベルで21/101, 胚レベルで10/14; これまでのHRを介したゲノム編集ではそれぞれ1/60と1/9);3PNにおけるOCT4とGATA6の同時編集は割球レベルで4/137の効率を実現
  • Tild-CRISPRの機序:マウスES細胞とマウス神経芽細胞腫N2a細胞においてNHEJ阻害剤Scr7とHR阻害剤カフェインの影響を、マウス胚編集におけるNHEJ阻害剤Scr7とNu7026およびカフェインの影響を、解析した結果、Tild-CRISPRはHRとNHEJの双方のパスウエイを介することで高いノックイン効率を実現しているとした。
2.トリパノソーマ (Trypanosoma brucei)の高効率遺伝子編集を実現するテトラサイクリン誘導CRISPR-Cas9技術の開発と精密な塩基編集
  • [出典] "Inducible high-efficiency CRISPR-Cas9-targeted gene editing and precision base editing in African trypanosomes" Rico E, Jeacock L, Kovářová J, Horn D. Sci Rep. 2018 May 21;8(1):7960.
  • トリパノソーマの遺伝子編集に最適化したテトラサイクリン誘導CRISPR-Cas9による (下図Figure 1- a,-d)高効率遺伝子編集と技術を確立;この技術に相同組換え修復用オリゴssDNAテンプレートを組み合わせた精密塩基編集 (下図 Figure 4-a 参照)により、アクアグリセロポリン (AQP2)への変異導入 (AQP2-T791G/L264R) でペンタミジンエフロルニチン耐性を再現
Trypanosoma brucei
3.CRISPR/Cas9によるC12orf35への特異的ノックインによる安定なCHO形質転換株の迅速樹立
  • [出典] "Rapid development of stable transgene CHO cell lines by CRISPR/Cas9-mediated site-specific integration into C12orf35" Zhao, M., Wang, J., Luo, M. et al. Appl Microbiol Biotechnol. 2018 May 22.
  • CHOは組換えタンパク質発現の哺乳類細胞ホストの定番であるが、ランダム挿入法で必要となる選択の繰り返しを回避することを目的として、部位特異的挿入に適したCHOの転写ホットスポットとして3種類の遺伝子座を評価した結果、C12orf35を標的とすることが、効率とCHOの生存性から最適と判断
4.筋ジストロフィーのモデルとなるウサギを開発
  • [出典] "Development of muscular dystrophy in a CRISPR-engineered mutant rabbit model with frame-disrupting ANO5 mutations" Sui T, Xu L, Lau YS, Liu D, Liu T, Gao Y, Lai L, Han R, Li Z. Cell Death Dis. 2018 May 22;9(6):609.
  • 肢帯型筋ジストロフィー (Limb-girdle muscular dystrophy type 2L: LGMD3L)と三好筋ジストロフィー3 (Miyoshi myopathy type 3: MMD3)は、アノクタミン5 (anoctamin-5: ANO5)変異を病因とするが、ANO5の点変異や小規模なindelsに起因するヒト疾患モデルとして適切なマウス系統が樹立されてこなかった。
  • CRISPR-sgRNAを胚にインジェクションすることでエクソン12またはエクソン13に小規模なindelsを導入しANO5をノックアウトすることで、血清クレアチンキナーゼ濃度上昇、筋壊死、脂肪置換、線維症などの症状を呈するウサギを樹立
5. 見えてきた網膜色素変性症の遺伝子修復療法 
  • [出典]:論文 "Gene Correction Reverses Ciliopathy and Photoreceptor Loss in iPSC-Derived Retinal Organoids from Retinitis Pigmentosa Patients" Deng WL [..]  Jin ZB. Stem Cell Reports. 2018 Mar 8.;リサーチハイライト "Gene corrections in sight" Weber C. Nat Cell Biol. 2018 May 21.;
Retinitis Pigmentosa Patients
  • 網膜色素変性症 (Retinitis pigmentosa: RP)の原因となるRPGR遺伝子に異なるフレームシフト変異を帯びている3名の患者由来のiPS細胞を樹立し、網膜色素上皮 (RPE)、さらに、電気生理的性質を備えた3次元網膜オルガノイドへと分化誘導;網膜杆体視細胞に異常が起こり、iPS細胞、RPEおよびオルガノイドで毛様体短縮;RPGR変異修復により、網膜杆体視細胞の構造と電気生理学的特性が正常になり、毛様体も正常へと回復し、遺伝子発現も正常に復した。
6.CRISPRFinderを、CRISPRCasFinderへとアップデート
  • [出典] "CRISPRCasFinder, an update of CRISRFinder, includes a portable version, enhanced performance and integrates search for Cas proteins" Couvin D [..] Pourcel C. Nucleic Acids Res. 2018 May 22
  • CRISPRアレイとCasタンパク質の同定プログラムCRISPRCasFinder公開 (下図ワークフロー参照;提供Webサイトはこちら)
CRISPRCasFinder
7.ラットとマウスにおけるCRISPRオフターゲット編集の包括的解析
  • [出典] "CRISPR off-target analysis in genetically engineered rats and mice" Anderson KR [..] Warming S (Genentech, Inc.) Nat Methods. 2018 May 21.
  • "deep-sequencing data from 81 genome-editing projects on mouse and rat genomes at 1,423 predicted off-target sites"
  • 1,423種類のオフターゲット編集予測サイトを対象とするディープシーケンシング・プロジェクトをマウスとラットについて行い、オフターゲット編集サイト32種類を同定;in vivoにおけるeSpCas9(1.1)とSpCas9-HFのオフターゲット編集抑制を確認;単一のsgRNAを使用したマウス胚10個およびそれらの遺伝学的な親の全ゲノムシーケンシングから、43種類のオフターゲット編集サイトを同定したが、そのうち30種類は、イオントレント・シーケンシング・プラットフォームに適合させたtarget-enriched GUIDE-seq (TEG-seq)で予測されたサイトであった。
  • オフターゲット編集による予期せざる表現型の発生を回避するには、偏りのない手法によるオフターゲット編集予測に基づいた上で、G0ファウンダーのAmpliSeqスクリーニングを行うことを推奨。
8.Cas9が誘導するdsDNA切断からの修復現象を単一遺伝子座にて解析:運動速度論、精密さ、修復パスウエイの選択
  • [出典] "Kinetics and Fidelity of the Repair of Cas9-Induced Double-Strand DNA Breaks" Brinkman EK [..] van Steensel B. Mol Cell 2018 May 24.
  • Cas9が誘導するdsDNAの切断と修復機構による修復の運動測度論を、dsDNAが完全な状態、切断およびindel発生の3状態モデルに基づいて展開;修復に要する時間は遺伝子座に依存 (4種類の遺伝子座について半減期1.4、3.9、8.8そして10.7時間を観測);修復はエラーが起こりやすいC-NHEJとMMEJの双方のパスウエイで進行し、両者のバランスは可変であり、また、放射線損傷の影響を受ける;細胞周期との相関は今回の考慮外
9.CRISPR技術の発展は微生物学者の双肩にかかっている
  • [出典] "[Editorial]CRISPR still needs microbiologists" Nat Microbiol. 2018 May 24.
  • CRSIPR技術は、科学技術のニュースポータルでは日々取り上げられ、一般マスコミでも毎週取り上げられるようになり、大ヒット映画"Rampage"のプロットにも使われるに至った  。しかし、CRISPRの由来やCas9の存在、バクテリア・アーケアとウイルスとの共進化については知る人が少ない。
  • 今日のCRISPRの栄光は微生物学の基礎研究に端を発しており、この10年で膨大なCRISPR論文が発表されてきたが、CRISPR獲得免疫機構についてはまだまだ謎が残っていることを認識しなければならない。例えば、CRISPRスペーサのほとんどの由来が不明であり、多様な微生物がCRISPR-Cas9遺伝子を帯びていないことも謎であり、また、CRISPRシステムに加えて新たな防御機能も発見されている (参照 CRISPRメモ_2018/04/29 - 1. [NEWS & VIEWS] 新たなバクテリアの防衛システム)。
  • こうした謎を明らかにしていく基礎的な微生物学は、CRISPRシステムに基づくツール開発と応用展開に寄与する。また、CRISPRシステム以外の微生物の多様な防御システムからも新たな応用分野が広がるであろう。
  • 微生物のファージに対する防御システムをはじめとして微生物の持つ分子機序に基づく技術開発は、近年のCRISPR技術の発展において語られることのなかった微生物学者 (The unsung heroes of CRISPR 参照)による基礎研究から生まれてくる。このため、微生物学分野における人材の育成・確保と継続的な研究資金が求められ、CRISPR特許のライセンシングがもたらす膨大な資金の多くが基礎研究に投じられるべきである。