タグ:免疫・療法

[出典] Efficient immune cell genome engineering with improved CRISPR editing tools. Chan W [..] Germain RN.bioRxiv 2020-02-14

 NIAID/NIHとJHUの研究グループは今回、レンチウイルスの徹底的な精製およびインテグラーゼ欠損レンチウイルスの利用、ドキシサイクリン誘導性CRISPR-Casの利用、Cas9ニッカーゼ (Cas9n)とsgRNAsペアの利用、Cas9とsgRNA双方への蛍光レポータの組み込み、抗生物質による選択用耐性遺伝子の組み込みとCre/loxPシステムによるその除去、を組み合わせることで、CRISPR-Cas9によるマクロファージの遺伝子ノックアウトおよびT細胞へのHDRを介したノックインとフェノタイピングの精度と効率を高めることに成功した。また、Cas9とsgRNAを一体化した (all-in-one) CRISPRaシステムによる遺伝子発現活性化も実現した。
  • レンチウイルスの徹底的な精製:不純物に由来する免疫細胞の細胞死を抑制
  • インテグラーゼ欠損レンチウイルスの利用:デリバリー可能な容量の拡大と、宿主ゲノムへのランダムな組み込みの回避
  • ドキシサイクリン誘導性CRISPR-Cas9 (pCW-Cas9):Cas9の恒常的発現を回避することでオフターゲット編集を抑制
  • nCas9・sgRNAsペア:オフターゲット編集の抑制
  • Cas9とsgRNAの二重蛍光レポータ:pCW-Cas9導入細胞のマーカとして利用; sgRNAのデリバリーに成功したクローンを抗生物質で選別し、続いて、Cas9の発現を誘導し、Cas9-sgRNAが活性であったクローンのFACSによる単離を実現;また、異なる蛍光標識を利用した2種類のsgRNAsを利用した多重編集へも展開
  • 抗生物質耐性遺伝子の組み込み:極めて少数 ( <0.05%または < 300個未満)のHDR成功細胞のエンリッチメントに有効
  • 抗生物質耐性遺伝子の除去:遺伝子編集の繰り返しに利用
 実証は、マウス・マクロファージのRAW264.7細胞株とマウス骨髄由来初代マクロファージにおける一連の二重特異性ホスファターゼ (DUSP)遺伝子のノックアウト、ヒトJukart-T細胞における単独ノックインと異なる遺伝子座への連続ノックインおよびCRISPRaによるPDCD1(PD1)の発現活性化、で示した。

[出典] TGFβ inhibition via CRISPR promotes the long-term efficacy of CAR-T cells against solid tumors. Tang N, Cheng C [..] Wang H. JCI Insight 2020-01-30.

 CAR-T細胞療法は血液腫瘍に著効を示す。一方で、免疫抑制性腫瘍微小環境が一因であるが、固形腫瘍には奏効しない。中国科学院動物研究所を主とする研究グループは、CAR-T細胞の内在TGFβ受容体II (TGFBR2)をCRISPR/Cas9によりノックアウトし、CAR-T細胞の誘導性制御性T細胞 (iTreg)への変換を抑制し、CAR−T細胞の疲弊を防止した。
  • TGFBR2 KO CAR-T細胞は、癌細胞株移植マウスモデル (CDX)と患者腫瘍組織移植マウスモデル (PDX)において、局所投与か全身投与かによらず、より高い腫瘍排除能を示した。
  • 腫瘍の対側性再移植マウスモデルでは、TGFBR2 KO CAR-T細胞が再移植腫瘍を排除し、同時に、セントラルメモリーT細胞とエフェクターメモリーT細胞の割合が増加した。
 TGFBR2 KO CAR-T細胞は、TGFβリッチな腫瘍微小環境においても抗腫瘍活性を維持し、ひいては、固形腫瘍に対して有効であることが、示唆された。

[養子免疫細胞療法 (adoptive cell therapy, ACT)関連crisp_bio記事]
  • crisp_bio 2019-12-29 腫瘍組織には免疫ニッチ(immune niches)が存在し、幹細胞様T細胞が集積している
  • crisp_bio 2019-12-21 Regnase-1を欠損したCD8陽性T細胞集団は疲弊することなく戦い続ける

出典
  • PERSPECTIVE "Knocking out barriers to engineered cell activity" Hamilton JR, Doudna JA. Science 2020-02-06.
  • RESEARCH ARTICLE "CRISPR-engineered T cells in patients with refractory cancer" Stadtmauer EA, Fraietta JA [..] Lacey SF, June CH. Science 2020-02-06.
  • BLOG "Cutting-edge CRISPR gene editing appears safe in three cancer patients" Couzin-Frankel J. Science 2020-02-06 2:00 PM.
  • crisp_bio 2019-11-07 CRISPR/Cas9を利用するCAR-T療法の治験を、慎重に進めるペンシルベニア大学
背景
  • ペンシルベニア大学は、CRISPR-Cas9にて遺伝子編集を加えたCAR-T細胞療法について、安全性と実現可能性 (feasibility)を確認するための第I相試験 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03399448 を2019年4月から開始し、同年12月に一連の学出集会で途中経過を報告してきたが、今回、Science誌オンライン版で報告するに至った。
  • ペンシルベニア大学のCAR-T細胞は、Cas9-sgRNA RNPをエレクトロポレーションすることで患者由来T細胞からT細胞受容体 (TCR)鎖のTCRα (TRACイタ)とTCRβ (TRBCイタ)およびPD-1 (PDCD1イタ)をノックアウトし、加えて、レンチウイルスによる癌細胞特異的抗原NY-ESO-1を標的とするTCR遺伝子をデリバーしたT細胞、 NYCE細胞、を自己輸血する [PERSPECITVEのFig.1 に簡明な模式図あり]。TCRα/βのノックアウトは内在TCR鎖とNYCE TCR鎖との間のミスペアリング防止を、PD−1ノックアウトはT細胞の疲弊防止を、目的としている。
RNP多重遺伝子編集T細胞の安全性
  • 第I相試験は、応募した多発性骨髄腫または肉腫の患者6名の中で、臨床試験の条件を満たした患者3名について行われた。その結果、細胞毒性は見られず、オフターゲット編集は最小限であり、≤1% of NYCE細胞が染色体転位を帯びていたがこれらの細胞は時間とともに消滅した。また、患者にはCas9に対する抗体が内在したが、NYCE細胞投与による抗体レベルの上昇は見られなかった。
  • NYCE細胞は、患者に定着し、投与開始してから長期間 (9ヶ月間)、患者から検出された。また、患者から再分離したNYCE細胞の遺伝子発現プロファイルは セントラルメモリーT細胞のそれと同等であった。
NYCE細胞の臨床所見と遺伝子ノックアウト効率
NYCE細胞の処方に伴うサイトカイン放出症候群あるいは重篤な副作用は見られなかった。
1名について4ヶ月間腹部腫瘤の~50%縮小が見られたが、他では癌が進行し、2019年12月の段階で、その1名を含む2名は癌の進行を受けて他のがん療法を受け、多発性骨髄腫患者1名は死亡した。
標的遺伝子のノックアウト効率も15-45% (TRAC 45%; TRBC 15%; PDCD1 20%)にとどまったが、T細胞の遺伝子ノックアウト効率 >90% (J Exp Med, 2018)も達成された例があり、今後改善の余地がある。

関連するcrisp_bio記事・論文・ClinicalTrials.govのエントリー
  • crisp_bio 2018-07-12 AAVに依存しないCRISPRシステム送達によりT細胞改変を加速
  • crisp_bio 2018-03-23 癌免疫療法革命 (Science誌特集) [第5項] [レビュー] CAR-T細胞免疫療法
  • CRISPRメモ_2018/01/27 [第1項] [レビュー]キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-Ts)療法と免疫チェックポイント阻害療法の併用による癌療法
  • Optimized RNP transfection for highly efficient CRISPR/Cas9-mediated gene knockout in primary T cells. Seki A, Rutz S. J Exp Med. 2018 Mar 5;215(3):985-997.
  • NCT03399448 NY-ESO-1-redirected CRISPR (TCRendo and PD1) Edited T Cells (NYCE T Cells) 

出典
 MHCクラスⅠb 分子であるMR1 (Major histocompatibility complex, class I-related)は、MHCクラスI様関連分子とも言われているが、個人間で多様化していない (monomorphic; 単形性)という特徴を帯びている。Cardiff Universityを主とする米、豪、デンマークの国際共同研究グループは、ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーンによって、MR1を標的とするT細胞受容体 (TCR)を探索し、MR1を認識し癌細胞の特異的な細胞障害性をもたらす新奇TCRを発見した。
  • 新奇TCRは、血液癌細胞に加えて、肺、皮膚、血液、大腸、乳、骨、前立腺、卵巣、腎臓および子宮頸部の癌に由来する固形癌由来細胞を認識し・殺傷し、かつ、正常細胞には細胞障害性を示さなかった。
  • 新奇TCRは、粘膜関連インバリアントT細胞 (MAIT細胞)の既知のTCRと異なり、MR1の認識に、微生物由来の抗原を必要としなかった。
  • 新奇TCRは、ビタミンB関連代謝産物を付加していく実験から、癌細胞に特異的な代謝産物を手がかりに、癌細胞と正常細胞を識別することが示唆された。
  • 新奇TCRを発現するMR1拘束性T細胞クローンが、NSGモデルマウスにおいて、白血病を抑制し寿命を伸ばすことも確認した。
  • さらに、新奇TCRを移植した患者由来T細胞は、患者由来のメラノーマ細胞に加えて、第三者の患者由来メラノーマ細胞も殺傷した。
 癌細胞を特異的に認識する機構など、関連する分子機構を詳らかにしてく必要があるが、MR1を標的とすることで、個々人のMHC (HLA)にも癌由来組織にも左右されない汎用T細胞免疫療法の可能性が見えて来た。

[出典] MAIT Cells Promote Tumor Initiation, Growth, and Metastases via Tumor MR1. Yan J [..] Teng MWL. Cancer Discovery. 2019-12-11
[関連crisp_bio記事] 2020-01-23 
ヒトMHCクラスⅠb 分子のMR1は、癌免疫療法の新たな標的 (2/2) - 汎ヒト・汎がん療法の可能性も

 進化的に保存されている (invariant)T細胞抗原受容体(TCR)α鎖 (Vα7.2-Jα33)を発現している細胞として同定されたMAIT (Mucosal associated invariant T)細胞は、ヒトMHCクラスⅠb 分子であるMR1 (major histocompatibility molecule related)によって活性化することが知られており、その病原体の感染や炎症への応答などが解明され、癌療法の観点からも注目を集めているが、これまでのところ、腫瘍の抑制と亢進それぞれを示唆するデータが得られ、議論が続いている [1-3]

 QIMR Berghofer Medical Research Institute, University of QueenslandならびにUniversity of Melbourneの研究グループは今回、ヒトMR1と相同のMr1をノックアウトした肺癌マウスin vivoでの実験において、MAIT細胞が癌の発生、成長および転移を亢進することを初めて明らかにした。
  • Mr1-/-マウスでは、野生型マウスに比べて、癌の発生、成長および転移が、有意に抑制された。
  • Mr1-/-マウスに見られた抗腫瘍性は、NK細胞そしてまたはCD8陽性T細胞およびIFNγに依存していた。
  • Mr1-/-マウスに、MAIT細胞を養子移植すると、転移抑制が解除された。
  • MR1分子を阻害する抗体投与によって癌の転移と成長が抑制された。
  • MR1リガンドを投与したマウスとヒトの癌細胞株において、全てではないが、MR1の発現亢進が見られた。
  • 癌細胞株に、刺激性 5-OP-RUリガンドまたは抑制性 Ac-6-FPリガンドを投与すると、それぞれ、転移が亢進または抑制された。
  • MR1を欠損させた癌細胞株は、親株に比べて転移が抑制された。
  • MAIT細胞によるNK細胞のエフェクター機能抑制は、腫瘍細胞のMR1に依存し、また、宿主のIL17Aにも一部依存した。
 MAIT細胞については、in vitroで癌細胞を殺傷するとする報告があったが、腫瘍微小環境において、細胞障害性の抗腫瘍(antitumor)エフェクターとして機能するか、あるいは、protumorに転向するのか、双方の報告が続いている[1-2]。今回、腫瘍細胞が発現するMR1に活性化されたMAIT細胞が、NK細胞そしてまたはCD8陽性T細胞のエフェクター機能を抑制し、腫瘍の発生、成長および転移を促進することが示された。したがって、MR1を発現している癌に対して、MR1の阻害 (すなわち、MAIT-MR1軸の阻害)による療法の可能性が示された。

[参考文献]
  1. Frontier in Immunology誌とFrontier in Oncology誌が"MAIT Cells in Cancer and How to Target them"をトピックとする投稿を募集中 (2020年2月12日締切)
  2. Tumor-infiltrating Mucosal-Associated Invariant T (MAIT) Cells Retain Expression of Cytotoxic Effector Molecules. Sundström P [..] Quiding-Järbrink M. Oncotarget. 2019-04-19
  3. Mucosal-Associated Invariant T Cells Display Diminished Effector Capacity in Oesophageal Adenocarcinoma. Melo AM [..] Dunne MR. Front Immunol. 2019-07-10
  4. The intracellular pathway for the presentation of vitamin B-related antigens by the antigen-presenting molecule MR1. McWilliam HE [..] McCluskey J, Rossjohn J, Villadangos JA. Nat Immunol. 2016-04-04

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