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[出典] A bacterial gene-drive system efficiently edits and inactivates a high copy number antibiotic resistance locus. Valderrama JA, Kulkarni SS, Nizet V, Bier E. Nat Commun. 2019-12-16. 
 微生物に由来するCRISPR-Casシステムにより、微生物のゲノムそしてまたはプラスミドのDNAを編集することで、病原性や薬剤耐性の遺伝子を除去する試みが続いているが [1]、実用化には、多コピーのプラスミドを効率的に標的する必要がある。CRISPR-Casシステムは一方で、自己増殖するCas9-gRNAカセットを介した遺伝子ドライブ (Wikipediaから引用した下図模式図参照)遺伝子ドライブ機構
による感染症媒介昆虫集団や侵入外来種集団の制御への展開が試みられ [2-3]、遺伝子ドライブの性能がショウジョウバエ、酵母さらにはマウスといった二倍体生物において実証されている。
 UCSDの研究チームは今回、λRedリコンビナーゼの助けを借りて、Cas9切断部位に相同組み換え修復過程を介して活性なgRNAカセットをコピーしていく微生物版遺伝子ドライブシステム"pro-active" genetic system (Pro-AG)を開発し、薬剤耐性遺伝子を帯びたプラスミドを多コピー帯びたE. coliモデルにおいて、アンピシリン耐性遺伝子β-ラクタマーゼ (bla)を、CRISPR-Cas9による単なる切断の~100倍の効率で不活性化することに成功した (原論文Fig. 1引用下図参照)。Fig. 1
 上図は、Cas9切断部位へのgRNAの挿入を伴わない通常のCRISPR-Cas9による編集 (a)と、Cas9切断部位へのgRNA挿入を伴うPro-AGによる編集 (c)の模式図と、選択培地でのアンプリシン耐性 (Amp(R))を帯びたコロニー形成能の比較 (b と d)を示している (図の中のaTCはtetプロモーターを介したpCas9からのCas9の発現を誘導するアンヒドロテトラサイクリンの略)。
 研究チームは、Pro-AGがサイズの大きなプラスミドに対しても有効であることを示し、また、遺伝子ターゲッティングに利用可能なことをGFPのノックインで実証し、Pro-AGは汚水、養魚池、肥育場などの環境における微生物集団の制御に展開可能とした。

[参考記事]
  1.  crisp_bio 2017-05-08 CRISPR-Casヌクレアーゼを設計して、ゲノム配列特異的に機能し、抗生物質耐性菌にも有効な抗菌剤を創出する
  2. crisp_bio 2019-01-26 哺乳類動物遺伝子ドライブの試み
  3.  crisp_bio 2018-06-22自己増殖型CRISPR遺伝子ドライブシステムは、野生集団への侵襲性が高い可能性がある

[出典] Endogenous CRISPR-Cas System-Based Genome Editing and Antimicrobials: Review and Prospects. Li Y, Peng N. Front Microbiol. 2019-10-25

 CRISPRシステムの中で、ゲノム編集にはタイプ2システムのエフェクターのCas9、Cas12およびCas13が最も広く利用されているが、バクテリアとアーケア、特に極限微生物、のゲノム編集には効果的ではない。一方で、アーケアの殆どとバクテリアの半分のゲノムに種々のCRISPRシステムがコードされている。そこで、バクテリアとアーケアのゲノム編集には、前述のエフェクターを外部から導入することなく、内在CRISPR-Casシステムを利用することが試みられている。

 華中農業大学の研究チームが今回、CRISPR-Casシステムのクラス1と2およびタイプI/III/IVとタイプII/V/VIの分類とそれぞれのadaptaionからprocessingを経てinterferenceまでの機構 (Figure 1引用下図参照)を解説し、Endogenous 1
Streptococcus pneumoniaeS. mutansClostridium pasteurianumC. tyrobutyricum, Lactobacillus crispatus, Sulfolobus islandicusなどのゲノム編集の事例を紹介し、続いて、内在CRISPR-Casシステムによる抗菌剤の研究開発の状況を紹介し、最後に、新たな菌種にて内在CRISPR-Casシステムによるゲノム編集を実現するにあたり留意すべき点や、耐性の発生とその対策を展望した。

著者らも研究を進めている結核菌を標的とする内在CRISPR-Cas抗菌剤 (Figure 2引用下図参照)Endogenous 2
  • 結核菌 (Mycobacterium tuberculosis)ゲノムには、2つのCRISPR遺伝子座、6つのcsm遺伝子 (interference担当)、1つのcas6遺伝子 (crRNA processing担当)およびadaptationモジュールで構成されるサブタイプIII-A CRISPR-Casシステムがコードされている。サブタイプIII-A CRISPR-Casシステムは一般に、標的RNAの切断活性に加えて非選択的なssDNAとRNAの切断活性 (以下、コラテラル分解)を帯びている。結核菌はまた、比較的大量のバクテリオファージを帯びており、自身の染色体を標的とするgDNAを送達するに必要なファージの選択を可能とする。
  • 具体的には、マイコバクテリオファージTM4 (PH101ts)に由来するプラスミドphAE159により、必須遺伝子を標的とするスペーサを含む"反復配列-スペーサ-反復配列"からなる合成mini-CRISPRアレイを送達することで、内在Csm複合体を介して、結核菌の細胞死が誘導される。さらに、コラテラルRNA分解を介した結核菌の休眠化または細胞死も誘導される。

関連crisp_bio記事

[出典] Development of CRISPR-Cas13a-based antimicrobials capable of sequence-specific killing of target bacteria (Novel antimicrobials for AMR bacteria). Kiga K [..] Cut L. bioRxiv. 2019-10-17
  • 自治医科大学、国立感染症研究所ならびにUniversity of Glasgowの研究グループは今回、CRISPR-Cas13aの活性に基づいた一連の抗菌剤を開発し、PhagoCas13a、と称した。
  • バクテリオファージに組み入れて送達することで、PhagoCas13a(s)は、薬剤耐性遺伝子の認識が誘起するRNAのコラテラル分解を介して、カルバペネム耐性大腸菌とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を殺菌した。この殺菌性はハチノスツヅリガの胚をモデルで実証した。
  • さらに、PhagoCas13aに、カナマイシン耐性遺伝子またはハイグロマイシン耐性遺伝子を組み込むことで、該当する抗生物質を帯びた寒天培地上のコロニー形成の有無により、核酸増幅と光学機器を使う事なく簡便に、薬剤耐性遺伝子の判定が可能なことも実証した。

[出典] Genome-wide CRISPR/Cas9 library screening identified PHGDH as a critical driver for Sorafenib resistance in HCC. Wei L [..] Wong CCL, Wong CM. Nat Commun. 2019-10-15.
  • ソラフェニブはHCCの標準治療薬であるが耐性の発生を伴う。香港大学の研究グループは、ヒトGeCKO v2プール型ライブラリを利用して (原論文Fig 1-引用下図参照)、肝細胞癌細胞MHCC97Lにて、ソラフェニブ耐性をもたらす遺伝子をスクリーンし、セリン生合成パスウエイ (serine synthesis pathway, SSP) (原論文Fig. 4引用右下図の左上参照)の酵素PHGDH (ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ)を、ソラフェニブ耐性のドラーバーであると同定した。
PHGDH 1 PHGDH 4
  • ソラフェニブは細胞内のROSレベルを上げることで、細胞をアポトーシスへ誘導する。HCCはPHGDHの発現を誘導しSSPを活性化し、抗酸化物質とα-ケトグルタル酸 (α-KG)を生産することで、ソラフェニブに対する耐性を獲得する。
  • PHGDを標的とするRNAiノックダウンとCRISPR/Cas9ノックアウトにより、αKG、セリンおよびNADPHの生合成が抑制されることを確認した (右上図参照)。
    また、PHGDHの不活性化がROSレベルを上げ、ソラフェニブによるアポトーシスを誘導した。さらに、PHGDH阻害低分子NCT-503がソラフェニブと協働してHCCの増殖を阻害することをモデルマウスで確認した。
  • ソラフェニブ阻害機構について得られた知見は、FDA認可チロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase inhibitors (TKIs): レゴラフェニブレンバチニブ)についても成立し、PHGDHがTKI耐性の回避に有効であることが示唆された。

[出典] NEWS: Treatment for extreme drug-resistant tuberculosis wins US government approval. Maxmen A. Nature 2019-08-14; FDA Approves New Treatment for Highly Drug-Resistant Forms of Tuberculosis. TB Alliance. 2019-08-14.
  • WHOによると、世界中で毎年およそ50万人が多剤耐性結核(MDR-TB)と診断され、その8.5%が広範囲薬剤耐性結核 (extensively drug-resistant-TB: XDR-TB)である。XDR-TB患者は~8種類の抗結核剤を1年以上併用する必要があるが、これは重篤な副作用を伴い、現状では、XDR TBの3分の2が死亡していく。
  • MDR-TB治療薬としてこれまで、2012年にベダキリン (bedaquiline)が、2014年にデラマニド  (delaminid)が、いずれも少なくとも3種類の結核治療薬との併用を前提として承認されてきたが、6ヶ月間の投与に数百ドルから数千ドルを要し、患者の多くは (~80%)その恩恵を受けることができない。
  • 2019年8月14日になって、非営利団体The Global Alliance for TB Drug Development (TB Alliance)が開発してきたプレトマニド (pretomanid)が、XDT-TB、MDR-TBおよび既存の療法に耐えられないかまたは応答しない結核患者に対する三剤併用療法の薬剤として、Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs (LPAD pathway)の枠組みでFDAによって承認された。
  • これまでの三剤併用療法によるXDT-TBの治癒率が34%にとどまっていたところ、臨床試験Nix-TBにおいて、ベダキリン、pretomanidおよび高用量のリネゾリド(linezolid)  との6ヶ月にわたる三剤併用レジメン (BPaL) により、90%の治癒率を達成した。ただし、肝毒性、骨髄抑制、抹消および視神経症などの副作用が見られた。また、べダキリンとリネゾリド以外の薬剤との併用については安全性も効用も不明である。
  • プレトマニドのライセンスはNix-TBのパートナーであった米国マイラン社が獲得し、プレトマニドを含むBPaLの治療費が注目されている。

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