[出典] "Ultrafast neuronal imaging of dopamine dynamics with designed genetically encoded sensors" Patriarchi T, Cho JR [..] Tian L. Science. 2018 Jun 29. Published online 2018 May 31.

進化がもたらしたタンパク質循環置換とその利用
  • 1970年代にコカナバリンAで発見されたタンパク質の循環置換 (circular permutation)は、今では、蛍光タンパク質の蛍光強度、触媒活性、熱安定性などの向上に利用されている。
  • 天然タンパク質のN末端とC末端をリンカーで結合し、タンパク質の内部に新たにN末端とC末端を生成することで循環置換 (circular permutation: cp)タンパク質を作り出すことができる(下図左 モデル図と下図右 コカナバリンAとレクチンの対照を参照)
Circular_permutation 1 Circular_permutation 2
GPCR-IL-3 cpGFP (dLight1)
  • GPCRは細胞質内に3つのループが存在する (下図内の青色のループ)。Circular_permutation 3
    3番目のループ (IL3)内の最適な部位に循環置換したGFP (以下、cpGFP)を挿入することで、リガンド結合によるGPCRのコンフォメーション変化をpGFPの蛍光強度変化として読み取る超高感度バイオセンサー'GPCR-IL-3 cpGPF'を構築する手法を確立した。
  • この手法は任意のGPCRに適用可能であるが、ドーパミンD1受容体 (DRD1)-IL3 cpGFPバイオセンサー (dLight1と命名)について、マウス脳スライス標本および自由行動するマウス脳における詳細な検証実験を行った。
dLight1の特長
  • dLight1は、100nM程度の低濃度のドーパミンにも反応する一方でドーパミン以外の神経調節物質にはほとんど反応せず、DRD1の完全アゴニスト次いで部分アゴニストには反応した。また、その反応はDRD1アンタゴニストに阻害されたが、DRD2アンタゴニストには阻害されなかった。
  • HEK細胞およびDRD1発現U2OS細胞において、dLight1にドーパミン結合に依存する蛍光強度が見られる間も、cAMP産生の誘導・改変や細胞内移行を示さず、Gタンパク質やβアレスチンが関与するGPCRシグナル伝達には影響を与えないことが示唆された。
2光子励起顕微鏡 による線条体 (dorsal striatum)ex vivo/in vivoにおけるドーパミン放出観察
  • 線条体急性スライス標本において、電気刺激によりドーパミンの局所的放出が急速に立ち上がり150ms程度続くピークを経て400ms程度でベースラインにまで減衰する動態、再取り込み阻害剤 (コカイン)による減衰の遅延、DRD1アンタゴニストSKF83566による放出阻害などを確認した。
  • マウスの静止状態と自発的運動に依存するドーパミン放出も同様に観察し、運動の加速または減速に応じて、蛍光がそれぞれ亢進または沈静化することを見出した。
脳深部におけるドーパミンの動態観察
  • AAV9で送達した側坐核 (nucleus accumbent: NAc)におけるdLight1のGFP蛍光をファイバーフォトメトリー (fiber photometry:FP)で検出し、腹側被蓋野 (ventral tegmental area: VTA)ニューロンの光遺伝学的刺激による活性化をチャネルロドプシン変異体ChrimsonR(Chrimson K176R変異体)の赤色蛍光で検出する系を構築・利用した。その結果、細胞外ドーパミンの濃度が、ドーパミン作動性ニューロンの光活性化に伴って上昇し、GABA作動性ニューロンの光活性化に伴って低減することを見出した。
  • 次に、NAcをdLight1とカルシウム指示薬 jRGECO1aを併用したFPにより、期待している報酬 (スクロース)または予期せぬ刺激(フットショック)に応じた*、それぞれ、ドーパミン放出と局所的神経回路活性の亢進、または、ドーパミン放出の抑制と局所的神経回路活性の抑制、とを見出した。
  • パブロフ型条件付き学習*および報酬予測誤差*と、NAcにおけるドーパミン動態の相関も、NAcにおけるdLight1のFP観察で明らかになった。
  • *) 報酬学習参考資料:脳科学辞典「報酬予測
マウス脳皮質における機能的に多様なドーパミンの動態
  • 前頭前皮質と運動皮質をdLihgt1で標識・可視化し、2光子励起顕微鏡で、視覚からのキューと運動を関連付ける視覚運動変換学習 (visuomotor learning)時におけるドーパミン動態を、17x17μmの区画ごとに観察し、各区画と学習の各段階との関連付けを実現した。
他の神経調節物質センサーへの展開
  • それぞれ然るべきGPCRの改変により、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンおよびオピオイド神経ペプチドのバイオセンサーも作出