1.CRISPR/Cas9とヒトiPSCにより遺伝変異の病原性を特定する
  • [出典] "Determining the Pathogenicity of a Genomic Variant of Uncertain Significance Using CRISPR/Cas9 and Human-Induced Pluripotent Stem Cells" Ma Ning [..] Wu JC. Circulation 2018 June 18.
  • 低コストで迅速な次世代シーケンシングによって、病原性であるか無いか明確では無い遺伝変異 (Variant of uncertain significance: VUS)データが大量に蓄積されてきている。
  • スタンフォード大学の研究チームは、ヒトiPSCとそのCRISPR/Cas9による遺伝子編集によって病原性を判定可能なことを、肥大性心筋症に関連しClinVarでは“likely pathogenic”とされているサルコメア遺伝子MYL3 変異をVUS遺伝子のモデルとして、実証した。
  • 肥大性心筋症 (hypertrophic cardiomyopathy: HCM)と関連するVUSであるMYL3ヘテロ型変異(170C>A)を帯びながら心疾患の病歴が無い無症状の"healthy"な個人から樹立したiPSCsをもとに、CRISPR/Cas9遺伝子編集を介して4種類の同質遺伝子的iPSCを作出:(1) 変異修復, (2) ホモ接合型変異, (3) ヘテロ型フレームシフト変異MYL3(170C>A/fs), (4) 病原性が特定されているMYS3(170C>G)変異
  • 4種類のiPSCsから誘導した心筋細胞 (iPSC-MS)の遺伝子発現、形態および機能を比較評価:(1), (2)および(3)のiPSC-MSsはHCMの疾患表現型を示さずMYL3(170C>A)の病原性が否定された。一方で、(4)のiPSC-MSおよびMYBPC3(961G>A) を帯びたHCM患者からのiPSC-MSは、HCMの表現型を示した。
  • [関連レビュー] 幹細胞研究におけるCRISPR/Cas9技術の利用と展望:"CRISPR/Cas9 in Stem Cell Research: Current Application and Future Perspective" Patmanathan SN, Gnanasegaran N, Lim MN, Husaini R, Fakiruddin KS, Zakaria Z. Curr Stem Cell Res Ther. 2018 Jun 12.
2.腫瘍細胞の不均一性がCRISPR-Cas9による癌の進行と薬剤感受性の研究に与える影響を排除する手
  • [出典] "Accounting for tumor heterogeneity when using CRISPR-Cas9 for cancer progression and drug sensitivity studies" Olive JF, Qin Y, DeCristo MJ, Laszewski T, Greathouse F, McAllister SS. PLoS One. 2018 Jun 13;13(6):e0198790.
  • CRISPR-Cas9遺伝子編集実験では、目的とする遺伝子編集を帯びた細胞のサブクローン集団と、コントロールとして遺伝子編集が起こらなかった細胞のサブクローン集団または親細胞の集団を利用することで、遺伝子編集の結果を評価していく。著者らは、この手法は腫瘍細胞の不均一性 (すわなち、コントロールの不均一性)からの擾乱を受けることから、下図A (原論文 Fig 2.の一部引用)にあるように、腫瘍不均一性
    遺伝子編集前にシングルセルクローニングのステップを入れることで、機能的に等価なコントロール細胞株と遺伝子編集細胞株との比較を可能にする手法を開発し、Her2陽性エストロゲン受容体陰性のマウス細胞 (野生型細胞)とオステオポンチン・ノックアウト細胞 (変異型細胞)のセットで、シングルセルクローニングの必要性と有用性を実証した。
3.HBV表面抗原 (HBsAg)をCRISPR/Cas9ノックアウトすると、HBV陽性肝細胞癌(HCC)の増殖と腫瘍形成性が阻害される
  • [出典] "CRISPR/Cas9‐mediated knockout of HBsAg inhibits proliferation and of HBV‐positive hepatocellular carcinoma cells" Song J, Zhang X, Ge Q, Yuan C, Chu L, Liang HF, Liao Z, Liu Q, Zhang Z, Zhang B. J Cell Biochem. 2018 Jun 15.
  • HBVゲノムのオープンリーディングフレームpreS1/preS2/Sを標的とするCas9-sgRNAsによりHBsAgをノックアウトしたHCCにおいて、HBsAgの発現低減、in vitroでのHCC増殖抑制、in vivoでの腫瘍性形成性抑制、およびIL-6の産生およびSTAT3シグナル伝達抑制を観察。一方で、HBsAgの過剰発現がpY-STAT3蓄積を亢進した。したがって、HBsAgは腫瘍系性能を帯びており、また、HBVを帯びた肝細胞癌における腫瘍形成にIL6-STAT3パスウエイが関与することが示唆される。
4.[レビュー]大規模CRISPRスクリーンにより、ノンコーディング領域をデコードする
  • [出典] "Decoding the noncoding genome via large-scale CRISPR screens" Shukla A, Huangfu D. Curr Opin Genet Dev. 2018 Jun 15;52:70-76.
  • CRISPRシステムによるハイスループットスクリーン技術による調節エレメントの機能解明、そこから得られた遺伝子調節と疾患発症機序に関する新たな知見をレビュー
5.米国コホート由来血清中に、Cas9導入に先んじて内在している抗Cas9抗体は、先行報告*よりも少量
  • [出典] "Prevalence of Pre-existing Antibodies to CRISPR-associated Nuclease Cas9 in the US Population" Simhadri VL, McGill J, McMahon S, Wang J,  Jiang H, Sauna ZE. Mol Ther Methods Clin Dev 2018 June 15
  • SaCas9とSpCas9に対する内在抗体をELISAでアッセイした結果
  • *) CRISPRメモ_2018/01/07- 2. ヒトはSpCas9とSaCas9に対する抗体を帯びている
  • [関連記事] CRISPRメモ_2018/04/06 - 1. ヒト細胞はSpCas9に対して特異的なエフェクターT細胞と制御性T細胞を生成する
6.Piwi-interacting RNA (piRNA)の機能解析研究からのTips