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[出典] "Using antagonistic pleiotropy to design a chemotherapy-induced evolutionary trap to target drug resistance in cancer" Lin KH, Rutter JC [..] Puissant A, Wood KC. Nat Genet 2020-03-16.

 拮抗的多面発現はantagonistic pleiotropyの訳であり、特定の環境に有利な形質を獲得することで適応した生物が、環境の激変に遭遇し、隠れていた形質のトレードオフが顕在化し、環境に不適応になり、進化的トラップ(evolutionary trapの訳)の状態に至ることを意味する。
  • Duke University, Université de Paris, Brown University, Universidade Federal do Rio de Janeiro, Hôpital Saint-LouisならびにBrown Universityの研究グループは、薬剤耐性を獲得する癌細胞はこの進化トラップに陥るとする仮説をたて実験を進めた。
  • 抗癌剤9種類を投与するAML細胞のCRISPR-Cas9 KOスクリーニングから、PRC2–NSD2/3を介したMYCシグナル伝達経路が、ブロモドメイン阻害とBCL-2阻害の拮抗的多面発現に相当するパスウエイであることを同定した。
  • 続いて、種々のAML細胞株および患者由来異種移植モデルマウスにおいて、AML細胞がこのパスウエイを介してブロモドメイン阻害への耐性を獲得すると同時にBCL-2阻害に対して極めて高い感受性を獲得することを見出した。
  • 同一パスウエイの拮抗的多面発現と進化的トラップを探ることで、化学療法の新たな戦略が見えてくる。

[出典] "Rare driver mutations in head and neck squamous cell carcinomas converge on NOTCH signaling" Loganathan SK [..] Schramek D. Science 2020-03-13.

 ヒトの癌にて高頻度に変異している遺伝子は少数であり、ほとんどの遺伝子の変異は低頻度である (以下、ロングテール/long tail 遺伝子変異)。
  • Mount Sinai Hospital, Princess Margaret Cancer Centre, U Torontoなどのカナダの研究グループは、HNSCCにおける484種類のロングテール遺伝子を対象とするCRISPR/Cas9 KOスクリーンにより、その遺伝子変異がマウスにおいて腫瘍増殖をもたらす遺伝子群を同定した。
  • 同定した15種類の腫瘍抑制遺伝子の中で、ADAM10AJUBAがNOTCH受容体シグナル伝達の亢進を介してハプロ不全型でHNSCCを抑制することを見出した。
  • ヒトHNSCCの28%にADAM10AJUBAの変異または単一アレル欠損が見られ、これらは、NOTCH受容体の変異と相互排他的であった。
  • ヒトHNSCCの67%に見られる癌遺伝子変異はNOTCHシグナル伝達に集中し、NOTCH不活性化をHNSCCの特徴たらしめていた。
 ロングテール遺伝子が特定のパスウエイに集中することが、癌のドライバーとして機能し、したがって、治療標的になることが示唆された。

[出典] "CRISPR screens in cancer spheroids identify 3D growth-specific vulnerabilities" Han K [..] Bassik MC. Nature 2020-03-11.

背景
  • がんゲノミクスによって大量に同定されくる発癌/癌抑制遺伝子候補の機能を、ハイスループットで精度良く同定可能とする手法が求められている。
  • これまでに、遺伝子改変モデル動物、ヒト癌移植モデル動物、2次元培養細胞ならびにin vitro オルガノイドモデルが機能ゲノミクスのプラットフォームとして利用されてきたが、スケーラビリティー、時間、経費、腫瘍のフェノタイプおよび分子機序の再現性など、一長一短あった。
  • Stanford U School of Medicine, Stanford UならびにUCSFの研究グループは今回、癌細胞の3次元培養で得られる細胞の塊である 癌スフェロイドを対象とするCRISPRスクリーンが癌遺伝子ゲノミクスに有用であることを示した。
主たる実験
  • 研究グループは、始めに、低接着表面上でのH23肺腺癌細胞株~1.6x108個からなる3次元スフェロイド (以下、3D)形成を実現した。
  • H23細胞の2次元培養単一層 (以下、2D)とともに、細胞増殖を指標とするゲノムワイドCRISPRスクリーンを実施し、各遺伝子のノックアウトがH23増殖に及ぼす作用を比較した。また、H23を皮下移植したマウスでのin vivoスクリーンとも比較した。
2Dと3Dの比較
  • 2Dに対して3Dの方が各遺伝子ノックアウトに対するin vivoでの癌細胞の振る舞いをより精確に再現した。
  • 肺癌細胞で高頻度で変異している遺伝子群について、2Dの結果と3Dの結果に顕著な差異が見られた。例えば、癌抑制遺伝子ノックアウトが、2Dでは、癌遺伝子ノックアウトと同程度な増殖抑制効果をもたらしたが、3Dでは、増殖を亢進する傾向を明確に示した。
  • 3Dとin vivoで癌増殖に必須と判定された遺伝子が、2Dでは必ずしも必須判定にはならなかった。
新たな治療標的候補CPD
  • DepMapプロジェクトにおけるフェノタイプと相関する機能モジュールを構成する遺伝子群を対象とする多重遺伝子KOスクリーンも行い、カルボキシペプチダーゼD (CPD)遺伝子欠損によってインスリン様成長因子1受容体(IFG1R)のシグナル伝達を阻害することを見出した。
  • 続いて、抗体を利用した実験により、CPDタンパク質がIGF1Rのα鎖C末端のRKRRモチーフを除去することで、IGF1Rの成熟を促す機序を明らかにした。
  • マウスモデルにおけるCRISPR KO実験から、CPDの欠損が腫瘍の増殖を抑制することを確認した。
  • PRECOG (PREdiction of Clinical Outcomes from Genomic profiles)を利用した解析により、CPDタンパク質の高発現が肺腺癌患者の予後不良と相関することを見出した。
  • H23細胞の特徴であるKRAS(G12C)を標的とする阻害剤ARS-853を添加した条件での3Dスクリーンで、ARS-853とCPD遺伝子欠損との合成致死性が、特に3Dにおいて、明確に示された。
スフェロイド参考資料
  • 細胞スフェロイド化技術の開発と細胞治療への応用. 草森 浩輔, 西川 元也, 高橋 有己, 高倉 喜信.  (特集“細胞治療とDDS -細胞を制御する、細胞で制御する-”編集:高倉喜信). Drug Delivery System 2013 年 28 巻 1 号 p. 45-53.

[出典] Microscaled proteogenomic methods for precision oncology. Satpathy S [..] Carr SA, Ellis MJ. Nat Commun 2020-01-27. (bioRxiv. 2019-10-09)

 癌のプロテオゲノミクス[*]は、癌のゲノミクスならびにトランスクリプトミクスのデータにプロテオミクスのデータを加えて統合解析する手法であり、癌の生物学と治療標的を深く理解する (deep insights)手がかりを供する [* WikipediaのProteogenomicsの項 から引用した下図概念図参照; Nat Methods 2014]Proteogenomics
 Broad Institute、Baylor College of Medicine、Siteman Comprehensive Cancer Center (WUSTL)などの研究グループは今回、これまでの手法に比べて、極めて少量のサンプルの採取法にサンプル中に微量に存在するタンパク質 (deep proteome)の検出も検出可能なプロテオミクス技術を組合わせることで、トランスレーショナル研究や癌の臨床診断に展開可能なプロテオゲノミクスの手法を開発した。

サンプル採取・調整法とマイクロスケールのプロテオーム解析法

 Clinical Proteomic Tumor Analysis Consortium (CPTAC)では、少なくとも100 mgの腫瘍組織を前提として、10,000種類を超えるタンパク質と、サンプルあたり30,000ヶ所を超えるリン酸化サイトのデータを獲得してきた。癌の臨床診断では、急速凍結組織からのコア針バイオプシー (core needle biopsy)で20 mg程度のサンプルをもとに、高深度なプロテオゲノミクスに十分なDNA、RNAおよびタンパク質を抽出する。
  • 研究グループは、高深度なプロテオゲノミクスを行うに足る高品質なDNA、RNAおよびタンパク質の調整を可能とするサンプルを14G (外径 2.11±0.03 mm; 内径 1.69±0.04 mm)の針を介して採取する手法 (Biopsy Trifecta Extraction, BioTExt)を確立した [Fig. 1 a引用下図参照]。Table 1-a
  • またBioTExtに加えて、サンプルあたり25 μgのペプチド量で十分なマイクロスケールのLC-MS/MSによるプロテオームとリン酸化プロテオームの解析を可能とするパイプライン、MiProt、を確立した [Fig. 1 b引用下図参照]。Table 1-b
実証実験
 ERBB2陽性 (HER2陽性)乳癌をモデルとして選択し、患者腫瘍組織移植マウス (PDX)モデルでの予備実験に続いて、14名の患者由来組織について解析を行った。
  • HER2を標的とするヒト化モノクローナル抗体薬トラスツズマブ(ハーセプチン)  によるネオアジュバント(術前補助) 化学療法の開始前と開始後48-72時間にわたって、プロテオゲノミクスを行った。その結果、リン酸化部位として、PDXモデル由来組織と患者由来組織においてそれぞれ>25,000ヶ所と>17,000ヶ所を同定し、11,000種類のタンパク質を同定した。
  • 浸潤巣が完全に消失する病理学的完全奏効 (pathologic complete response, pCR)に達した9名の組織では、ERBB2タンパク質とリン酸化レベルが低減し、mTORの活性も低減することを同定した。
  • pCRに至らなかった (non-pCR)事例について、その原因3種類を同定あるいは推定し、オアジュバント(術前補助) 化学療法に際しての診断の改善と個別化の手ががりとした:
  1. 偽陽性ERBB2事前でのFISHでの判定で陽性であったが、免疫組織化学的方法/IHCで、ERBB2タンパク質の発現は過剰になっていないことを特定。
  2. 疑似陽性ERBB2 - ERBB2は増幅していたが、ERBB2タンパク質の発現レベルとリン酸化のレベルがpCRに比べて低く、また、TOP2Aが発癌ドライバーとして機能している可能性。
  3. ERBB2陽性であるが、ムチン (mucin)タンパク質の過剰発現、アンドロゲン受容体 (AR)シグナル伝達の活性化そしてまたは、癌微小環境における抗腫瘍免疫応答の抑制などにより、耐性を獲得することが示唆された。

出典
 MHCクラスⅠb 分子であるMR1 (Major histocompatibility complex, class I-related)は、MHCクラスI様関連分子とも言われているが、個人間で多様化していない (monomorphic; 単形性)という特徴を帯びている。Cardiff Universityを主とする米、豪、デンマークの国際共同研究グループは、ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーンによって、MR1を標的とするT細胞受容体 (TCR)を探索し、MR1を認識し癌細胞の特異的な細胞障害性をもたらす新奇TCRを発見した。
  • 新奇TCRは、血液癌細胞に加えて、肺、皮膚、血液、大腸、乳、骨、前立腺、卵巣、腎臓および子宮頸部の癌に由来する固形癌由来細胞を認識し・殺傷し、かつ、正常細胞には細胞障害性を示さなかった。
  • 新奇TCRは、粘膜関連インバリアントT細胞 (MAIT細胞)の既知のTCRと異なり、MR1の認識に、微生物由来の抗原を必要としなかった。
  • 新奇TCRは、ビタミンB関連代謝産物を付加していく実験から、癌細胞に特異的な代謝産物を手がかりに、癌細胞と正常細胞を識別することが示唆された。
  • 新奇TCRを発現するMR1拘束性T細胞クローンが、NSGモデルマウスにおいて、白血病を抑制し寿命を伸ばすことも確認した。
  • さらに、新奇TCRを移植した患者由来T細胞は、患者由来のメラノーマ細胞に加えて、第三者の患者由来メラノーマ細胞も殺傷した。
 癌細胞を特異的に認識する機構など、関連する分子機構を詳らかにしてく必要があるが、MR1を標的とすることで、個々人のMHC (HLA)にも癌由来組織にも左右されない汎用T細胞免疫療法の可能性が見えて来た。

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