1.HeLaの亡霊:コンタミと誤同定が、科学論文をコンタミする
  • [出典] "The ghosts of HeLa: How cell line misidentification contaminates the scientific literature" Horbach SPJM, Halffman WPLoS One. 2017 Oct 12;12(10):e0186281.
  • HeLa 細胞のクロスコンタミネーションの問題が1970年代から指摘され始め、流通する細胞株の品質管理を維持する対策が始まり、日本でも理化学研究所や医薬基盤研究所に公的細胞バンクが設立されるに至った。しかし、科学技術のあり方の研究を専門とするRadboud UniversityのHorbachとHalffmanは、誤同定細胞株に基づいて論文数が、近年も、増え続けていたことを明らかにした。
  • ICLAC http://iclac.org/ が2016年12月に公開したICLAC誤同定細胞リスト (ICLAC list of misidentified cell lines Version 8.0)とWeb of Science データベースを利用して、誤同定細胞に基づいた一次論文32,755編とそれを引用している論文450~500万論文を解析した結果に基づいて、コンタミネーションが起きている細胞でコンタミネーションされた論文が近年も出版されて続けていることを警告し、新たな対策が必要とした。
  • 以下に原論文のFig. 1~Fig. 4を引用:Fig. 1 誤同定細胞株が「感染」する構図;Fig. 2 誤同定細胞株に基づく一論文数の増加;Fig. 3 誤同定細胞株に基づく論文の比率 (日本が第1位);Fig. 4 研究分野ごとの誤同定細胞株数比較 (オンコロジー分野が第1位)
The ghosts of HeLa 1 The ghosts of HeLa 2
The ghosts of HeLa 3The ghosts of HeLa 4
2.ゲノム、プロテオームと表現型から見たHeLa細胞株の多様性
  • [出典] "Genomic, Proteomic and Phenotypic Heterogeneity in HeLa Cells across Laboratories: Implications for Reproducibility of Research Results" Liu Y [..] Aebersold R. bioRxiv 2018-04-30.
  • "Multi-omic measurements of heterogeneity in HeLa cells across laboratories"と改題されて、Nature Biotechnologyから出版され、crisp_bioでは2019-02-21に HeLaの亡霊 研究室間の不均一性をマルチオミックスで検証として再度紹介
  • イエール大学薬理学部やZTH Zurich生物学部など、米、スイス、独、伊、中、英の15機関の国際共同研究の成果
  • 各国の13研究所から集めたHeLa細胞を14セットを同一条件で培養し、その上で、コピー数とmRNAs、ならびに、let-7 microRNA に対するプロテオーム応答を、それぞれ、ゲノミクス技術とSWATH MSでプロファイリングした。
  • HeLaバリアントがゲノムレベルでも表現型レベルでも種々の実験結果に影響を及ぼす程度まで不均質であり、また同一ラベルの細胞株の間にも不均質が見られた。その中で特に、CCL2 (=オリジナルHeLa培養細胞から分離されたクローン由来HeLa S3 (CCL2.2) )と、2013年のHeLa細胞ゲノム解析*に利用されたHeLa Kyotoとの間の差異が顕著であった。
  • また、HeLa細胞のゲノムの多様化ひいては表現型の多様化が、50回継代培養する過程で進行していくことを見出した。
  • 今回の結果は、HeLa細胞に基づく実験結果の解釈と再現性について改めて考えさせることになり、さらに、ひろくヒト組織培養細胞から得られる研究結果を共有するに必要な条件を考えさせることになった。
     *) 参考:HeLa細胞ゲノム解析関連Natureニュース