タグ:メタボローム

[出典] "A metabolic profile of all-cause mortality risk identified in an observational study of 44,168 individuals" Deelen J, Kettunen J […] Slagboom PE. Nat Commun. 2019-08-20

 長期死亡リスクの予測はこれまで、標準化が難しい臨床データに依存していたところ、Leiden University Medical CenterとUniversity of Ouluをはじめとするオランダ、フィンランド、独、英、エストニア、スイスならびにオーストラリアの研究グループは今回、大規模なコホートを対象として、 標準化されているハイスループットなNMRに基づくメタボローム解析を行い、心疾患や癌といった死因の如何によらない全死因死亡リスクの指標となる14種類の代謝産物を同定し、全死因死亡率の長期予測モデルを構築した。
  • 12コホートに由来する欧州系44,168人 (18~109歳)からの血液サンプルを対象として、226種類の代謝バイオマーカのメタ解析を行った。この中で、5,512名が追跡調査の期間内 (2.76~16.70年)に死去している (コホートの構成について原論文Table 1から引用した左下図参照)。
Table 1 Table 2
  • メタボロミクスから全死因死亡と有意に相関する136種類のバイオマーカを同定し、先行研究において全死因死亡と相関すると判定したバイオマーカを加えた159種類のバイオマーカの中から、互いに独立なバイオマーカ14種類へと絞り込んだ (このバイオマーカセットについて原論文Table 2から引用した右上図参照)。
  • 続いて、従来のバイオマーカのデータが最も揃っていたEstonian Biobankコホート (Table 1中のERF study)からのデータ (14種類のバイオマーカと性別)に基づく全死因死亡リスク予測モデル (重み付き危険因子スコア 原論文 Supplementary Table 4引用左下図)を構築し、FINRISK 1997コホート (7,603人; 追跡期間中に1,213人が死去)を対象とする予測を、収縮期血圧や総コレステロールなど従来の危険因子基づく予測と比較し、5年予測および10年予測ともに、より精度が高いことを示した (精度比較について原論文Fig. 1から引用した右下図参照)。
Table 2Fig. 1
  • 本モデルは、ハイスループットな NMRにより高齢患者に侵襲的療法が適切か否かといった臨床的判断の手がかりや、高齢者を対象とする臨床試験のサロゲートエンドポイントになり得る。

[出典] "A White-Box Machine Learning Approach for Revealing Antibiotic Mechanisms of Action" Yang JH, Wright SN, Hamblin M [..] Collins JJ. Cell 2019-05-09.

背景
  • 機械学習によって、生体信号 (biological signals)と実験測定したフェノタイプの相関関係を明らかにすることが可能になったが、因果関係を明らかにするには至っていない。近年、診断医療分野への応用が広がっているニューラルネットから発展してきた深層学習によるAIも、結論に至った判断根拠を説明できない「ブラックボックス(*)」であることから「説明可能なAI(Explainable artificial intelligence)」が、「ホワイトボックス」型AIとして注目を集め、また議論を呼んでいる(* crisp_bio 2017-05-02 ブラックボックスである人工知能を開けて見たい)。
  • 一方で、抗生物質による感染症治療は、多剤耐性菌の蔓延に、変革を迫られており、抗生物質の新たな作用機序の同定が試みられている。近年、抗生物質がバクテリアを細胞死へ誘導する経路として、DNA複製や細胞壁形成を直接阻害することでバクテリアを細胞死へ誘導する直接的経路に加えて、代謝反応を含む標的の直接阻害の下流の経路も関与することが明らかにされてきた (以下、間接的経路)。
成果概要
  • MIT、Broad Institute、Technical University of Denmark、Harvard University、Boston University、UCSDの研究グループは、抗生物質研究を目的とした生化学スクリーンとネットワークモデリングを組み合わせたホワイトボックス型機械学習プラットフォームを開発することで、間接的経路が、抗生物質によるヌクレオチドプールの恒常性破綻を契機とするヌクレオチド生合成経路活性化のポジティブ・フィードバック回路(**)が形成されることによることを明らかにした。
  • (**) ヌクレオチドプール障害> アデニンレベル低下 > プリン塩基生合成の活性化 > ATP要求性の亢進 > 中心炭素代謝と細胞呼吸の亢進 > 細胞毒性を帯びた代謝副産物 > DNAをはじめとする細胞構成要素損傷 > ヌクレオチドプール障害 (原論文 Figure 7参照)
生化学実験とモデリング
  • 抗生物質研究ホワイトボックス型機械学習プラットフォームのポイントは、機械学習アルゴリズムの入力として、生化学実験データそのものではなく、生化学実験データから、代謝経路のネットワークモデルを介して変換した代謝状態 (原論文'metabolic states'の直訳)を利用したところにある (これまでの機械学習による細胞内過程のモデリングは、与えられたジェノタイプから与えられたフェノタイプを出力するネットワークモデルを遡及的に推定)。
  • はじめに、Biolog phenotype microarraysを利用した生化学実験によって、3種類の抗生物質 (β-ラクタム系抗生物質アンピシリン; ニューキノロン系抗生物質シプロフロキサシン; アミノグリコシド系抗生物質ゲンタマイシン)と206種類の代謝物 (一連のアミノ酸、炭水化物およびヌクオチド)との全ての組み合わせ (~24,000組)ついて、E. coliの増殖を測定し、各抗生物質の致死性 (IC50)を判定した。
  • 続いて、生化学実験からのデータをもとに、今回研究に加わっているUCSD/U DenmarkのB. O. Palssonらが開発した大腸菌の代謝モデル (Mol Sys Biol 2011)、iJO1366、により代謝フラックス (~46,500種類)をシミュレーションし、抗生物質投与に依存して変動する一連の代謝状態 (原論文'metabolic states'の直訳)を予測した。
  • 生化学実験データから変換した代謝状態を教師付き機械学習 (マルチタスクElastic Net)の入力とし、3種類の抗生物質それぞれの致死性を出力する予測モデルを構築し、抗生物質の致死性に影響を与える既知経路を含む候補経路477種類を識別し、その統計的有意性を評価の上、さらに、Ecocyc v.22.0でアノテーションが付されている431種類の代謝経路と超幾何分布解析を介して照合し、13種類の代謝経路が、3種類の抗生物質のうち少なくとも1種類の抗生物質の致死性に影響を与えると判定した。


  • XML化されてOmicsDIにインポートされたデータベース群:LINCS; MassIVE; GPMdb; PeptideAtlas; PRIDE; European Genome-phenome Archive; Metabolome Express; GNPS; Metabolomics Work; Expression Atlas; ArrayExpress
  • OmicsDIのアノテーションに利用されたデータベース群:PubMed; ChEBI; UniProt; BIOLOGICAL ONTOLOGY

  • Corresponding author: Ruedi Aebersold (ZTH Zurich); Johan Auwerx (Interfaculty Inst. Bioengineering, EPFL)
  • GWASによって種々の表現型に相関する膨大な数の遺伝子座が同定されたが、複雑な表現型を決定づける遺伝因子群の多くは未だ不明であり、その解明は、遺伝子から表現型に至る多層な階層的データとその統合的解析から進めていくことになる。
  • 近年、SWATH(sequential window acquisition of all theoretical fragment ion spectra)-MSを含む質量分析法の進歩によってプロテオミクスとメタボロミクスについても高品質なデータを入手可能になってきたところ、今回、肝臓ミトコンドリアを対象とする多層オミクス(-omics)の融合解析“トランスオミクス(transomic approach/integration/analysis)”のケーススタディーを行った。
    • リコンビナント近交系BXDマウス386匹80コホートの代謝、ミトコンドリア機能、ならびに循環器機能を2種類の環境条件で測定。
    • 全例のゲノムと肝臓を対象とするトランスクリプトーム(25,136転写物)、プロテオーム(2,622タンパク質)ならびにメタボローム(981代謝物)データを取得し、ネットワーク解析。
    • 転写物とタンパク質の対応2,600組を同定し、量的形質遺伝子座の85%がその中の転写物またはタンパク質に特異的に影響を与えることを見出した。
    • トランスオミクスによって、個々のオミクスからは見えて来なかった遺伝型と表現型の間の階層的因果関係を見出した。例えば、Cox7a2l の配列変異がタンパク質の活性を変え、ひいてはミトコンドリア呼吸鎖スーパー複合体形成過程を改変することを見出した。
    • また、ミトコンドリアタンパク質と、心拍数、コレステロール合成、ならびに分岐鎖アミノ酸といった複雑な代謝表現型とのリンクも見出した。
    • 本研究は、定量的プロテオーム測定が、トランスクリプトミクス、ゲノミクスおよびメタボロミクスを相補する鍵となって、複雑な形質の解析を前進させていくことを示した。

↑このページのトップヘ