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[出典] Delivery of mRNA vaccines with heterocyclic lipids increases anti-tumor efficacy by STING-mediated immune cell activation. Miao L, Li L, Huang Y [..] Anderson DG. Nat Biotechnol. 2019-09-30; [2019-11-08 crisp_bio追記] [RESEARCH HIGHLIGHT] Double boost for mRNA cancer vaccine. Villanueva MT. Nat Rev Drug Discov. 2019-11-07.

 ワクチン製剤は、長年、無毒化あるいは弱毒化された病原体の抗原 (タンパク質)に依存していたが、近年、タンパク質製剤よりも安全性と柔軟性に優れるとされるDNA/mRNAワクチンの研究開発が進められ、また、DNA/RNAワクチンの臨床試験も進められている。米国NLMのClinicalTrials データベースには、2019年10月5日時点でそれぞれ675件と80件の治験が登録されている (注: Other itemsの項目にてDNA vaccineとmRNA vaccineで検索した結果)。

 mRNAワクチンはDNAワクチンに対して、細胞質内で抗原を発現し、その発現が一時的であり、宿主ゲノムへ改変のリスクを伴わないといった利点を備えている。また、mRNAワクチンには抗原全体をコードすることも可能なことから、クラスI/II MHCによる多くのエピトープ提示を介して、ペプチド抗原ワクチンよりも強力な免疫応答を誘導することを期待できる。しかし現時点では治験から承認薬までには至らず、引き続き、mRNAの送達から免疫賦活化に至る過程の最適化を目指す研究開発が進められている。

 MITにカロリンスカ研究所が加わった研究グループは今回、mRNAの分解を抑制しつつ抗原提示細胞への送達を亢進し、全身性の免疫活性化を抑制しつつ特定の病原体あるいは悪性腫瘍を標的とする強力かつ特異的な免疫活性化をもたらすmRNA送達担体 (delivery vehicles)を同定することを目的として、イオン化脂質様材料 (ionizable lipidoid)のコンビナトリアルライブラリーを開発し評価した。
  • 多成分反応系 (MCR)の一種である一段階三成分反応系 (one-step three-component reaction: 3-CR)を利用して、1,080種類の脂質様製剤を合成し、mRNAの安定した効率的送達と標的に特異的な免疫賦活化を実現する構造を同定した。
  • 製剤頭部が性能の鍵を握っており、その化学構造によって免疫賦活性を調節可能なことを見出した。
  • 評価最上位の製剤群は、複素環式アミンの頭部、ジヒドロイミダゾール・リンカーおよび不飽和アルキルの尾部の構造をとっていた。
  • 複素環式アミンは、MYD88 (TLR7または8)/RLR (RIG-1とMDA5)とは独立に、STINGパスウエイを活性化する
  • 環状アミノは同時に、mRNAと凝縮し、脂質ナノ粒子 (lipid nanoparticles: LNPs)を形成する。このため、エンドサイトーシスを介したmRNAワクチンの細胞内への取り込みが亢進し、さらに、細胞内でのSTINGパスウエイの活性化にも貢献する。
腫瘍モデルにおけるmRNAワクチンの効果
  • 糖タンパク質オボアルブミン (OVA)を発現するB16F10マウスメラノーマモデルに、OVA mRNAワクチンを投与し、抗原特異的細胞障害性T細胞応答とIFN-γ分泌を誘導し、腫瘍を抑制することを確認し、さらに抗PD1抗体と併用することで、腫瘍増殖が顕著に抑制され生存期間が延びることを確認した。
  • B16F10マウスの腫瘍に由来する抗原に対するmRNAワクチンも腫瘍抑制効果と生存期間を延ばす効果を示した。
  • また、ヒトパピローマウイルスE7のモデル細胞とモデル動物においても、mRNAワクチンが同様の効果を確認した。
[参考] Nature Biotechnologyツイート

[出典] Enterovirus pathogenesis requires the host methyltransferase SETD3. Diep J, Ooi YS, Wilkinson AW [..] Andino R, Krogan NJ, Gozani  O, Carette JE. Nat Microbiol. 2019-09-16.

背景
  • エンテロウイルス (EV)は一本鎖プラス鎖RNAウイルスの大きな属を形成し、ポリオウイルス、ポリオ様麻痺を含む急性弛緩性麻痺を引き起こすエンテロウイルス-D68 (EV-D68)、近年の手足口病のアウトブレイクで注目を集めているエンテロウイルス-A71 (EV-A71)、多くの風邪の原因ウイルスでありまた小児喘息をもたらすライノウイルスなど、遺伝的に多様なウイルスを含んでいる。
  • エンテロウイルス全体はもとより、ライノウイルスに限っても、100を超える亜型が知られており、また、高頻度で変異し薬剤耐性を獲得することから、効果的な抗ウイルス剤の開発は難航している。
  • 近年、抗ウイルス療法の新たな戦略として、ウイルスの遺伝子やタンパク質ではなく、ウイルス感染に関与する宿主因子を標的とする宿主標的療法 (host directed therapy; HDT)が注目されている。Stanford UとUCSFを中心とする米国研究グループは今回、ライノウイルス (RV)を含むエンテロウイルス (EV) [*]を対象とする宿主標的治療を目指して、ゲノムワイド・ノックアウト・ライブラリ (GeCKO v2)に基づくCRISPR KOスクリーンによる宿主因子同定を試みた。
成果
  • 研究グループは、遺伝的に遠縁な2種類のウイルス、RV-C15とEV-D68、のチャレンジに対して、ウイルスの感染・増殖による細胞死に至らなかったクローンに存在していたsgRNAsから、その欠損によって宿主細胞がウイルスから保護されるに至った遺伝子群 (ウイルスの感染・増殖に必須な遺伝子群)を同定し、その中で、RV-C15とEV-D68に共通な必須宿主遺伝子としてアクチンヒスチジンメチルトランスフェラーゼをコードするSETD3を選択し、検証を続けた。
  • 細胞質SETD3は、そのメチル化活性には依存しない機構により、ウイルス増殖過程におけるRNA複製に必須の因子となっていた。
  • 定量的アフィニティー精製質量分析法 (AP-MS)により、SETD3が先の2種類のウイルスに限らず各種エンテロウイルスのウイルス2Aプロテアーゼと特異的に相互作用することを同定し、さらに、この相互作用を担う残基も同定した。
  • また、2A野生型に対して、プロテアーゼ活性を維持するがSETD3との相互作用が成立しない2Aの変異体が、ウイルスRNA複製を障害することも見出した。
  • In vitro実験に続いて、マウスへの CV-A10、 EV-A71およびEV-D68によるチャレンジにより、in vivoでもSETD3がウイルスの複製と病原性の必須宿主因子であることを確認した。
展望
  • 多彩なウイルスが共に必須とする宿主因子を標的とする抗ウイルス療法に対しても、耐性を帯びたウイルスが出現する可能性を否定できないが、ウイルス内在因子を標的とするよりも安定して長期間奏功することを期待して、宿主因子を抑制することの副作用も含め、宿主標的治療法の開発と評価を進めるべきである。

[出典] Deep learning enables rapid identification of potent DDR1 kinase inhibitors. Zhavoronkov A [..] Aspuru-Guzik A. Nat Biotechnol 2019-09-02;NEWS RELEASE Novel molecules designed by artificial intelligence in 21 days are validated in mice - Experimental validation confirms the ability of artificial intelligence to accelerate drug discovery. EurekAlert! 2019-09-02.

 創薬は多大な研究開発資源を要し、10~20年の歳月と5~26億ドルを要する。Alán Aspuru-Guzik (U. Toronto)が率いるInsilico MedicineWuXi AppTecの研究グループは今回、低分子のデノボ設計を可能とする深層学習モデルGENerative Tensorial Reinforcement Learning (GENTRL) [1] を開発し、GENTRLによる設計に基づいて、H2L (ヒット化合物からリード化合物の導出)に要する期間を、従来の2~3年から2ヶ月まで短縮し、コストも大幅に削減することが可能なことを示した (EurekAlert! 挿入図参照)。

 線維症に関わるジスコイジンドメイン受容体1 (DDR1) [2]を標的とする実証実験では、23日間で30,000種類の候補構造の生成からリピンスキーの法則を満たす新奇阻害剤候補6種類までの絞り込みを実現し、35日目に合成を完了し、in vitroでの阻害活性アッセイを経て、活性を示した4種類の中でより強い活性を示した2種類について、U2OS細胞におけるDDR1阻害活性の評価と代謝安定性試験を加え、うち1種類について、47日目からマウスにおける薬物動態プロファイリングと量子化学計算による阻害機構の推定を進め、DDR1選択的阻害剤として有望であると結論するに至った。

[注]
  1. GENTRLは強化学習 (reinforcement learning)、変分近似 (variational inference)、および、テンソル分解 (tensor decomposition)を融合し、自己組織化マップ (SOM)に基づく評価を組み込んだ機械学習アルゴリズムであり、化合物の合成可能性、与えられた標的に対する効果、および、文献や特許に記載されている分子に対する新規性を優先する。
  2. DDR1は、コラーゲンで活性化される受容体型チロシンキナーゼであり、上皮細胞で発現し線維症に関与することが知られている。DDR1が繊維化をもたらす分子機構は判然としていないが、これまでに、DDR1選択的阻害する低分子がいくつか同定されてきている。

[出典] Off-target toxicity is a common mechanism of action of cancer drugs undergoing clinical trials. Lin A, Giuliano CJ [..] Sheltzer JM. Sci Transl Med. 2019-09-11.

 治験まで進んだ抗癌剤候補のほとんどが奏功性や毒性の評価基準を満たすことなく脱落してきたが、その原因の一端が明らかにされた。CSHLのJason M. Sheltzerが率いる研究グループは今回、抗癌剤の標的として想定されていたタンパク質をノックアウトしても、抗癌剤が適用癌細胞に対する細胞障害性を失わない事例が多々存在することを同定し、癌細胞障害性の作用機序が誤解されていることを例示した。研究グループはさらに、「誤解」されていた抗癌剤の中の一つについて、改めて真の標的タンパク質を特定し「誤解」を解くことが可能なことを示し、標的タンパク質を精密に特定する手法を創薬パイプラインの早期、前臨床試験、に導入すべきとした。

先行研究
抗癌剤標的タンパク質の必須性検証
  • 今回は、癌細胞に必須とされていた遺伝子とその産物であるタンパク質を標的として開発された抗癌剤の組み合わせから、耐性をもたらす遺伝子変異が同定されている抗癌剤を除いたセットを設定し、各遺伝子への癌細胞の依存性 (癌細胞必須性)を再評価した。
  • 抗癌剤開発の標的タンパク質 (以下、想定標的)はこれまで主として、RNAi実験と低分子による阻害実験の結果を参考に選択されてきたが、研究グループは、CRISPR competition [3]、CRISPRiおよびCRISPR KO実験によって癌細胞必須性を評価し、その結果、多くの遺伝子について癌細胞必須性が否定され、「誤解されていた」抗癌剤と標的タンパク質のリストが出来上がる結果となった。
  • 例えば、低分子の抗腫瘍性スクリーニングから見出されたPAC-1は、癌細胞においてカスパーゼ-3を活性化し癌細胞をアポトーシスに導くとして臨床試験が進行中であるが、PAC-1は、カスパーゼ-3をノックアウトした4種類の癌細胞に対しても変わらぬ細胞障害性を示した。同様に、臨床試験が進んでいるHDAC6阻害剤についても、想定標的のHDAC6をノックアウトしてもHDAC6阻害剤の癌細胞障害性が変わることはなかった。
真の標的同定
  • これまで、多くの抗癌剤の作用機序が生化学的解析と生物物理学的解析にもとづいて推定され、抗癌剤と標的の関係に関する遺伝学的解析がほとんど行われていないことから、抗癌剤に対する耐性をもたらす遺伝子変異を特定する手法を試みた。
  • モデルとして、PBK/TOPK (PDZ結合キナーゼ/T-LAK細胞由来プロテインキナーゼ)を阻害する抗癌剤として期待され前臨床試験が進んでいるOTS964を選択した。
  • ヒト結腸腺癌由来HCT116細胞株をOTS964致死濃度下で培養し、細胞死に至らず増殖したクローン12種類を得て、その全エクソームシーケンシング (WES)を行なった結果、これらOTS964耐性クローン全てが、サイクリン依存性タンパク質キナーゼ11 (CDK11)の活性部位に変異を帯びていることを発見した。
  • CRISPR遺伝子編集実験により、同定した変異がOTS964耐性に必要十分であり、CDK11の活性がヒト癌細胞の有糸分裂に必須であることを確認した。なお、OTS964耐性クローンは、パクリタキセルに対しては感受性を示した。
  • CDK11は第三者の先行研究において、すでに抗癌剤の標的タンパク質候補とされていたが [4]、今回、OTS964の真の標的がCDK11であり、OTS964をCDK11の初の阻害剤として同定するに至った。
[参考文献・記事] 
  1. CRISPR/Cas9 mutagenesis invalidates a putative cancer dependency targeted in on-going clinical trials. Lin A, Giuliano CJ, Sayles NM, Sheltzer JM. eLlife. 2017 Mar 24;6. pii: e24179.
  2. MELK expression correlates with tumor mitotic activity but is not required for cancer growth. Giuliano CJ, Lin A, Smith JC, Palladino AC, Sheltzer JM. eLife. 2018 Feb 8;7. pii: e32838.
  3. Discovery of cancer drug targets by CRISPR-Cas9 screening of protein domains. Shi J, Wang E, Milazzo JP, Wang Z, Kinney JB, Vakoc CR. Nat Biotechnol. 2015 Jun;33(6):661-7. Online 2015-05-11
  4. The emerging roles and therapeutic potential of cyclin-dependent kinase 11 (CDK11) in human cancer. Zhou Y, Shen JK, Hornicek FJ, Kan Q, Duan Z. Oncotarget. 2016 Jun 28;7(26):40846-40859.
  5. [IN DEPTH] CRISPR reveals some cancer drugs hit unexpected targets. Kaiser J. Science. 2019-09-13. 
  6. 2019-06-23 [ハイライト] CRISPR流 がん治療標的同定
[2019-09-14追記] 責任著者のJ. M. Sheltzerがツイッター上で、論文紹介に続いて、論文に対するコメントや質問に積極的に応答している

[出典] "Hidden antibiotics in actinomycetes can be identified by inactivation of gene clusters for common antibiotics" Culp EJ, Yim G [..] Wright GD. Nat Biotechnol. 2019-09-09.

 バクテリア感染症に抗生物質が処方され始めてから70年、多剤耐性菌の問題がますます深刻になって来た一方で、この30年間新たなクラスの抗生物質が生まれていないことから、新たな天然物創薬の戦略が求められている。

 放線菌門は抗生物質生産菌の宝庫であり、各菌株 (各ゲノム)は、特有な代謝産物を産生する20~40種類の生合成遺伝子クラスタ (biosynthetic gene clusters: BGCs)を帯びている。しかし、抗生物質のスクリーニングにこれまで利用されて来たWaskmanプラットフォームからは、抗生物質に至るリード化合物が発見されなくなっている。このプラットフォームは複雑な混合物からの代謝産物同定を必要とするが、なによりも、既知化合物の'再発見'が重なるようになったことが原因である。Baltzらの抗生物質探索パイプラインの効率に関する考察(J. Ind. Microbiol. Biotechnol 2006)に基づけば、従来のプラットフォームに依存した新奇抗生物質発見には数千万に及ぶ分離株のスクリーニングが必要になる。

 そこで、既知の抗生物質の除去 (デレプリケーション/dereplication)を可能とするプラットフォームの開発や特定のBGCsを活性化あるいはランダムにBGCsを活性化する手法が試みられて来たが、新奇クラスの抗生物質発見には至らなかった。David Braley Center for Antibiotic Discovery (McMaster University)の研究グループは今回、既知の抗生物質のBGCsを構成する遺伝子をノックアウトすることで、既知の抗生物質産生の陰に隠されていた代謝産物の産生を引き出す戦略を立て、CRISPR-Cas9技術によりその戦略を具体化した。

 研究グループは、はじめに、最も高頻度に見出される2種類の抗生物質、ストレプトスリシンまたはストレプトマイシン、の一連のBGCsにおいて保存性が高い一連の遺伝子[**]を同定し、11種類の放線菌株においてCRISPR-Cas9によるそれらをノックアウトすることで、ストレプトスリシンまたはストレプトマイシンに替えて、thiolactomycin、amicetin、phenanthroviridinおよび5-chloro-3-formylindoleを含む稀で新奇な抗生物質バリアント産生菌の'再発見'を短期間で実現した [** ストレプトスリシンではorf15rf17; ストレプトマイシンではstrFstrHおよびstrI]。

 今回実証されたいわば菌株のリパーパシング (repurposing)戦略は、抗生物質に限らず、アジュバント剤や抗癌剤に至る代謝物や生理活性物質の探索にも展開可能である。

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