タグ:神経変性

[出典] Cytosine and adenine base editing of the brain, liver, retina, heart and skeletal muscle of mice via adeno-associated viruses. Levy JM [..] Liu DR. Nat Biomed Eng. 2020-01-14
  • 1塩基置換法であるCBEとABEは、そのサイズの問題から、遺伝子治療に広く利用されているAAVによるデリバリーが困難であった。CBEとABEそれに続くPE[*]を開発してきたDavide R. Liuの研究グループは今回、表題の手法を実現した (* 2019-10-22 David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs) 。
  • 2分割し、デュアルAAVsでデリバリーされたCBEまたはABEは、予め組み込んであったインテインを介して自動的に再構成され、脳、肝臓、網膜、心臓および骨格筋にて、しかるべき一塩基置換を実現した。効率はそれぞれ、59%、38%、38%、20%、および9%に達した。
  • また、運動失調などを呈する神経変性症の一種であるニーマン・ピック病C型の責任変異を修復し、その結果、神経変性の進行が遅れ寿命が伸びることを確認した。

[出典] Brain cell type–specific enhancer–promoter interactome maps and disease-risk association. Nott A, Holtman IR, Coufal NG [..] Glass CK. Science. 2019-11-29. Online 2019-11-14.  < bioRxiv. 2019-09-22. [crisp_bio注: bioRxivScienceのabstracts対照表文末]
# [crisp_bio] 2019-12-04 12:20 改題・改訂
 背景
 ノンコーディング領域である遺伝子調節領域に位置するエンハンサーは、プロモーターを介してmRNAの発現を亢進し、細胞型に特有な遺伝子発現パターンをもたらす。一方で、ゲノムワイド関連解析 (GWAS)で同定される疾病リスクを伴うSNPsのほとんどがゲノム上のノンコーディング領域に位置する。したがって、GWASの結果にみられる稀な変異やありふれた (common)変異が、細胞型に特異的なエンハンサーとプロモーターの3次元的相互作用を介して、細胞や組織の形質や疾病と関連することが、示唆される。

概要
 脳の形質および疾病も、細胞型特異的なエンハンサーの変異の影響を受けるが、多様な細胞型から成り立つ複雑な脳における細胞型特異的エンハンサーの解析はこれまで、主として、バルクの脳組織に依存していた。University of California San Diego School of Medicine、Salk Institute for Biological Studiesなどの研究グループは今回、主要な脳細胞4種類 (ニューロン、ミクログリア、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)それぞれについて、エンハンサーとプロモーターの相互作用の全体像 (インタラクトーム)を描き出すことで、その遺伝変異がアルツハイマー病 (AD)をはじめとする疾病と関連する細胞型に特異的なエンハンサーを同定可能なことを示した。

詳細
  • 10名のてんかん患者 (5ヶ月~18歳; コケージアン3名、ヒスパニック6名、パシフィック・アイランダー1名)の健全な脳皮質組織から分離した4種類の脳細胞の細胞核を対象として、ATAC-seq (オープンクロマチン領域)、H3K4me3 ChIP-seq (クロマチン活性領域)、H3K27ac ChIP-seq (プロモーター)およびPLAC-seq (proximity ligation-assisted ChIP-seq)を行った。4種類の解析全てを行ったのは2名に由来する組織に留まった。
  • 200,000細胞核を対象としてATAC-seq、500,000細胞核を対象としてH3K4me3 ChIP-seqとH3K27ac ChIP-seq、加えて、PLAC-seq (proximity ligation-assisted ChIP-seq; Cell Research, 2016)を行った。
  • 活性なプロモーターの多くは細胞型の間で共通していたが、細胞型の間で共通するエンハンサーは比較的少数であり、細胞型に依存する特異性は主としたエンハンサーでもたらされることが示唆された。また、細胞特異型エンハンサーは、PsychENCODE (Science, 2018)において脳組織バルクで同定されたエンハンサーの94%を含む一方で、多数の新奇エンハンサーを含みエンハンサーを87%増加させるに至った。
  • 続いて、GWASの統計量にもとづく連鎖不平衡解析によって、細胞型に特異的な遺伝子調節領域において、神経障害や精神疾患と精神行動の特徴に関連する遺伝変異の偏りを、探った。その結果、全ての疾病や形質について、脳細胞のエンハンサーとプロモーターの変異へ偏りが、PsychENCODEの脳組織バルクの解析結果に見られた偏りよりも著しいことを見出した。ADの場合は、ミクログリアの遺伝子調節領域、特に、エンハンサー、に強い偏りが見られた。
  • さらに、プロモーターと、遠位の調節領域の間のクロマチンループの形成を、PLAC-seq により解析し、細胞型に特異的なエンハンサーとプロモーターの相互作用を同定可能なことを確認した。
  • また、ミクログリア、ニューロンおよびオリゴデンロサイトにおいて2,954種類のスーパーエンハンサーを同定し、その83%にPLACでエンハンサー・プロモーター相互作用が検出され、通常のエンハンサーに対してH3K27acレベルが上昇することも見出した。スーパーエンハンサーの多くにGWAS由来の疾病リスク変異の存在と細胞型特異的遺伝子との相関が見られ、GWAS変異のサブセットが、スーパーエンハンサーを介して遺伝子発現に影響を及ぼすことが示唆された。
  • ADについては、連鎖不平衡解析とPLAC-seqから、ミクログリアにおいて25種類の'PLAC-linked AD-risk'遺伝子を同定したが、そのうち14種類はミクログリアの他の細胞型では検出されなかった。
  • 前項の'PLAC-linked AD-risk'遺伝子の中で、多くの細胞型で発現するBIN1遺伝子 (*)のミクログリアに特有なエンハンサーは、PLAC解析からBIN1プロモーターに結合し、APOEに次ぐ高レベルのADリスク変異rs6733839を帯びていた [* BIN1遺伝子は、2010年以来種々のGWASに基づいて、晩発性AD (late-onset AD)のリスク因子とされていた
  • そこで、CRISPR/Cas9により、ヒトiPS細胞とES細胞において当該エンハンサーの363-bpを削除し、分化したミクログリア、ニューロンおよびアストロサイトにおいてBIN1の発現レベルを見たところ、ミクログリアでは発現ほとんど消滅し、ニューロンとアストロサイトでの発現レベルは野生型BIN1と変わらないことを見出した。
  • 今後、健全な組織から病態を帯びた疾患組織 (例えば、アミロイド斑を帯びたミクログリア)およびコホートの規模を拡大した解析が期待される。
[参考:ADリスク遺伝子の一覧] Alzheimer's disease risk genes and mechanisms of disease pathogenesis. Karch CM, Goate AM. Biol Psychiatry. 2015 Jan 1;77(1):43-51. Online 2014-05-17. : Figure 1参照 (このグラフの上では、BIN1は、ありふれた (common)変異かつ低リスクの右下に位置している)
[参考:bioRxivScienceのabstracts対照表]brain enhancer

[参考:CRISPR技術によるエンハンサー機能解析関連crisp_bio記事] 2019-09-10 エンハンサー機能解析ツールenCRISPRaとenCRISPRi

[出典] Analysis of short tandem repeat expansions and their methylation state with nanopore sequencing. Giesselmann P, Brändl B [..] Müller  FJ. Nat Biotechnol. 2019-11-18; [News] DNA repeats – the genome's dark matter - First direct analysis of pathogenic sequence repeats in the human genome. Max-Planck-Gesellschaft. 2019-11-19.

背景
 STRs (ショート・タンデム・リピート)の伸長は神経精神疾患をはじめとする疾患の病因変異である。その中で、C9orf72遺伝子に存在する(GGGGCC)リピート伸長が病因である前頭側頭型認知症 (FTD)と筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、ならびに、FMR1遺伝子に存在する (CGG)リピートの伸長が病因である脆弱X症候群において、個人間ばかりでなく一個人内にも見られるリピート伸長の変動と、DNAメチル化の局在的変動とが、疾患の表現型に影響を与えることが知られてきた。

成果
 Max Planck Institute for Molecular Geneticsを主とする研究グループは今回、(1) ナノポアシーケンスの生データ (イオン電流シグナル)からSTRの検出と正確な定量を可能とするアルゴリズムを開発し、(2) CRISPR-Cas (Cas12aとCas9)により増幅を経ることなく標的領域を2桁以上エンリッチメントする技術 (原論文 Fig. 2 参照)、および、(3) SRT同定と同一アレルにおけるSTR領域と隣接領域のCpGメチル化の解析 (原論文 Fig. 3 参照)と組み合わせて、これまで困難であったSTRs伸長の同定と解析を可能にした。
 新たに開発したアルゴリズムは、short tandem repeat identification, quantification and evaluationになぞらえてSTRique (原論文 Fig. 1 参照)と命名して、GitHub Webサイトから公開し、また、メチル化解析を組み合わせる解析手法を'methylation-aware STRique'と称した。
 'methylation-aware STRique'によって、驚くべきことに、伸長の長さや5′CpGアイランド (CGI)プロモータのメチル化状態にかかわらず、患者由来のC9orf72 STRをカバーする全てのリードにおいて、殆どまたは全くGpGメチル化が存在しないことを、同定した。
 CRISPR-CasによるエンリッチメントとSTRiqueによるSTR判定は正確であるだけでなく、これまでのサザンブロッティングに基づく判定では3日間を要していたところ、1日 (~16時間)で完了する (原論文 Supplementary Figure 2 参照)ことからも、STRsの研究およびSTRs伸長に由来する疾患の診断に有用である。

[出典] Tau interactome analyses in CRISPR-Cas9 engineered neuronal cells reveal ATPase-dependent binding of wild-type but not P301L Tau to non-muscle myosins. Wang X [..] Schmitt-Ulms G. Sci Rep. 2019-11-07

モデル細胞構築法
 University of TorontoとUCSFの研究グループは、はじめに、ヒト細胞のAAVS1イタの第1イントロンに、Cas9ニッカーゼと一対のsgRNAならびにHDRテンプレートを介してloxイタ サイトを帯びたファウンデーション・カセット (FC)を挿入した後に、Creリコンビナーゼを介して、FCを関心のあるタンパク質 (今回はタウ)の誘導発現を可能とするカセット (inducible expression cassette, IEC) へと置換する2ステップで、関心あるタンパク質のインタラクトームを、定量的質量分析で同定可能とするモデル細胞を構築可能とする手法を開発した (Figure 1引用下図参照)。Tau model

分裂細胞での実験 - ヒト腹部神経芽細胞腫株 (IMR-32)由来モデル細胞
  • 3リピートタウ (3R) および4リピートタウ (4R) の野生型(3Rwt/4Rwt)または3Rと4RのP301L変異型 (3Rwt/4RRR301L)のインタラクトームを比較し、タウに対する既知のバインダーに加えて新奇バインダーを同定した。新奇バインダーに含まれたDJ-1は、家族性パーキンソン病の原因遺伝子とされ、4RP301Lに結合した。
非分裂細胞での実験 - 腹側中脳に由来する神経前駆細胞株 (ReN VM)から分化した神経細胞とグリア細胞
  • IMR-32では、変異型と相互作用する傾向を示したDJ-1は、ReN VMでは野生型と相互作用する傾向を示した。
  • 非筋細胞ミオシンに、変異型は結合しないが、野生型がミオシンのATPアーゼ活性依存で結合することを見出した。このことは、タウが樹状突起スパインの維持とミトコンドリア分裂に関与するとする仮説を裏付けるデータである。

crisp_bio 2019-08-13: 本記事が引用した解説に関して、オリジナルのNature論文に対してbioRixvに"[Contradictory Results] が投稿されたが、それに対する原論文著者グループからの反論2019-08-13にbioRxivに投稿された。
# crisp_bio 2019-08-03: 本記事のNature論文に対して、"[Contradictory Results] Evidence that APP gene copy number changes reflect recombinant vector contamination"が、2019年7月22日にbioRxivにBoston Children’s Hospital/Harvard Medical SchoolのKim J [..] Walsh CA, Lee EA.により投稿された (2019-08-03 bioRixv投稿、Nature掲載'APP gencDNAs'論文の問題点を指摘)。
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[出典] "Mosaic APP Gene Recombination in Alzheimer’s Disease—What’s Next?" Lee MH, Chun J. J Exp Neurosci 2019 May 16;13:1179069519849669.

 #オリジナル論文の筆頭著者と責任著者による解説
  • 脳は、DNAが互いに変異した体細胞のモザイク (somatic genomic mosaicism: SGM)であることが2001年に報告された (Proc Natl Acad Sci U S A. 2001)。SGMは脳に先立って獲得免疫応答システムにおいて、"V(D)J組換え"と呼ばれる体細胞遺伝子組換え (somatic gene recombination: SGR)を介して天文学的な免疫グロブリンとT細胞受容体を生成する現象に見られていた。そこで、1960年代から脳におけるSGRの存在の証拠探しが続いていたところ、著者らが2018年11月にNature誌にて、アルツハイマー病 (AD)に関連する遺伝子アミロイドβ前駆体タンパク質APP遺伝子を含むSGRが発生することを報告した [*]
  • APP SGRが発生する分子機序として、APP 遺伝子 - (転写) - APP  mRNA -(逆転写) - APP cDNA - (ゲノム組み込み/“retro-insertion”) - APP  gencDNAsのプロセスを想定し、さらに、このプロセスが繰り返されることで、一旦ゲノムに書き込まれたAPP gencDNAsのコピーがゲノム上に増殖していくとした。このプロセスの間に、エクソン間の結合組換え (intra-exonic junctions: IEJs)、SNVsおよびindels変異が誘発される。
  • APP  gencDNAsは、健常者にも孤発性AD (SAD)患者にも前頭前野皮質ニューロンにおいて見られた。注目すべきことに、SAD患者には健常人に比べてより大量でより多様な変異APP gencDNAsが存在し、SAD患者ではSGRが調節不全に陥っていることが示唆された。変異APP gencDNAsのうち家族性AD (FAD)の病因変異と同一なSNVs変異が11種類存在したが、これらがSADニューロンではモザイク状に存在したのに対して、健常人のニューロンには存在しないことが、APP  gencDNAsがSADの病因機構であることを示唆した。
  • APP  gencDNA生成には前述したAPP遺伝子の転写と逆転写酵素の活性に加えて"retro-insertion”過程でのDNA二本鎖切断が必須とされたが、詳細な分子機構の解明はこれからである。特に、APP gencDNAsがADの発症と進行に関与する分子機構の解明が待たれる。
  • APP  gencDNAsの発見は、HIVとB型ウイルス肝炎の治療法としてFDAに承認された逆転写酵素の阻害のAD療法への期待をもたらした。
  • [*] 参考記事:2018-11-26 アルツハイマー病患者と健常者の神経細胞の双方に、体細胞組み換えに由来するAPP遺伝子変異を見た

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