タグ:遺伝子治療

[出典] A mutation-independent CRISPR-Cas9–mediated gene targeting approach to treat a murine model of ornithine transcarbamylase deficiency. Wang L, Yang Y [..] Wilson JM. Sci Adv 2020-02-12

 標題疾患 (Ornithine transcarbamylase, OTC)は、X連鎖性準優性遺伝性で、尿素サイクルの異常から高アンモニア血症を引き起こし、新生児死亡も稀ではない疾患である (難病情報センター 平成22年度 )。遅発性OTCの治療には、新生児の段階でAAVを介して正常遺伝子をデリバリーする手法に可能性があるが、染色体に組み込まれない遺伝子は肝細胞が増殖して行く過程で細胞から失われるために、治療効果が継続しない。

 CRISPR-Cas9 HDRによって、OTC spfash マウス新生仔のOTCアレルG-to-A変異の修復は~10%の効率で可能である (Nat Biotechnol, 2016 )。しかし、OTC遺伝子には~320ヶ所に病因となる点変異や欠失が存在することから、この手法は、OTC患者ごとにAAVを設計することになるため、現実的な解決に至るには多大な困難を伴い、また、高アンモニア血症クライシスに対して即応できない。

 University of Pennsylvania, 四川大学華西医学中心ならびにChildren’s National Hospital (Washington)の研究グループは、遺伝子ターゲッティングによる治療法を開発した。
  • sgRNAと修復用ミニ遺伝子とSaCas9を2種類のAAV8で同時に新生仔にデリバリーしミニ遺伝子を肝臓特異的プロモーターで発現させることで、細胞内ミニ遺伝子による短期間であるが迅速な治療効果と、マウス染色体にノックインされたミニ遺伝子による長期間継続する治療効果を両立した (OTC遺伝子座とドナーベクターの構成について、Fig. 1引用下図参照)。OTC
  • 研究グループはまた、HDRを介したミニ遺伝子の挿入状況を解析する制限酵素を利用するLMU-PCR (ligation-mediated PCR coupled with unique molecular indices)法を開発したところ、設計以外のノックインが発生することを発見するに至った。
  • SaCas9-sgRNAが誘導した二本鎖DNA切断部位に、プロモーター、polyA、外来遺伝子、およびAAVのITRsを含むベクターの一部が挿入されていた。これらのうち比較的大規模な挿入は通常のPCRでは検出されないことに、Sci Advから同日公開されたSkryabinらの論文と同様に、インでしターゲッティングの結果の評価には注意する必要がある。

[出典] Base Editing Promise in Treating a Mouse Model of Progeria. Davies K. GEN Genetic Engineering & Biotechnology News. 2020-02-14.

 2020年2月8-13日にカナダのバンフで開催された“Engineering the Genome” Keystone Symposium [*]でのDavid Liuの口頭発表を、Kevin Davies  がレポート

 ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群 (HGPS) の患者のほとんどが、ヒト1番染色体に位置し細胞核の完全性に関与するラミンA遺伝子 (LMNA) の第11エクソンにc.1824C>Tの変異を帯びている (Nature, 2003 [1])。このHGPS変異がプロジェリン (progerin)と呼ばれる短縮形ラミンAタンパク質をもたらし、プロジェリンが細胞内に蓄積して早老症を引き起こすとされている。

 ヒトLMNA変異修復については、この変異を導入したトランスジェニックHGPSモデルマウスにおいて、SpCas9とSaCas9によってラミンAとプロジェリンの双方の発現を抑制することで、症状が改善され、寿命な伸びることが、Salk研究所のグループと、スペインと英国の共同研究チームにより報告されていた [crisp_bio 2018-05-30: 2]。

 Liuグループは今回、ABEmax [crisp_bio 2018-05-30: 3]を利用して、LMNA変異修復を試みた。
  • はじめに、HGPS患者由来の線維芽細胞において、ABEmaxを介して変異を90%まで修復可能なことを確認した。プロジェリンのRNAとタンパク質のレべルが顕著に低下し、細胞核が正常な形を取り戻した。CIRCLE-seq [CRISPRメモ_2018/10/22: 4]での検証では、オフターゲット編集は非検出であった。
  • 次に、ABEmaxを二分割することでHGPSモデルマウスへのAAV9によるデリバリを実現した上で、用量やデリバリ時期を変えて実験を繰り返し、出産後2週間が最適時期であることを同定した (なお、ヒトHGPSは生後生後6か月〜24か月間に好発する、とされている)。
  • ABEmaxによって、大動脈を含む多重な組織でプロジェリンのRNAとタンパク質のレベルがいずれも低下し、また、正常なLMNAの発現が上昇することを確認した。大腸脈は、組織学的にも、正常に復した。
  • マウス個体としても、ABEmaxを投与しなかったマウス (7.5月齢)は早老症の症状を呈し、ABEmaxを投与したマウス (8月齢)は溌剌としていた (注: 口頭発表でビデオで紹介された)。
  • ABEmaxデリバリによる寿命も延び、出産後数日でデリバリした場合は平均して78%延びた。出産後2週間でABEmaxをデリバリしたマウスの寿命は不明である (発表時点ではまだまだ元気にしていたので)。
[引用文献とcrisp_bio記事]
  1. Recurrent de novo point mutations in lamin A cause Hutchinson-Gilford progeria syndrome. Eriksson M [..] Collins FS. Nature 2002-04-25
  2. 2019-02-24 早老症のCRISPR-SpCas9またはSaCas9による遺伝子治療 (細胞モデルとマウスモデルにて)
  3. 2018-05-30 [第1項] 塩基エディターBE4とABEを、BE4max/AncBE4max/ABEmaxへと強化
  4. CRISPRメモ_2018/10/22 [第1項] [プロトコル] CIRCLE-seqによりCRISPR-Cas9のヌクレアーゼの活性をゲノムワイドで決定する
 [注*] Keystone Symposiaからの“take-home message”を前Editas Medicine CTOのVic Myerがツイート: 


[出典] Emerging patent landscape for non-viral vectors used for gene therapy. Picanço-Castro V [..] Figueiredo ML. Nat Biotechnol 2020-02-07.

 米国、ブラジルおよびギリシャのグループが、Integrity database (Clarivate Analytics)を情報源として4,692種類の遺伝子治療関連薬剤の登録データをもとに、研究機関、対象疾患、治療戦略 (in vivo/ex vivo)、遺伝子デリバリー法、ベクターの種類、および、生物学的試験から認可までの進捗状況、の動向を分析した。
  • 研究機関トップ3は、ペンシルベニア大学、フランスINSERM、そして、フロリダ大学の順であり、ex vivoが57%、癌と神経疾患が主たる対象であり、ウイルスベクターによるデリバリーが35%を占め、遺伝子治療のほとんどが生物学的試験と前臨床試験のステージにとどまっていた。
  • 上市されている遺伝子治療薬は16種類である。そのうち3種類が非ウイルスベクタに基づいていた。Human Stem Cells Institute (ロシア)のVEGF-165 、AnGes (日本)の肝細胞増殖因子 (HGF)をコードするDNAプラスミドであるコラテジェン、および、BiogenのSpinraza (ヌシネルセン)の3種類である。
  • 加えて、非ウイルス・ベクターに基づく遺伝子治療関連特許に絞り、主たる開発機関、利用技術動向、課題と解決の方向についても分析した。

[出典] Haplotyping by CRISPR-mediated DNA circularization (CRISPR-hapC) broadens allele-specific gene editing. You J [..] Luo Y, Lin L. Nucleic Acids Res. 2020-01-16
  • 中国BGIとデンマークAarhus Universityの研究グループからの論文
背景
  • OMIMデータベースによると顕性 (優性)機能獲得変異が、ヒト遺伝疾患の~36%を占めている。その遺伝子治療には病因変異を帯びているアレルを選択的に修復する必要がある。
  • 近年、CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトまたは相同組み換え修復 (HDR)を介して、問題のアレルを選択的に除去または置換が実現されている (原論文引用文献#5-#9参照)。この手法はしかし、疾患をもたらす顕性変異の多くが点変異であり、CRISPR-Casシステムはスペーサに相当するgRNAとのミスマッチが少数の配列も編集する可能性を帯びていることから、変異アレルとともに、野生型の正常アレルも改変するリスクを伴っている。
  • スペーサ領域の変異を手がかりにする前項手法に対して最近、変異アレルに特異的なPAM配列を手がかりとして変異アレルだけを高精度でノックアウトする手法が開発された (原論文引用文献#12-#14参照; #13のFig. 1引用下図 b およびCRISPR関連文献メモ_2016/01/29 [1]参照)。Allele apecific
  • 変異アレルに特異的なPAM配列を利用する手法はしかし、ハンチンチン遺伝子 (HTT)におけるCAG伸長をはじめとする反復配列伸長の領域に対しては適用できない。この手法はまた、疾患責任変異に対応するハプロタイプと利用可能なPAM配列を同定を必要としこれは、アレルに特異的なPAM (allele-specific PAM, asPAM)が疾患責任変異から遠位に位置している場合は特に、簡単ではない。たしかに、Oxford Nanopore、Bionano GenomicsおよびPacBioといったロングリードNGSによって、シーケンシングに基づくハプロタイピングが可能になったが、研究グループは、だれでもが利用可能な手法を目指した。
成果
  • 研究グループは先行研究で、一対のCas9-gRNAで染色体DNAから切り出された断片が染色体外で環状DNA (extrachromosomal circular DNA, eccDNA)を形成することを見出しCRISPR-Cとして報告していた (Nucleic Acids Res, 2018; crisp_bio記事[2])。このeccDNAの結合部には、染色体上で互いに遠位に位置していた領域が近接している。研究グループは今回、このCRISPR-Cの技術を利用してハプロタイピングが可能なことを示し、CRISPR-hapCとして報告した [原論文Figure 1引用下図参照]。Figure 1
  • 研究グループはさらに、CRISPR-hapCで得られた情報を生かして変異アレル特異的編集を実現するために、1000Kヒトゲノムデータベースからアレル特異的PAM (Allele-specific protospacer adjacent motif, asPAM)を生成する高頻度なSNPs (アレル頻度 > 30%)を同定し、その結果をasPAM-CRISPRデータベースへと集積し、Webサイトから公開した (CRISPRatlas; 2020-01-25時点で、SaCas9、SpCas9、xCas9およびCas12a (Cpf1)に対応するasPAMを含んでいる)。[現論文Figure 2引用下図参照]Figure 2
  • 研究グループは、asPAM-CRISPRとCRISPR-hapCに基づいて、ヘテロ型変異HTT遺伝子を帯びたモデル細胞および家族性アミロイドポリニューロパチー (FAP)に見られるトランスチレチン(TTR)遺伝子の第2エクソンの変異をおびたモデル細胞において、アレル特異的編集が可能なことを実証した。
[参考crisp_bio記事]
  1. CRISPR関連文献メモ_2016/01/29 [第1項] CRISPR/Cas9のPAM認識機構を、1塩基単位の修復に利用する
  2. CRISPRメモ_2018/08/30  [第2項] CRISPR-C: ヒト細胞においてCRISPR技術により遺伝子と染色体を環状化

[出典] Cytosine and adenine base editing of the brain, liver, retina, heart and skeletal muscle of mice via adeno-associated viruses. Levy JM [..] Liu DR. Nat Biomed Eng. 2020-01-14
  • 1塩基置換法であるCBEとABEは、そのサイズの問題から、遺伝子治療に広く利用されているAAVによるデリバリーが困難であった。CBEとABEそれに続くPE[*]を開発してきたDavide R. Liuの研究グループは今回、表題の手法を実現した (* 2019-10-22 David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs) 。
  • 2分割し、デュアルAAVsでデリバリーされたCBEまたはABEは、予め組み込んであったインテインを介して自動的に再構成され、脳、肝臓、網膜、心臓および骨格筋にて、しかるべき一塩基置換を実現した。効率はそれぞれ、59%、38%、38%、20%、および9%に達した。
  • また、運動失調などを呈する神経変性症の一種であるニーマン・ピック病C型の責任変異を修復し、その結果、神経変性の進行が遅れ寿命が伸びることを確認した。

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